第67話 クレーム…ですか?

 今朝起きた時、俺は愕然とした


「何で今まで気付かなかったんだ…」


 夢の中で、俺は魔法の新しい使い方を発見した

 と言うか、ごく普通にそれを使いこなしていた


「あと少し考えれば思い付いてたじゃん!」


 旅に対する不安か、現状に対する不満か

 夢の中で俺は旅の不便を魔法で解決していた


「たしかこうして…できた…」


 収納魔法の入り口が動かせるようになってしばらくしてから、狩りをしてる間はお腰に着けたポーチの中に異空間の入り口を常時展開するようになった

 魔物の肉は基本的にコロちゃんが美味しく頂くとして、魔力結晶をそこにポンポン放り込んでいた

 そして、どうせ使い勝手が悪いからと複数設置できる別の異空間を完全に無視して放置していた


「常時展開と開閉使用の二つに絞れば、この感覚はどっちだっけみたいな事もなくなるんだよな」


 つまり、ポーチに魔力結晶用の異空間を常時展開

 そして使い分けの対象とする異空間を開けたり閉めたり…


「コロちゃん!これからは急いでる時も、お肉を無駄にしないで済むよ!魔力結晶の抜き出しだけしたら、残りは異空間で『おべんと』にできる!」


 ぷ、ぷるぷる


 コロちゃん、歓喜に震えるの巻


「あ、でも傷んだりする前に、早めに食べないとだめだからね?悪くなったの食べたら、またゲーしたくなるかもしれないから。多くてもその日の内に食べられる分だけにしようね」


 ぷるぷる


「え…味以外に困ることはないの?じゃあ、お腹痛くなったりもしない?」


 ぷるぷる


「そ、そっか。じゃあまあ…片っ端から入れていけばいいのかな?いいんだよね?」


 ぷるぷる!


 今日も元気だお肉が美味いみたいな


「ははは、やる気が漲ってるね、コロちゃん。でもダンジョンに行くのは午後からだからねー」


 ぷるぷる


 もうひとつ、夢の中では異空間を有効に使っていた

 中の形を操作して三和土を作ったり、出入り口を複数作って煙突効果で換気したり…


 …できないな


 所詮は夢の話か?

 まあ無理に異空間を長期生存可能な空間にする必要もないか


 とにかく今日の午前中はひたすら熟練度上げに集中だ!






「今日の目標は蛇を45匹だよ、コロちゃん」


 ぷるぷる


「絶対に達成しなきゃいけないわけじゃないんだけど、できたら蛇の魔力結晶が150個になるんだ。さすがにそんなには要らないだろうけど、ストックも含めて一応ね」


 しゅっしゅっ


 コロちゃんの新たなリアクション…アクションか?

 なんかジャブ打ってる?


「えっと、限界に挑戦…?」


 ぷるぷる


 食べるの全部後回しって事?

 倒した魔物を片っ端から放り込んで…

 重さは今のステータスなら大丈夫…かな?

 だめそうならその時に考えよう


 帰りにコロちゃんには異空間の中で食事してもらって…

 たしか入り口を閉じなきゃExpは入ったよな

 ギルドまでに間に合うかはわからないけど、そこは素材の対象じゃない方を優先してもらえばいいか

 手数料を取られてでも解体作業をしてもらってその間にコロちゃんには魔力結晶を…いや

 今日はコロちゃん、めいっぱい食べるのを楽しみにしてたんだよな


「コロちゃん、倒したらそのまま放り込むから、中で食べててくれる?入り口は開けっ放しにしとくから、Expも入るよ」


 ぷ、ぷるぷる


 コロちゃん歓喜の震え再びの巻


「うん、俺が頑張れば頑張るだけ、完全に食べ放題になるよ!俺、倒す人!コロちゃん、食べる人!この分業なら、今日はもうすんごい事になると思うよ!もちろん蜘蛛を放り込むなんてイジワルもしないから!」


 そう、限界への挑戦と、コロちゃんの食欲を両立させるには、これが一番だ


 ぷるぷる


「そうだね、ちょっと今の限界を知りたくなったから、今日はステータスを抑制しないで戦ってみるよ。4Fの広さなら敵が足りなくなる事もないだろうし、往復じゃなくてグルグル回れるしね」


 本気の本気だ

 今日は魔力結晶の剥ぎ取りの待ち時間もない

 いっそ気力とSPの続く限り休憩なしでやってみるか

 どうせ動けなくなってもこのステータスでやられる事もないだろうし、体力をギリギリまで使い切ったら異空間に避難すれば危険を完全に排除可能だ


 ぷるぷる


「うーん…わかった。今日はコロちゃんの倍化から効率に関係あるものを返してもらうね。守りに関係あるのは残しておくから」


 今のコロちゃんなら、素のステータスでもここの敵には負けてない

 でも効率に関係のないところくらいはコロちゃんに残そう


 ぷるぷる


「俺も気を付けるけど、トドメを刺しきれなかった敵からの不意打ちの可能性がある以上、コロちゃんも気を付けてね。まあ今日のステータスでそんな事はないだろうし、あったとしてもコロちゃんのステータスで不覚を取る事もないと思うけど」


 ぷるぷる


 やっぱりコロちゃん、自分は食べるだけでいいのか気になるのか

 これも立派な役割分担だし、いつものお礼も兼ねてるんだけどなー


「いいのいいの。正直ね、久しぶりにステータス全開の俺TUEEE!したくなったから。本気のペースで放り込み続けたら、もしかしたらコロちゃんの食べるペースだと間に合わないかもよー?」


 ぷ、ぷるぷる


 コロちゃんもチョロイン属性持ちだよなー


「ははは、それじゃ今日は倒すスピードと食べるスピードで勝負だね!異空間は真っ暗だけど…【魔力感知】あれば大丈夫だよね?」


 ぷるぷる


「大丈夫だけどスキル欲しいって…また苦しくならない?」


 ぷるぷる


「本当に大丈夫なんだね?じゃあ…」






 考えてみれば、本気と言うならもう一つできる事があったな

 飲むだけで即座に疲れが吹き飛び動き回れるという、栄養ドリンクどころじゃない効果でいい印象のなかったSPポーションを手持ちのお金で買えるだけ買い込んだ

 なんかアブナイお薬みたいで敬遠してたけど、どうせ普通に出回ってるんだ

 今日みたいな機会に覚悟を決めて体験しておくのもいいだろう

 一本だけ試しに飲んでみたら、めっちゃ辛かったけど…


 そして収納魔法は今日の場合は逆転だ

 コロちゃんが入ってる処理場異空間を常時展開して、SPポーションの入ってる保管庫の方は都度開く

 どうせMPも自然回復するようになったんだから、一度に数本飲んでしまえば、次に開く時には回復する


「それじゃコロちゃん、ダンジョンに向けて出発するからね。全力で走るから、フードの中か異空間に入っててくれる?」


 ぷるぷる


「わかった。じゃあ異空間を開くね。入り口は閉じないようにするけど、下以外のあちこちに移動するかもだから。あと、狭くなったら教えてね」


 ぷるぷる

 ぴょいん


 狭くなる間もなく喰らい尽くすつもりか

 俺も負けてられないな!

 …狩場の独占にならないようにだけ気をつけよう


「さあコロちゃん!デッパツだー!ヒャッハァー!」


 走る、疾走る、全力で向かう

 約束された場所へ!


 まあ最初はウォーミングアップを兼ねて交通事故が起きないようにゆっくりだけど

 ダンジョンへは8分かけて着いた

 ここからダンジョンへ入って、徐々にギアを上げていく


「ふっ!」


 最初の蝙蝠を両断する

 回収方法は考えてある

 拾う手間も惜しいから、異空間の入り口で空中キャッチだ

 これもコツを掴んでロスを減らしていかないと!


「コロちゃん、最初のお肉がそっちへ行ったよー」


 縦横無尽に走りながら敵を倒し、回収していく

 4Fには街を出てから20分で着いた

 ここからどんどん加速していくぞ!


「コロちゃん、どんどんお肉が行くからねー!」


 これでもかと食べまくるコロちゃんの喜びが伝わってくる


「もういっちょー!」


 心身ともに満腹感がないって事は、食べ物さえあれば食べる喜びを永遠に楽しめるんだな


「まだまだー!」


 今日はたーっぷり食べさせてあげるからね!


「お先にー!」


 途中で何度も他の冒険者を追い越し、4Fをひたすらグルグル回る

 MPの自然回復量がこうしている間にも増えているようで、もはや異空間程度は問題ない

 余裕も出てきたので、すれ違いざまに辻回復魔法をやったり、間合いの外の敵は魔法で倒したり

 とても攻撃に向かないはずの基礎魔法でさえ、今のMGCの高さに無理矢理気合を込めれば意外に使える


「そうだ、【魔法剣!】に【氷結魔法】を乗せて斬れば、切断面が凍って鮮度が落ちにくくなるな」


 要らぬ気遣いかもしれないけど、やっておいて損はないな!


「うはははは!俺TUEEE!!俺HAEEE!!!」






「苦情紛いの問合せが数件ありました」

「え」

「大別して2種類、あの暴走冒険者は一体誰で何のつもりであんな格下の場所で暴れていたのか、それと、新種の魔物でも現れたのか、と」


 十中八九、俺だよな

 リリアナお姉さんもそう確信してるっぽいし


「えーっと、現時点での限界を知りたくて…。あと一応、他人様の獲物には手を出さず、途中からは追い抜く度に無条件に回復魔法をかけてました。俺の正体については、これも途中からは【マジックフィルム!】に【保護色】というスキルを上掛けできるのに気付いたのでそれで外見を岩肌っぽく見せて、ステータスも読み取れないようにして俺だとわからないようにしてました」

「そこまですると味方かどうかの識別も実質不可能ですよね」

「言われてみれば確かに…」

「今後、無駄に不安を煽るような行為は自重してください」


 あー、正体を隠した謎の辻ヒーラーっぽい行動も、実際にされる側になると気持ち悪いもんか…


「すいませんでした」


 次があるとしたらステータスをてきとーにでっち上げておくか

 さすらいのお助けマン、みたいな名前とか

 少なくともステータス閲覧できる人には何かしら伝わるものがあるだろう、うん


「それで今日の結果ですが、ゴブリンが9、ゴブリンリーダーが2、ココチカバットが239、穴蔵ヤモリが208、マリボアが181で討伐数639、結晶と素材と討伐報酬がいつもの組合せで合計、587,150Gです」


 いつもの時間に切り上げて、帰りは普段のペースで移動した

 その間に、コロちゃんもキッチリ食べ尽くして間に合わせてくれた

 結局時間を気にするわけだからアラームが欲しいな


「コロちゃんたくさん食べたねー」


 ぷるぷる


「これだけの数を倒して、さぞや強くなって気分がいいんでしょうね…」


 なでなで

 ぷるぷる


 疲れてるはずなのにSPポーションで回復してるし、本当に簒奪者は俺によく馴染んで、ステータスもガンガン上がってるはずだ!

 まさに気分は最高にハイってやつだ!

 そんないい気分だった!

 途中までは


 あ、リリアナお姉さん、笑顔だけど頬が引きつってピクピクしてますね

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