第66話 騎士と書いてナイト

「ところでだヤマト、いっそのこと騎士団に」

「あーいやーちょーっと冒険者ギルドに借りがありましてー!」

「勧誘失敗だね、団長!」


 楽しそうだね、ミリア!


「あんなステータスやスキルを見せておいて、酷い男だ」


 会議だって見せたのに…とか呟いてる

 大の男が…しょぼーんと…


「そ、それにほら、もしかしたら俺の魂がこの場所に馴染むかもしれませんし」

「加護が消える可能性か」

「そしたらまた一から鍛えればいいんだよ!ボク手伝うからさ!」


 この子ほんまにええ子や…

 いやバトルジャンキー…ではないよな、きっと


「その時はよろしくね」

「ところで、旅に出るそうだな」

「ちょっとあの山の向こうまで」


 ニヤリとしながら、背中越しに親指で山を指し示す


「だからそれちょっとって距離じゃないし、向き間違えてるよ」

「ああ、ハスメールはあっちだな」


 あ、45度くらい間違えてた


「ヤヌタートまで、野暮用で」


 片目を瞑って親指と人差し指の間を少しだけ離すポーズ


「なんで大した用じゃないアピールしてるのさ」

「んー、願掛け?」

「ゲン担ぎ的には逆効果じゃないのか?」


 フラグ立てちゃったかー

 もうこうなればあれだ!

 多すぎる死亡フラグは生存フラグの法則で!


「なあに、軽く捻ってやりますよ」


 こう、コキャッとね

 あ、これ折ってるわ


「誰をだ?」

「…女神様?」

「いけないんだー」

「まあ冗談は置いておくとして」


 頼れる大男が懐をガサガサ


「なんでしょう?」

「これを持っていけ。紹介状だ」

「あの、まだこっちに慣れてなくて、どういう事なのか」

「旅の目的は言ってしまえば巡礼なわけだろ?」

「そういう事になりますね」

「ここの領主に、怪しい者ではありませんと一筆認めてもらえるようお願いするといい」

「え?領主…?伝手があるんですか!?」

「団長を何だと思ってるのさ…」

「何って…団長?」

「何の?」

「…き、騎士団?」


 俺、何か認識を間違ってたかな


「そうか、出身地はそもそも爵位がない場所だったのかも知れないな」

「そっかー。騎士爵って聞いた事ない?」

「あ…」


 たしか、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の下に…


「お貴族様!?」


 ガチで騎士と書いてナイトってヤツじゃないか!


「騎士爵は一代限りの称号で厳密には貴族ではないし、ついでに言えば領地もないぞ」

「でも血筋じゃなくて実力でここまで来た凄い人なんだよ!本来なら騎士って貴族の血筋ばっかりで、そうそうなれないんだって!」


 ぽかーんだよ、ぽかーん


「いや俺一人の力じゃないぞ。自警団の頑張りが認められて、代表で称号をもらっただけだ」

「まあこんな感じで本人は気にしてないんだけどね。でもおかげで自警団じゃなくて騎士団だったり、団員も職業としての騎士を名乗れるんだよ!あと役務?の提供と補助金…だっけ…?えーっと…」

「ともかく領都に行って、これを見せるといい。もしかしたら助けになるかもしれない」

「ねえ聞いてる?さっきから黙ってるけど」

「その、覚えてる限りの今までの人生で、爵位だとか領地だとかの話が目の前で行われてる記憶がないのであまりに衝撃的で…」


 そうか、騎士だから爵位とかあっても不思議ではないんだよな

 …貴族でないとは言え爵位持ちがボクっ娘の同士だのなんだの会議してたのか!


「と、とにかく、ありがとうございます!」

「ダメでもともと、よりは多少希望はある程度だがな。もしも認めてもらえれば、冒険者ギルドとの2枚看板で困った時には助けてもらえる可能性も増えるだろうし、あわよくば神殿の中での参拝も叶うかもしれない」

「おぉ…」

「まあそれも、いざとなったらステータスを見せれば一発だろうが…後が怖いしな」

「そうなんですよ…お約束的にも何かに利用されるならまだマシな方で、どっかで何かが間違うと最悪の場合は、こう…」


 セルフ首トンして見せると団長が頷く

 ミリアは、うわぁって顔してる


「あでももしかしたら、ちょうどいいから代わりにお参りしてきてーとか言われたりしてね」

「おかげ犬かぃ!」

「なにそれ?」

「飼い犬に託して、代わりにお参りしてもらう…文化?」

「そんなものがあるのか」

「無理でしょそんなの」

「あっちは魔物とか居ない世界だからね。俺はあったと信じる派。と言うか、それならもっと信用できて頼りになる人に頼むと思う」

「人と野生動物だけの世界って事かな?でも野生動物も襲ってくるのは居るよね…いまいち想像がつかないや」

「俺から見てもそういうのがあったのは過去の話だから、詳しい事はよくわかんないな…」

「あー、実は、ウチの騎士団の代わりというのもついでにお願いしたいんだが…こういうのは冒険者ギルドを通す依頼という類でもないのでな…」

「わかりました!そこは任せてください!」

「じゃあ頼んだ。紹介状は持っていて損することはないと思うからな」

「ほんとに、ありがとうございます!」






 ところ変わってココチカのダンジョン4Fでござーい


「コロちゃん、昨日はありがとね。今日は昨日みたいな心配しなくて大丈夫だからね?安全なステータスをちゃんと確保して練習するから」


 ぷるぷる


 ダウトー!ってか


「昨日は途中からコロちゃんが見ててくれたからステータスを下げられたんだよー。それだって安全マージンじゃないかー。コロちゃんを信頼してるって事なのにぃ…」


 ぷるぷる


「ありがとねコロちゃん!」


 ちゃんと説明すればわかってくれるコロちゃんチョロ…じゃなくて優しい!

 今日はコロちゃんが自由に動けるようにしよう!


「練習も兼ねて、今日は俺がコロちゃんを守るからね!」


 ぷるぷる


「ミリアがここがいいって言ってたでしょ?だから、それに向けての練習だよ。今日はコロちゃんは守られる側!」


 あ、ミリアとここに来る具体的な日付を聞き忘れたな…


 ぷるぷる


「まあ確かにここの敵ならまず一撃で終わるんだけどさ…いや、手を抜きたいんじゃないよ?逆だよ?」


 ぱたぱた


「く、空中はちょっと…さすがのミリアも飛べないだろうしさ」


 ぱたぱた


 所詮は地を這うのが人の…宿命と書いてさだめと読むみたいなアレか?


「コロちゃんだってもともと飛べないでしょー!」


 ぱたぱた


 難しい方が練習になるでしょーって飛んでっちゃった…

 そっちがその気なら!


「コロちゃんあぶなーい!」


 詳しい状況設定がよくわからないけどとにかく危険が危ない!

 重要人物を凶刃から守るSPのようにコロちゃんに跳びつきそのまま抱きかかえてその場を離れる!


「かはっ!」


 背中…背中打ったぁ

 両手で抱っこしてたら受け身が取れないもんな

 尖った岩とかにぶつけてたらもっと痛かったんだろうなあ…このステータスなら超痛い!で済むんだろうけど


「コ、コロちゃん…俺…守護れた、かな…ぐふっ…」


 回復魔法回復魔法回復魔法…ってコロちゃんがおろおろしながら回復魔法を連発してるー!?


「あ、じょ、冗談だよコロちゃん!俺ならほら元気だからほら!見てて!すぐにさっきのジャンプをもう一度見せてあげるから!」


 蝙蝠蝙蝠蝙蝠どこだ!?

 こういう時に限って蝙蝠がもうあのヤモリでいい!


「見てコロちゃんほら!」


 コロちゃんを抱っこしたままニンジャっぽく飛び上がって天井のヤモリを斬り裂く!そのまま天井を蹴って下に居る蛇を踏み潰す!奥の蛇は切り落とす!

 あ、ATKとMATKもっと下げ…どうでもいいか


「ほら見てコロちゃん!俺ちゃんと元気でしょ!?さっきの冗談はやりすぎた!ごめん!」


 ぷ、ぷるぷる


 あヤバい、これマジで怒らせた…?

 怒り心頭で、でも俺に怪我がなかったのかちゃんと確認してくれるコロちゃんマジ天使


「背中は運良く土にぶつかりステータスも高かったので怪我はありませんでした…」


 ぷるぷる


 冷静さを取り戻して今はさっきの状況がわかるそうで


「はい、そうです…そもそも敵と遭遇する前でした…」


 ぴょいん


 あああコロちゃんが腕の中から…


 ぷるぷる


 え、この岩?


「でもここゴツゴツ…」


 絶対にお尻が痛くなるよしかもここ湿ってるし…


 ぷるぷる


「はい…座りました」


 お膝を抱えて座りました

 お尻の肉が岩と骨に挟まれてゴリゴリ痛いです湿気が浸透してきて冷たいですクスン


 ぷるぷる


「コ、コロちゃん、正座なんて言葉…はい。正座しました…」


 ス、スネ!スネがあ!


 ぷるぷる


「はい。このような場所で不謹慎な冗談によって不要なご心配をおかけしてしまい誠に申し訳なく…はい…はい」


 ぷるぷる


 素直に頭を下げて謝る

 確かにコロちゃんは俺のステータスが見えない

 だから俺がコロちゃんを気にかける以上に、どんな時でもコロちゃんは俺の事を意識の片隅に置いてくれている

 そしてステータスが見えない以上、危険かどうか判断に迷ったら危険と判断するしかない


「昨日の今日だもんね。昨日だって危なくなる前にコロちゃんが敵を吹っ飛ばしてくれたから大丈夫だったし、コロちゃんが見てくれてるのをいい事に、調子に乗ってステータスを下げて皆に怒られたのにね…」


 ぴょいん

 べちべちんっ


「あ、俺も戦…まだですね、はい」


 その後しばらく、俺はコロちゃんが見張…敵を撃退してくれる中、ひたすら足の痛みに耐えていた






「あの、コロちゃん…もう足の感覚がなくなってきてて、それと俺もそろそろ練習をしたいのですが…」


 ぷるぷる


「あ…」


 便利だな、回復魔法


 ぷるぷる


「はい。たちの悪い冗談はもう言いません」


 ぷるぷる


「え、今から挽回するの?ステータスこのままで?…頑張ります」


 もうね、必死ですよ

 アホな事を考える暇もあんまりなくて、やる度に効率やら成長やらテーマを考えて、でもステータスはこのままで、敵をガンガン倒してく


 吹っ飛ばして一カ所に集めて切り刻むとか


「オラオラオラオラオラー!」


 コロちゃんが敵を集めてきたりとか


「はぁ、はぁ、ゲームならMISSとかAVOIDとかが重なりながら大量に表示されてたよな…」


 コロちゃんとの連携とか


「いくよコロちゃん!友情の…あ、こういうノリは歓迎なんだ」


 今までのステータスではやらない戦い方だったりを積み重ねていく


 考えてみれば俺ってVITも高いのにDEFの成長が遅いんだよな

 全体的にステータスが高すぎて忘れがちだけど、そもそも回避重視だった

 昨日の修行は原点回帰というより、まさに修行だったな

 原点回帰と言うならむしろ今日の方だ


 実はコロちゃん、コーチか何かの才能あるんじゃないのか?

 本人は楽しんでるだけの可能性があるけど、それに付き合うと色々成長できる気がする


「コロちゃん、俺を守ろうとしてくれるのはわかるよ。でも、何で積極的に魔物を狩るのを手伝ってくれるの?」


 ぷるぷる


「挽回?何の?」


 ぷるぷる


「え、うん…あまりひとの失敗をほじくり返すのはよくないね…」

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