第62話 気晴らしもダンジョン

「ステータス頼りすぎ良くないという結論が午前中に出たにもかかわらず、更には嫌いにもかかわらず、今日も親蜘蛛退治で強さとお金を稼ごうと思うんだけど…コロちゃんどう?」


 ぷ、ぷるぷる


 トラウマになってるか…


「今日一日だけでも、何とかならないかな…小さくなって隠れててくれればいいし、もちろん、食べなくてもいいよ?」


 ぱたぱた


 あ、逃げた…


「コロちゃーん!わかったから!もう蜘蛛のとこまで行かないからー!今日は蛇狩りしよう!魔力結晶が欲しいからー!」


 ぷ、ぷるぷる


 あ、居た

 物陰からこっちを覗き込んでる


「コロちゃん帰ってきてー。俺も本心では蜘蛛と会いたくないからさー。蛇狩りならMGC高めだし、ステータスも魔力結晶も美味しいからさー。それにコロちゃんも、蛇を食べて美味しいって言ってたでしょー?」


 ぱたぱた


「おかえりコロちゃん〜」


 なでなで

 ぷるぷる


「それじゃ、今日はココチカのダンジョンの第四階層でグルグルしてようか。天井が低ければ俺も【魔法剣!】でヤモリを倒せるし、今の全力のステータスなら多分、蛇の魔法すら効かないと思う」


 ぷるぷる


「だから気晴らしも兼ねて、蛇退治しに行こう!俺はせっかくだから修行する事にする!」






 ココチカの4Fは近くていいなー

 5Fまで行くと往復でざっくり30分、6Fに至っては往復1時間近くも移動時間が増える

 それに4Fは暗くないし蜘蛛も居ない!


 冒険者ギルドで蛇の討伐依頼を受けたけど、最低数はいつもクリアしてる

 ゴブリンと蜘蛛の親子は無視だ

 蝙蝠とヤモリは討伐依頼がなかったのが残念だ

 ついでに素材の買取部位も確認してきた

 今なら異空間に色々詰め込んでも大丈夫だし

 今までも持って帰ってればよかったくらいだ


 というわけで、今日はまったりと狩りをしよう


「コロちゃん、ヤモリの尻尾と蛇の舌は食べないでね」


 ぷるぷる


「あと、たまに落ちてるヤモリの尻尾も持って帰ろう。お金がたまったら、またお肉が買えるよ!倒した分も、全部食べてすぐになくなっちゃうよりも、一部をお金にしてからお肉を買った方がたくさん食べられるよ!」


 ぷ、ぷるぷる!


 おお、コロちゃんやる気だ


「さて、入り口に着いた。最初はちょっと試したいことがあるから、一匹ちょうだいね」


 ぷるぷる


 さっそく蝙蝠が一匹お出迎えか

 【マジックフィルム!】Lv2を拳から手首に纏って…


「今、必殺の…かうんたーぱーんち!」


 あ…

 壁に吹っ飛ぶかと思いきや手元で弾けた

 なかなかにグロイ

 魔力結晶は飛んでったのに返り血だけはきっちり浴びてる

 【マジックフィルム!】があって良かったほんと


「ごめんコロちゃん、食べるとこなくなっちゃった…」


 がーんっ!


「つ、次からは斬り捨てるから…」


 というわけで、練習を兼ねて正中線を狙う

 飛んでいかないように上から下へ…


 今度は真っ二つだ


「コロちゃんどうぞ」

 

 正中線からはさすがにズレてるかー


 今後どんなステータスの敵が出てくるかわからないから、安全マージンがある間に練習しとくべきか?

 コロちゃんに練習したいと頼んで、蝙蝠が現れる度に斬り捨てる

 やっぱりこれ、短剣術じゃなくて剣術じゃないかなー

 それも刀じゃなくて、剣かもしれない

 ただ、切れ味が凄いから、ステータスと【集中】を頼りに刃筋さえ立てれば簡単に斬れていく


「うーん、俺本来の体術に近いのは多分、短剣なんだよなー」


 もともと斬るより突く方が難易度が低かったくらいの理由だし、短剣に特別なこだわりがあるわけでもないけど…

 まあ適材適所で武器の長短を選べるのも強みだし、判断がつくまではフィーリングで決めるか


「さて引き籠もりーズの居る2Fだ」


 ほんとにこんな所に引き籠もって何がしたいんだろう?


「ここでも試したい事があるから、俺の上で待っててね。降りて来ると危ないよ」


 ぱたぱた


 よし、周りに人は居ないな


「安全確認よーし」


 さて、久々にやりますか


「ぴゅー♪」


 おお、洞窟だけあって響く響く

 で、これだけあちこちに響き渡ると発信源もわからないはずなのに、不思議と集まるわけですよ

 大量の回復アイテ…ゴブリンが


 集団で向かってくるゴブリンに…


「ちぇすとぉー!ちぇすとぉー!ちぇすとちぇすとぉー!うぉりゃー!」


 ああ、ゴブリンだけじゃなくゴブリンリーダーも居たんだっけ

 まあ今のステータスならみんな等しく塵芥だけど

 これだけあれば多少は奮発しても今日のMPは大丈夫だな


「おー、見事に胸で上下分割…」


 最大に伸ばした【魔法剣!】で薙ぎ払い

 最終的には旋風剣〜とか言いながら独楽のようにクルクル回ってみた


「うむ。余は満足じゃ」


 これだからステータス頼りは楽なんだよなぁ


「さあコロちゃん、めしあがれ」


 ゴブリンの魔力結晶は胸にあるのか

 心臓の代わりとか、そんな不思議設定なのかな?

 コロちゃんにぺっしてもらってばかりじゃアレだから、わかる分は自分で回収するかー


「あれ、魔力結晶のサイズが…もしかして未使用じゃなくなってる?」


 俺のMPは…回復してる


 おや?

 おやおやおや?


 魔力結晶を【魔法剣!】でつんつんしてみ…できない?


「あれ?」


 素通りして肉が切れてるような

 今度は取り出して、地面に置いて…


 つん

 スカッ


 つん

 スカッ


「触れない…」


 魔力結晶は【魔法剣!】で触れないのか

 使用済みになってるのもびっくりだけど、触れない…


「もしかしたら使用済みだからかも」


 なぜそうなったかはおいといて、未使用の魔力結晶を…


「触れない…」


 シンキングタ〜イム


 とりあえずの謎は二つある

 1.魔力結晶は状態に関わらず【魔法剣!】で触れない

 2.剥き出しになっている魔力結晶は使用済みの状態になっている


 えーっと、1を前提にすると、剥き出しになってるのは切断面付近にあったものが周りの肉に押し出されたわけではなく…1の結果として、傷付けられる事無く【魔法剣!】が素通りしたと仮定できる


 2の状態になってる原因は?

 魔力結晶に【魔法剣!】で触れない事とは別に、なぜか使用済みになっている理由

 今わかる二つの事柄の差異は…【魔法剣!】で触れたかどうか

 でもさっき【魔法剣!】でつんつんできなかった

 【魔法剣!】は魔力の塊だから?

 魔力結晶と魔力…


 ポクポクポク、チーン


 俺、ゴブリン達を敵というか、MP回復の手段として見てたよな

 あたかも流体多結晶合金のスライムが経験値にしか見えないかの如くだ

 

「試すのが手っ取り早いか」


 未使用の魔力結晶を地面に置いて…

 【魔法剣!】で触ってる状態にして…


「ちゅーっと」


 おぉ…


「使用済みになった…」


 えーっと

 1.とりあえず魔力結晶は【魔法剣!】では触れない、だから押したりできない

 2.【魔法剣!】は魔力結晶から魔力を吸い上げられる


「これを応用すると…」


 切断や、突きでも内蔵やらへのダメージではなく、魔力結晶から魔力を吸い上げる事による一撃死!?

 いやまあ、今の俺にそんな事を狙ってやる技量はないんだけど


 うーん…

 魔力を吸い上げる前提の敵に対しては、常にこの現象を意識していれば一撃必殺の可能性があるのか

 でも強い魔物なら魔力結晶は基本的に高く売れるしなー

 弱い魔物ならそれこそ普通に攻撃して倒せるし

 あんまり使い道がないなー

 せいぜい、魔力結晶を意識せずに攻撃ができるくらいか

 これに気付かずに昨日は蜘蛛を相手に無双してたって事だな

 もしこの現象がなかったら、昨日の収入はガクンと減っていたんだ

 とりあえずは感謝しておこう


「他に使い道は…」


 だめだ、足でリモコンを取るようなレベルで横着してる光景しか思い浮かばない


「えーっと…」


 魔力を吸い上げられる

 魔力のストロー?

 魔力の通り道?

 【魔法剣!】に魔力が通る…


「あー!」


 びくっ!


「あ、ごめんねコロちゃん、びっくりしちゃった?」


 ぷ、ぷるぷる


「大丈夫、コロちゃんは何も悪くないから!俺がちょっと考え事してて思いついただけだから!」


 ぷるぷる


 コロちゃん、あのトラウマ味から若干臆病になってるっぽいな


「コロちゃん、俺はいつだってコロちゃんの味方のつもりだからね。俺の傍…じゃない時なんてまずないけど、俺の傍では安心してていいからね?エルダースライムに変化した時みたいな事は、もうないようにするから…」


 すりすり


「ははは、これからもよろしくね、コロちゃん」


 ぷるぷる


 どうやら俺が考え事をしている間、襲ってきた蝙蝠を退治してくれていたようだ

 勝手な事をして怒られたと思ったのか


「いつもありがとね、コロちゃん」


 なでなで

 ぷるぷる


 で、えーっと…

 なんだっけ…


 そうだ、【魔法剣!】だ


 魔力で作ったから本来は魔力剣とでも呼んでおかしくない

 魔法剣と名付けたなら、やっぱり魔法を纏えるはず!


「とりあえず着火でいいか」


 【魔法剣!】に向かって着火の魔法を…


「すっげー…」


 一旦消して


「これはもうやるしかないだろう」


 氷結魔法!


 ねんがんの こおりブレードをてにいれたぞ!

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