第52話 猫の居る休日

 騎士団での議論は白熱した

 それぞれの主張がぶつかりあい、時には罵り合いながらも、その根底にはミリアを大事に思う心が溢れていた…と思う

 次回の教育方針会議では別の見習いの人についてを論じるらしい…本当に大丈夫なんだろうか

 ともあれ


 猫耳


 ボクっ娘


 女騎士


 そこに『くっころ』を認めるかどうか


 そもそもどの要素を排除し、どの要素を守っていくべきか

 結局のところ、結論は出なかった

 そこんとこは本人に任せるらしい

 いや猫耳と女騎士は排除のしようがないんだけど


 まあもうすぐ成人だしな

 それに、ミリアはあんな内容の会議になってしまうくらいには手がかからない見習いって事なんだろう


「ミリア、騎士団のみんなに愛されてるんだな…」

「ん?みんな優しくしてくれるよ!訓練の時は鬼のようだけどねー」

「思ったより長くかかりましたね〜」

「どんな会議だったのさ?」

「えーっと…それはほら、守秘義務とかいろいろ」

「ぶぅ。いっつもボクを除け者にして会議をするんだよねー。特に会議の最後だけは絶対に参加させてくれないの」

「詳細はともかく方向性も秘密なんですか〜?」

「騎士団は間違いなく、この街や周辺に住む人達の為に身命を賭しているよ。その思いを痛感させられる内容だった」

「それはわかるんだけどさー。会議の最後だけは絶対にだめなんだよね。先輩の女性騎士に連れ出されちゃうから気になっちゃって」

「女性は参加しないんですか〜?」

「なんか、だめな大人と関わるくらいなら私達と仲良くしましょうって、お茶会に誘われたり、着せ替え人形にされたり、女性だけの集まりになっちゃうの。姉と呼んでーとか、プリーツを乱すなーとか」


 おぅふ…

 ヅカではなくキマシなのか

 ほんとにくっころなのか

 聖母が見てるのか

 塔が建つのか


 あ、団服を返却する時、団長に着心地を訊ねられた

 着たからってどうこうするつもりはないって言ってたけど、やっぱり多少は期待するところはあったらしい

 ミリアをこっそりフォローしてくれる人材はどこかに居ないものかなーとか聞こえるように呟いてたし


「ほんと、愛されてるな…」

「なんでそんな優しい目で遠くを見つめてるのさ…」

 





 みんなで食べるお昼御飯もおいしかったです


 ミリアも俺と同じようにノーラに調教済みだった

 食事中にしゃべるのはお行儀悪いって?

 こういうときこそ念話の出番だ!

 しかも慣れてしまえば、口に物が入っていようが関係ない!

 ノーラは珍しく、ぐぬぬって顔をしてた


 【パーティ】のスキルLvが3になっててちょうど良かった

 俺とコロちゃん、ノーラ、ミリアの4人でパーティを組めば、コロちゃんが会話に参加できる

 コロちゃんは誰にでも人気だなー


 もちろんコロちゃんには前もって、会議の内容を二人には秘密にするように釘を差しておいた

 コロちゃんは不思議そうな様子だったが、とりあえずは了承してくれた


 コロちゃんは穢れがない純粋な存在だなー

 いや、この教会に居る存在は穢れてない

 

 汚れつちまつた悲しみは俺が背負えば…あれ?これ、なんだっけ?


 アホな事を言ってないで練習するか

 ミリアが居る流れで、なんとなく今日はダンジョンもお休みだ


 さて、半日過ぎた俺のMPは…


「減ってない」


 こ、これは…異空間を小さくすると、維持にかかるMPも減るという事か!

 じゃあわざわざ変形させて仕切りをつけなくても、小分けにすれば!

 財布とスマホ、お役立ちノートにリリアナお姉さんのお手製地図を専用の空間に入れて…


「あ、区別がつかない」


 …どうせ使い分けができないなら、結局は変形させてひとつにまとめた方がMPの節約になるな

 間違った方を開いたら、開き直しでMPを浪費するし


「消費MPが減ったのはありがたいけど、結局は使い勝手が微妙だな…」


 とりあえず物が溢れるまでは、このまま一つを使い続ける感じでいいか

 今のMGCで異空間をひとつ最大にしたら、空気の重さだけで8キロくらいになる計算だし


 しかしこれ、もしも区別がつくようになって、壁の移動でプレス機のような圧力をかけられたら…


「何してるのー?」


 おっと


「ああ、魔法の練習をね」

「あー。どっちつかずになっちゃうやつだー」


 痛いとこ突くなー


「いやいや、ちゃんと実用品になってるよ」

「じゃあ魔法の方が向いてるんじゃないの?」

「うーん…それはそれでショックだな…」

「何が使えるのさ?」

「回復魔法…」

「ノーラに作ってもらったんだってね」

「うん。俺とコロちゃんの分ね」

「コロちゃんも覚えたの!?どんだけの熟練度を使わせたのさ!?」

「あ、ちゃんと熟練度回復用に魔力結晶を用意したから」

「それ聞いたよ!MPポーションじゃなくて魔力結晶なんて贅沢な使い方だね!」

「だってあれマズいじゃん…お腹タプタプになるし」

「いやでも…幾つ用意したの?」

「11個が1セットで…何種類かあったけど、合計で10セットを越えた…?かな?」

「…魔力結晶を3桁も使ったんだ」

「まあ、ゴブリンあたりは口笛を吹けば集まってくるし」

「それでゴブリンの天敵なんて呼ばれるまで頑張ったんだー」


 確かそう呼ばれ始めた後だったと思うけど…

 訂正しなくてもいいか


「他はどんなの?」

「う…【基礎魔法】…」

「…他は?」


 …言うのか?

 アレを?

 えー…


「ま、【魔法剣!】」

「ん?なんか妙に気合入ってない?」

「だから…【魔法剣!】だよ…」

「えーっと…叫ぶところまでが、魔法の名前?」

「魔法って言うか…魔力を使ったスキル?まぁ、魔法?」

「なにそれどんなの?」

「あと【マジックフィルム!】ってのがあって、根本的には同じ事してる…」

「だからなにそれ?」

「じゃあ…この枝を折ってみて」

「え?うん」


 まあ、普通の枝だもん

 普通に折れますよ当然


「普通の枝だったよね?」

「そだね」

「じゃあ…俺が端っこを持つから、それを折ってみて」

「わかった…あれ?」

「どう?」

「ちょ、ちょっと貸して!」

「あ、手から離すと…」

「あれ?」


 そりゃまあ、そうなるよね


「俺が触ってないとだめなんだよ」

「でもその時は折れなかったよ!今のが【魔法剣!】なの?こんなのどこで覚えたのさ!?」

「一言で言うと、創ったんだよ。まあ似たような効果の魔法はどこかにあるだろうけどね」

「たしかに丈夫にするのはあるけどさー創ったって…」

「ともかく今はこれをしないと、武器がすぐにだめになっちゃうんだよね」

「短剣使いなのにどんだけ力任せで斬り付けてるのさ…急所を刺すとか、色々あるでしょ?」

「これ見てよ」

「市販の安いナイフだね」

「これで、ちょっと強い敵と戦うと、どうしてもね」

「え、なに?武器をケチる為にこんなスキルをわざわざ創ったの?」

「あと、【マジックフィルム!】の方は、返り血で服が汚れて怒られるからさ…」

「多少は仕方ないんじゃないの?しかも怒られるって、子供じゃないんだからさー」

「いやその、全身が血塗れで…」

「え…帰ってきてドン引きされなかった?」

「されたされた。よく衛兵に捕まらなかったなーとか言われた。あとノーラに心配かけて泣きながら怒られた」

「うわー、どんだけ倒してるのさ」

「例えばココチカのダンジョンだと、一度潜ると50は下らないかな…?」

「どれくらい潜るの?」

「半日…と言うか、まあ、実質数時間?」

「あのハジメはどこいったんだろ。ほんと魔物には強いんだね」


 だってステータスで大きく勝ってれば後は動きとかも大して考えなくていいし…


「あーあ、誕生日が待ち遠しいなー早くハジメに魔物討伐に連れてって欲しいよー」

「そうだ、誕生日はいつなの?」

「ん?あと6日だよ!」

「近い!」

「へっへー。そしたら正式に入団して、ここに帰ってくるからねー!これでいつでも手合わせできるね!」

「あー、その事なんだけど…」

「なになにー?負け続けで嫌になっちゃったー?」

「いや、そのうち旅に出ようと思っててさ」

「…どこ行くの?」

「ハスメールを越えて、ヤヌタートまで」

「それは…たしかに旅だね。ちょっとお出かけって感じじゃないよ。いつ?」

「近いうちかな。ハッキリとは決めてないけど、もう少しだけ鍛えて必要そうなものを買い込んだりしてから」

「じゃあさ、ボクが16になるまで…なってから最初の休みが貰えるまでは、大丈夫…だよね?」

「まあ、それくらいなら」

「ほんとに!?やったー!じゃあ魔物の討伐に連れてってよ!」

「んー、まあ、大丈夫…かな?魔物相手は勝手が違うから、そこは覚えておいてね?」

「さっすが魔物相手だと言うこと違うねー」

「ははは…」

「ね、そろそろ動けるでしょ?また手合わせしようよ!」

「あー、確かにそろそろ大丈夫かな」


 ステータスを下げた状態の手合わせは、昨日の事があったから、練習になる程度にしてくれた

 そして、SPDだけ全力でATKを限界まで下げて試したりもして、ミリアにとっても良い刺激になったようだし、俺も本気の動きを観察できて勉強になった

 コロちゃんとやってた訓練も、できるだけステータスを揃えてミリアにやらせてみたら好評だった

 こういう事ばっかりやってるから対魔物に偏ってくんだよーとか言われたけど…

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