第51話 人としての軸

「やはり、悪い人に騙されそうですね。もちろんシスターの事ではないですよ」


 今日は色々と余計な事を喋っちゃったな

 ついでだからもう一つ暴露しちゃうか


「もう一つ白状すると、俺が居ない間は誰か雇って教会を守ってもらいたいなーとか思ってました」

「この間のような事はそうそうないと思いますが」

「今度、騎士団の寮から旧孤児院に戻る子が居るので、その心配はなくなりましたが」

「子、と言う事は成人前ですか?」

「もうすぐ成人ですけどね。めっちゃ強いです。この間、手合わせしたんですけど…もう完敗って感じです」

「ハジメさんがですか?」


 ミリアがどれだけ強かったか、俺がどれだけ押されてたか、動きを交えて微に入り細を穿ち解説した

 もう画面の向こう側の住人かよってレベルだったなアレは


「どうもその時、俺の強さはLv45相当だったらしいんですけど、相手はLv15でした」

「もしかして、ステータスを見せました?」

「最終的にはアドバイス通りに調整して、算出値だけはそのままで。Lvに関してはそもそも俺の戦いぶりから予想してもらいました」

「戦いぶりから予想とは、随分と凄い人なんですね」

「予想したのは立ち会った団長ですよ」

「騎士団の、ですか?」

「はい。明日、午前中の会議に参加しないかって誘われてます」


 あ、最初に会った日にも何か言われたな

 話の流れからして、確かミリア関係…


「ハジメさん。ハジメさんは冒険者です。リスガー冒険者ギルドの一員です。我々の仲間です」


 お、おう

 急になんだ


「そうですね」

「無理強いはできませんが、騎士団に移るなんて事は…」

「そういえば前にノーラに怒られた時に、いっそ騎士団にでも入ってしまえと言われましたよははは…」

「はぁ…」

「あ、あれ?」


 これ、言ったら怒られるヤツだったか…?

 俺、また何かやっちゃっいました?

 本日二回目?


「旧孤児院出身者が騎士団員で…」

「今は見習いですけどね」

「騎士団見習いで、話を聞くと女の子。想いを寄せるシスターはもちろんその子と仲は良いでしょうし、更にはハジメさん自身が団長との繋がりがあり将来を期待されていると」

「いや想いを寄せるってそんな…」


 って言うか、ミリアの事もある意味で心配されてる?

 俺、そんな無節操で惚れっぽくないし自分の事はわかってるよ?

 確かに猫耳ボクっ娘で将来は女騎


「ハジメさん、冒険者との交流はしていますか?」

「ダ、ダンジョンで挨拶したりは」

「共闘したりは?」

「必要があれば助けるつもりですけど…俺自身は正直、コロちゃんが居ればそれで」


 ねー


 なでなで

 ぷるぷる


「冒険者ギルドからの人材流出の危機ですね…」

「え?いやいやいや、それは…」

「ない、と言い切れますか?」

「…旅が終わったら、その可能性も。盗賊団の件で、その考えも浮かびました」

「止めておいた方が良いです」


 おっと


「その心は?」

「ハジメさんは恐らく、集団行動や集団生活には向いていません。ステータス頼りに突っ込むでしょうから」


 うわー俺の心がバッサリと切り捨てられたー

 いいや、そのまま言ってやれ


「うわー俺の心がバッサリと切り捨てられたー」

「お金だって、冒険者の方が能力をいかんなく発揮して騎士団よりも稼げます」

「お金、大事」


 ノーラに無茶はさせたくない


「魔物を討伐する事だって、誰かを守る事になります。魔物ではなく人が相手でも、賞金首なら冒険者にだって狙えます。そもそも一市民として、悪人を捕まえて突き出す事もできます。この前はそうしましたよね?それに冒険者ギルド」

「わー!わー!待って!待って!待ってください!」

「…失礼しました」

「きょ、今日は長居し過ぎたので、これで失礼しますね!」

「はい…お疲れ様でした…」


 よし帰ろう

 帰ってノーラの作ってくれる晩ご飯食べて、お風呂に入って魔法の練習して寝よう!

 あ、寝る前に異空間の実験を仕込んでおくか

 時間が経ってどれだけMPが減ってるかでわかるはず

 そうと決まったらさっさと帰ろう!






「ただいまー」

「おかえりです〜」

「おかえりー」


 …ん?


「ボクもうお腹空いちゃったよー。早く食べよう!」

「今準備しますね〜」

「ほらほら、ハジメも荷物を置いて、手を洗っておいでよ!コロちゃんはこっちねー」


 ぴょいん


「ミリア?」

「ん?」

「ミリアだよね」

「うん」

「…なんで?」

「今度の休みは帰るって言ったと思うけど…?」


 そうか!

 明日の会議はやっぱりミリア関係なんだ!

 何だ!?何が起きる!?


「それより早く準備してきてよー。それで晩ご飯食べたらさ、お風呂の前に一回手合わせしようよ!」

「お、おうともさ」


 試しにミリアと同じステータスにして手合わせしてみたら、前の比じゃないほどの負けっぷりだった

 前回は完敗なんかじゃなかった

 本当の完敗は…こっちだ






「それでは、今日の議題は最後のひとつとなった」


 朝9時前


「ここで、本日の重要なゲストを紹介しておこう」


 俺はノーラとミリアに見送られ、コロちゃんと共にリスガー騎士団本部へとやってきた


「彼を知らない者は、彼が一体何者で、何故ここに居るのかと」


 部外者であるはずの俺は、促されるがままに会議室へと通され会議に参加…見学させられた


「また彼を知る者は、それぞれに思うところもあるだろうと思う」


 騎士団の活動内容の報告やこれからの課題、方針などを真剣な表情で話し合う様は、この街の住民として非常に頼もしく思えた


「大きなくくりで言えば、彼は我々の同士である」


 中には俺に聞かせてもいいのかと思うような話もあったが、それも含めて俺がどうすればいいのかわかっている


「根本的な部分で共通する価値観を共有できる存在であると、私は確信している」


 俺をこの場に呼んだ団長の面子を潰さぬよう、そしてミリアの友人として恥ずかしくない振る舞いをすればいいだけだ


「ではヤマト、自己紹介を頼む」


 俺は堂々と椅子から立ち上がり、辺りを見回し、集まる視線を受け止めながら挨拶をした


「え、えっと!ぼ、冒険者のヤマトです!あ、新人です!登録して…1週間が過ぎたところです!えー、教会でお世話になっています!せ、先日はダンジョンで助けて頂いて、ありがとうございました!」


 やっべ、今、声が裏返ってなかったか!?


 まばらな拍手

 何人かは頷いている


「よろしい。席についてくれ。今の自己紹介でもあったように、先日のココチカダンジョンでの盗賊団殲滅作業の立役者の一人だ。盗賊団を一箇所に集め、我々の前に誘導し、最終的に短剣の一撃でラジーの首を落とした」


 大丈夫かなー

 美味しいとこを持って行きやがってとか思われてないかなー


「また、知っている者も居ると思うが、ミリアと手合わせした冒険者というのも彼だ。今日はその時に交わした約束を果たすため、ご足労願った」


 本題キター!

 何!?

 俺、なんか怒られるの!?

 手を出しやがってとか、悪い虫は排除するとか!?


「さきほど言った価値観、その同士である!猫耳ボクっ娘女騎士フェミリアの将来について!自由闊達に忌憚のない意見を交わして欲しい!」


 …え?


「団長!訂正です!猫耳ボクっころ女騎士です!」


 えーっと、くっころ?


「馬鹿かてめえは!いくら女騎士だからって『くっころ』要素なんぞ足してたまるか!」

「ミリアは大事な大事なボクっ娘だ!他の要素なんぞ要らん!」


 なにこれ


「だが待って欲しい!このまま長ずるにつれ、ボクっ娘成分は痛々しい要素となってしまう!ゆえに!ボクっ娘成分を緩やかに排除していくべきではなかろうか!」


 あ、うん、それ大事だね

 本人の将来を考えてあげるならね


「だが貴重なボクっ娘が…」

「お前らいい加減にしろ!そんな痛々しい要素は全部なくして、一人の立派なレディとして育つように導き、見守るべきではないのか!」

「そんな無個性な存在は要らない!」


 無個性…

 無個性ときたか…


「あのー、そもそも騎士団で…ひっ!」


 視線が…

 視線が恐いよー


「ヤマト、せっかくの機会だ。言いたい事があれば遠慮なく言うといい」

「は、はい!騎士団という環境で育つと、必然的に『くっころ』要素が加わるん…じゃない、かなー…と…」

「そうなんだヤマト!このままでは『くっころ』などという危険な要素が加わってしまうのだ!父親代わりを自負する俺としてはそのような」


 そ、そうだよな

 くっころ属性を発揮する機会があるって事は、ピンチって事だもんな

 くっころ属性が発覚する機会があるって事も、ピンチって事だもんな


「だからこそです!騎士団に所属する女性陣は少なからず『くっころ』要素を備えてしまう!このままでは我々の癒やしの存在が消えてしまうのです!だからこそ一人の立派なレディとして」

「否!否否否!くっころ要素を備えたとて女性としての優しさや美しさを損なうものではない!むしろ」

「存在価値を高める要素のひとつだ!くっころ姫騎士に並び立つ存在として、ボクっころ女騎士という存在が」


 姫だろうとボクっ娘だろうと女騎士という時点でくっころ要素との親和性は高いかと…


「そこはボクっ娘成分を排除してくっころ姫騎士として我々で育て上げるべきだ!」

「だが姫騎士というものは生来備わる姫という要素があってこそであって!」

「もはや彼女は我らにとって姫のような存在ではないか!」

「似て非なる存在だ!紛い物で誤魔化すとは不届き千万、彼女の本質を見て」

「だから何度も言っているだろう!余計な要素を排除して彼女自身の生来の気質を大切に立派なレディ」


 あー…

 だめな大人がたくさん居るこの空間が心地いい…

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