第50話 もはや生理的に

「さてコロちゃん、ここから先は5Fだけど…なんか真っ暗だよね」


 ぷるぷる


「行くよ。でも気を付けて行こう。見えない敵に襲われるのは恐いし」


 ぷるぷる


「そう言えば捕食で【熱感知】を覚えたんだっけ…俺も覚えるまで狩ろうかなあ」


 ぷるぷる


「でも【熱感知】でも、地形まではわからなそうだし…って、なんか来てる!」


 ぷるぷる


「く、蜘蛛だ…デカイ…ってこっち来る!?やだ!蜘蛛いやだ!キモい!恐い!ちょ、コロちゃん助けて!」


 ぴょいん

 べちんっ


===

 - ディアパラタ 0 -

 状態:正常

 Lv 8 Exp 965

 HP 84/195

 MP 42/42

 SP 159/161

 ATK 168

 DEF 167

 MATK 28

 MDEF 25

 SPD 227

 STR 191

 VIT 215

 MGC 66

 AGI 268

 スキル:振動感知、捕食Lv1

===

ーーー

振動感知

  微細な振動を感知する

ーーー


「地味に強いしもうやだー!」


 ぱたぱた

 べちんべちんべちんっ


「やだやだやだもうやだお家帰る〜!」


 つんつん


「ひぃっ!」


 ぺちぺち


「こ、コロちゃん?」


 ぷるぷる

 ひしっ!

 ぷ、ぷるぷる


「うん、もう大丈夫…ありがとねコロちゃん…」


 ぷ、ぷるぷる


「どうしよっか…ここまでの敵で、一番MGC的に美味しいのは少し戻ったとこの蛇だよね…」


 ぷ、ぷるぷる


「爬虫類的なのは苦手で済むけど、蜘蛛とかの虫系はちょっと…」


 ぷ、ぷるぷる


「蜘蛛、美味しかったの?…うーん…となると、いよいよもって遠距離攻撃が欲しい…」


 ぷ、ぷるぷる


「あ、ごめんねコロちゃん…今度こそもう大丈夫だから」


 ぷるぷる


「今は4時か…街へ戻ってギルドへ行こうか。ここの魔力結晶の値段すら知らないし」


 ぷるぷる


「う…フードの中で、俺の背中を守ってくれる?」


 するする

 もぞもぞ


「助かるよコロちゃん…ほんとありがとう…」


 ぷるぷる






 冷静に考えて、ステータス的には余裕だったよな


「あ、蝙蝠」


 でもダメなものはダメ


「ヤモリだ」


 この先、巨大なGとか出たらどうしよう…


「また蝙蝠」


 ここは地球じゃないけど火星でもないんだからさー


「蛇だ」


 なんか巨大蜘蛛の後だと、蛇やらトカゲやら大した問題じゃないな


「蝙蝠か」


 本当は蝙蝠だって見た目にキモいんだけどさ


「蛇だ」


 ぷるぷる


「うん、背中を安心して任せられる相棒が居てくれて心強いよ」


 ぷるぷる


「うーん、ここまで来たら、蜘蛛も出ないかな…」


 ぴょいん

 ぱたぱた


「わかった。でも、コロちゃんが捕食前に回復魔法の熟練度を稼ぐ時間があるから、ゆっくり歩くよ」


 ぱたぱた


 帰りは本当に順調だなー






 街に着いたのは17時過ぎだった

 ざっくり計算して、各階層の移動にそれぞれ15分、ダンジョンから街まで15分、75分だな

 次回からは4F…5Fを狩場にするとして、往復で2時間半か

 ステータス頼りにジョギングすれば2時間くらいで往復できないかな


「こんばんはー」

「あらヤマトさん、昨日はどうしたんですか?」

「昨日は…コロちゃんが飛び回って大活躍、今日も引き続き無双をして俺を助けてくれました」

「そ、そうですか…」

「信じられませんか?」

「ランク4の冒険者が、スライムに頼るというのが…」

「それだけコロちゃんが頼もしいって事ですよ!お陰でほら、魔力結晶がこーんなに」

「ちょっと待ってください」

「はい?」

「こちらへ」

「え?あ、はい」


 なんか個室に通された


「…これで全部ですか?」

「はい」


 今日の分はこれで全部だ

 全部だよな…?うん


「ココチカバット、ゴブリン、ゴブリンリーダー、穴蔵ヤモリ、マリボアにディアパラタですか…」

「それぞれの買取単価って幾らくらいなんですかね?」

「ココチカバットとゴブリンリーダーが850、穴蔵ヤモリが1,100、マリボアが1,550、ディアパラタが1,200ですね」

「えーっと、合計で…」

「カードを出してもらえますか?」

「はい」

「…68,850Gですね」

「うわあ…」

「これ、今日の分ですね」

「コロちゃん頑張ったねー」


 なでなで

 ぷるぷる


「カードの記録は誤魔化せませんよ。一体どれだけの高頻度で戦闘をしていたんですか…」

「ははは…」

「魔力結晶だけですか?素材は持ち帰ってないんですか?」

「荷物になってしまうので、そっちははなっから諦めてます」

「素材にも需要はありますので、余裕があればお願いします」

「善処します…」

「でも意外ですね。ディアパラタの分が一つしかありません。何かして隠していませんか?」

「いや、蜘蛛は正直…動けなくなったところをコロちゃんに助けてもらったんです」


 なでなで

 ぷるぷる


「なら、そこから先は進まないという事ですか?」

「いやぁ…コロちゃんが、蜘蛛が美味しかったって言うもんだから、どうしようかと…」

「では、ディアパラタに挑むつもりですか?」

「何か手段を見つけて、遠くからチマチマやろうかなーと」

「コロちゃんに頼りっぱなしはだめですよ?子蜘蛛はランク3の試験内容なんですから。ランク4の冒険者が倒せないだなんて情けない事は言って欲しくないです」

「あれがそうなのか…」

「以前に伝えた通り、あれはパーティ前提の敵ですよ」

「そこはほら、俺もコロちゃんとパーティ組んでますし」

「たった二人でパーティと呼べるのかどうか…ステータスを見せてもらっても?」

「どうぞ」


 ぞくっ

 これこれこの視線!

 って何を考えてるんだ俺は…


「もはや何も言う事はありませんね。ステータス的にはきっと、親蜘蛛ですら余裕でしょう」

「さっきは子蜘蛛、今は親蜘蛛って言ってますけど…」

「ディアパラタはマザーパラタの子供です」

「あのサイズで!?」

「私はこの目で全体像を見た事はありませんが、親はもっと大きいですよ」

「勘弁してよー…」

「ともかく、おそらくはLv100前後のステータスです。苦手意識と暗闇の対策さえできれば問題ないでしょう」

「俺、そんなに上がってたんだ…旅立つ前にもっと鍛えようかと思ってたくらいなのに」

「もう心配は要らないと思ったら、すぐに旅の話ですか。確かに冒険者は旅から旅への暮らしをする人も居ますが」

「それで、ちょっとご相談が」

「なんでしょう?」

「冒険者ギルドって、お金を預けたり、特定の街の誰かに送金したりってできます?」

「手数料はかかりますが、できますよ。故郷へ仕送りをする冒険者も居ますから」

「よかった。旅に出たら、定期的に教会へ仕送りをと思ってまして」

「随分と入れ込んでいますね。もしかしてシスターに惚れてしまいましたか?」


 この表情はあれか、目がキラーンみたいなヤツか


「んー、そういうのじゃないですヨ」

「何だか歯切れが悪いですね。良ければ伺っても?」

「あー、なんと言うか…俺もあそこの一員で居たいなーと。記憶喪失であっても孤児ではないんですけど、あそこの一員になりたいって気持ちがあるんです。ただいまって言うとおかえりって返ってきて、温かくておいしいご飯があって、綺麗な寝床で安心して眠れる、俺の帰りたいと思える場所で。あの教会は、旧孤児院は、あそこで育った人達にとって大切な場所なんだと思います。たった一週間居ただけなのに、俺にとってももう、あぞごがぞうなんじゃないがなっで…」


 ありゃ…

 個室に入れてもらってよかったなこれ…


 落ち着け、落ち着け俺


「ちゃんと最後まで聞きますよ」

「ぞ、ぞれに…放っでおぐど誰がを助げる為どが言っで…金銭的に無茶をじぞうですじ…。お風呂の魔石が無がっだのももしがしたら、ぞれが原因じゃないがなーって勝手に思っでだり…でも人助けをやめろとも言えないし…もし俺が何がの助けになれるなら…何かしてあげだい…何かしたいって思っています。でも俺でもできる手伝いの他にはもう、お金しか思いつかなくて…」


 やっちまった…

 沈黙が痛い…


 俺、泣いたのなんてどれくらいぶりなんだろう

 考えても記憶がないんだから…って蜘蛛の時に半ベソだったな


 あ、コロちゃん顔面お掃除ありがとうね

 ははは…


「ハジメさん」

「はい」

「最終的に、もとの場所に帰るつもりですか?」

「わかりません…正直、戻りたいという気持ちがわかないんです。記憶がないからこそなのか、心底気にしてないのかすらも、自分じゃわからないんですが…俺を心配してくれる人が居るかもって考えたら、気にはなります…」

「もとの場所へ帰れるかどうかを確かめる旅なんですか?」

「そう、なんですかね?ただ女神様ともう一度会って話したいって事しか。戻れるかどうかも含めて、戻る戻らないはそこから先の話になります」

「何よりもまず、女神様と話す機会を探す為の旅なんですね」

「助けてくれたお礼も言いたいですし…」

「他にも何か?」

「ここだけの話、一発だけ引っ叩いてやろうかと」

「なんとも恐ろしい事を…」

「内緒ですよ?どこで敵を作るかわからない発言ですから」

「冗談として受け取っておきますよ」

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