第48話 探索準備

 日課にしたはずのメニューをちゃんとやるのは、これでまだ2回目か


「二日目にさっそくサボっちゃったからな」


 やっぱり何がしかのストレスでも溜まってたんだろうか

 自分のやりたいように一日過ごせて、いつになくスッキリとした目覚めだ

 …寝付きが悪くて、しばらく寝床でギュルンギュルンしてたけど


 ノーラとの食事の時間を大事にする為に、一日ダンジョンに篭もるのは止めた

 午後にダンジョンに入ったら、真っ先に3Fを目指そう


「おっと!」


 コロちゃんの突撃をいなして、態勢を戻す

 次々と繰り出される体当たりをかわす


 対ミリアの訓練も兼ねて、コロちゃんを強化して俺自身を弱体化する

 そして木立の中で、縦横無尽に飛び跳ねるコロちゃんの攻撃をかわす


「そろそろ一段階、弱体化するね」


 ぷるぷる


 女神様にもらったスキルを組み合わせて、ステータスに頼らない回避能力の向上を目指す

 コロちゃんのHP、SP、DEFとSPDを上げて、俺はATKを落とし反射的な無意識の反撃に備える

 コロちゃんに上限までSPDを貸し出しても、【体術】の補正で値が10も違わない

 そして今から更に行う【ステータス抑制】で、俺のSPDがコロちゃんを下回る事になる


「さあコロちゃん!かかってきて!」


 ぷるぷる


 十回、二十回、一分を過ぎる頃から、かわす度に少しずつ重心が崩れていく


 さすがに辛い

 コロちゃんもこの動き方が上達してきて、時折フェイントを織り交ぜてくる

 俺も悪い足場で思い通りに動けない

 いい練習だと再確認した瞬間、思わずカウンターが入る


「コロちゃん!」


 ぷるぷる


「ごめんね!大丈夫!?」


 ぷるぷる


「やっぱりATKとDEFの釣り合いがとれてると、基本的にお互いにダメージは無いようなものだね」


 もちろん、攻撃時の勢いとか当たる場所とか、色々な要素はあるけれど


「これで安全マージンの指針がひとつ、できたね」


 ぷるぷる


「動ける?」


 ぴょいん、ぴょいん


「よかった。そろそろお昼ご飯だし、これくらいにして戻ろうか」


 ぴょいん


 この練習は回避技術だけじゃなくて体力やら体幹やらバランス感覚が鍛えられる

 場所さえあれば続けていこう


 ぷるぷる


「自分で足場を作れればいいんだけどねー」


 ぷるぷる


「まだまだ、俺ニウムは体から離れた場所に作れないんだよ。やろうとした瞬間、魔力が散っちゃうの」


 着火とか湧水の、体から離れた場所で魔法を行使する感覚がもう少し掴みやすければいいんだけどなー

 いや、空中に物を固定する感覚が問題なのかな?


「お昼ご飯ですよ〜!」

「はーい!」


 お昼ご飯おいしかったです






「ハジメさんこれをどうぞ〜」

「これ…スキル結晶?」

「熟練度の回復は一日かけてじっくりやりますから〜」

「ほんと、ありがとねノーラ」


 ぷるぷる


「まずはMPの使い道がなくて回復が簡単なコロちゃんに覚えてもらおうかな」

「それがいいかもですね〜」


 ぷるぷる


「よし!その意気だコロちゃん!」


 コロちゃんがスキル結晶を取り込んで消化する


「まだだめかー」

「次を行きましょう〜!」


 結局コロちゃんは4つ消費したところで回復魔法を覚えた!


「コロちゃんおめでとうです〜!」

「すごいぞコロちゃん!」


 ぷるぷる


「次はハジメさんですね〜!」

「よ…よし」


 スキル結晶を握りしめる

 魔力操作で魔力を使ってスキル結晶を覆って…

 魔力を掬いとって回収するイメージ!


 そして魔力を回収したのを見届けて、ステータスを開く


「ステータスオープン…お、覚えた!」

「ハジメさんもおめでとうです〜!」


 ぷるぷる


「ありがとう二人とも!」


 ぷるぷる


「それはコロちゃんが使うのがいいかと〜」

「あ、スキル結晶が一個余ったのか。これを売れば教会の収入になるんじゃない?」

「コロちゃんは熟練度が上がりにくいみたいですし〜」


 ぷるぷる


「いいんですよ〜?」

「じゃあせめて買い取って…」

「熟練度の回復に使う魔力結晶ももらっちゃってますから〜」


 ぷるぷる


「遠慮しなくていいんですよ〜」


 ぷるぷる


「うん。ノーラがここまで言ってくれてるから。それはコロちゃんが使えばいいと思うよ」


 ぷるぷる


「ハジメさんをお願いしますねコロちゃん〜」


 ぷるぷる


 やっぱり俺、保護者が二人に増えてる…






「忘れるところだった。ダンジョンへ行く前に時計を探そう」


 ぷるぷる


「できれば置き時計じゃなくて懐中時計がいいかな。ダンジョンとかで置き時計を手に持って確認するのも間抜けっぽいじゃない。腕時計だと戦闘で壊れそうだし、そもそもあるのかわからないしさ」


 ぷるぷる


「時計って色んなのがあるんだよ。結局はポケットじゃなくて異空間に仕舞うと思うから、最悪は置き時計でもいいんだけどね」

「ねえ君、教会に居る冒険者のヤマト君、だよね?」


 あれ…騎士団の人だ


「はい、そうです」

「団長からの伝言を預かってきたんだ。教会に向かう途中だったけど、見かけたからちょうどよかった」

「あ、お世話様です」

「じゃあ伝えるね。もし時間が合うなら、明日の午前中にうちの会議に参加しないか?だってさ」

「会議、ですか?俺が参加する意味があるんでしょうか」

「んー、それは来てみればわかるかな?」

「わ、わかりました。冒険者として外せない急用ができなければ、伺います」

「それなら9時から始めるから。来て損はないと思うよ。それじゃ」

「あ!持ち歩ける時計を買いたいんですけど、どこで買えますか?」

「なら機械式より魔石式がいいと思うよ。魔道具店がいいかな?そこの角にもあるよ。ほら、魔石の看板」

「おお。ありがとうございます!」

「同士が増えるのは大歓迎だよー」


 行っちゃった

 同士?って何の?時計の同好の士?


「お、ここだな。こんにちは〜」

「いらっしゃいませ」

「持ち歩ける手頃な時計を探してるんです」

「ほう!高いだけの機械式より頑丈で自由度の高い魔石式とはお目が高い!」

「そ、そうなんですか。冒険者なので、丈夫なのはありがたいです」

「こちらはいかがでしょう!?手首に嵌めて、使うと手の甲に時刻表示が浮かび上がります!」


 あるのか腕時計


「手首の角度調整が難しいですね」

「ではこれはいかがですか!?積み重なる点の組合せで、他とは違う自分を演出できます!」


 バイナリクロックとか無理無理


「慣れないとそもそも読み取れないですよね?」

「でしたらこちらは!?筒の先から光が出て、照らす先に時計が現れます!」


 ホログラムかと思ったら懐中電灯か


「暗い平面じゃないと見辛いですよね?」

「いっそこちらを!砂時計を再現したもので、目盛りを読み取れば時間がわかります!」


 なんで砂時計にした


「ごめんなさい、見辛いです」

「じゃこれはどうだ!?二本の並行する直線で現在時刻を」

「だから見辛いって!普通のないんですか普通の!?」

「はて?普通とは…?」


 ダメだこの店、他所行こう


「お邪魔しまし」

「わかりました!わかりましたから!こちらのものはいかがですか?魔力充填式で、魔力が空にならない限りは魔石の上に時計が浮かび上がり」

「こういうのでいいんですよ!こういうので!手に持って流し込めばいいんですね?」

「はえ?いやしかし、自力で充填するのには一苦労」

「またクセのあるのを出してきたんですか…とりあえず試していいですか?」

「出来るものならどうぞ!」


 なんで無駄に挑発的なんだよこの人


「ではこの魔石の部分に触れて、そこに向かって魔力を一定の強さでゆっくり流し込んでください。魔石が光るのが強さの目安ですが、力の調整」

「こんな感じでいいですかね」

「で、出来てる…」

「これ幾らですか?」

「中銀貨1枚です!さすがはお客様ですね!この巡り合わせは運命です!ぜひお買い上げを!」

「安い…のか?もしかして高くないですか?」

「対となる充魔台がないので、これでも値引きをした後なのです。心臓部の材料となる魔力結晶の時点で高価な上、職人が小型化に拘った逸品ですし」

「完品じゃないんでしょ?もう一声!」

「これ以上はちょっと…」

「じゃあ別の店の、それこそ普通のヤツを買います。お邪魔しま」

「わかりました!小銀貨9枚で!」

「…」

「8枚!」

「7枚」

「ごめんなさい、7枚半で…これ以上は本当に…」

「買います」

「ありがとうございます!」


 自分の魔力で動かせるみたいだし、こういう道具もありだな






「さあコロちゃん!今日はまず3Fを探索しよう!」


 ぷるぷる


「コロちゃんは暫くフードの中で待機して、俺が危なくなったら回復してねー」


 コロちゃんのステータスは既に倍化してある

 HPポーションは出番なくなったかな?

 もともとダメージを受けないように気を付けてたし

 魔力結晶のストックさえあれば、本当に不要になるかもな


 ぷるぷる


「そうだね。MGCの高い敵を見つけるのが、今日の目的かな。3Fに居てくれれば手頃なんだけど」


 道中の蝙蝠と引き籠もり達を始末しながら、3Fを目指す


「ここのゴブリンって、外に出ないみたいだよね。お天道様の下に引き摺り出したら、青っちろい肌してそう」


 ビタミンの生成とかに問題が出るって聞いた事あるけど、魔物だから関係ないのかな?


「考えてみたら、足元が一番すり減ってる道を選べば奥に続いてるんだよね」


 ぷるぷる


「だよねー、足元を疎かにしちゃだめだよねー」


 言葉が通じない間も情緒的なものは感じ取れてたけど、念話が使えるようになってから知能の高さが如実にわかるようになったな

 コロちゃんすごい!賢い!

 むしろ成長すらしてる気がする!


 ぷるぷる


「ははは、別に褒めすぎてないって。素直な感想だよ」


 さて、3Fへの境目とされる場所に辿り着いた

 相変わらず、岩壁が発光してるな


 さあ行くよ、コロちゃん


 ぷるぷる


 魔力感知には…天井だな

 やっぱりココチカバットがメインになるのかな

 こいつらはもう釣らなくても、身を晒してからのカウンターでいいな

 多少群れていてダメージを受けても、コロちゃんが回復魔法を使って、その後に捕食で二人とも全快だ


 ぷるぷる


 わかってるって、回復頼りの戦いは避けるように気を付けるから

 もし群れで居たら、今朝の特訓の成果を見せるつもりで…


 ぷるぷる


 はい…そもそも危ない事はしない、大事ですね

 でもさっそく、そこの反応が2匹なんだけど…


 あ、一匹こっちに来た

 今、必殺の…カウンターアタック!


 もう一匹は…

 見えないぞ?


 じーっ


 コロちゃん、あそこに何か居るの見える?


 ぷるぷる


 やっぱ見えないよね


 ぷるぷる


 うん、とりあえず真下は回避して…


「うわっ!」


 なんか天井から降ってきた!?

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