第43話 半裸の目覚め
ぷるぷる
コロちゃんが心配そうに俺を覗きこんでる
コロちゃんがこんな感じで一緒に居るって事は、危険な場所じゃなさそうだな
「コロちゃんおはよう」
ぷるぷる
「ははは、俺は大丈夫だから。コロちゃんこそ怪我はなかった?」
ぷるぷる
コロちゃんをなでなで…あれ?右手が動かない
鞘に入れて抜けないように縛られたナイフを握りしめていて、右手そのものも拘束されてる
なんか書いてあるぞ?
「なになに?どうしても手から離れないので、危険防止のためにこうした、自由に外して構わない、と」
そう言えばそんな事があった気がする
とりあえず、この拘束はお役御免だよな
外しちゃえ
あ、手放せた
「まさかこのナイフ、呪いの装備とかに…いや、今、手放せたし…まあいいか」
なでなでなでなで
ぷるぷるぷるぷる
つんつんつんつん
ぷにぷにぷにぷに
「コロちゃ〜ん、心配かけてごめんね〜。もし危ないのが嫌なら、次から教会で待っててもいいんだよ?」
べちんっ
べちんっ
べちんっ
「わかった、わかったから。置いて行くなんてもう言わないから」
ぷるぷる
「逃げろなんて言わないし、置いて行くとも言わない。ずっと一緒だよ」
ぷるぷる
「いやいや。コロちゃんは命の恩人で、俺の英雄で、大事な家族だから。俺こそ絶対に守るからね」
コンコン
あれ、ドアがノックされてる
やっぱり監禁じゃないんだな
そもそも騎士団に世話になってるはずだし
「ねえハジメ、起きたの?」
「ミリア?うん、起きたよ」
「団長呼んでくる!着られるなら服着て待ってて!」
「あ、うん」
そう言えば俺、パンツ一丁じゃんよ
さっさと…何これ
騎士団の服っぽいな
確か異空間に…いや、今これ以外を着たらだめか
不特定多数から、その服どこから持ってきたと突っ込まれたら面倒だ
なんかハードル高いぞー
俺なんかが袖を通していいのかな…
こういうのって大抵、誓いだとかプライドだとかそういうのが
コンコン
「入っても大丈夫か?」
「あ、すぐに服を着ます!って言うか、俺が袖を通していいんですか?」
「別にそれでどうこうしようという気はない。ただの着替えだから気にするな」
「すぐに着ます!」
ナイフを握ってたのに半裸にされたって事は、もともと着てた服は破かれたのかな?
まあどうせ、ラジーの返り血でだめになってたか…
「お待たせしました!」
「入るぞ」
ドアが開いて団長とミリアの二人が入ってくる
「あ、ども。なんかお手数かけちゃったみたいで」
「気にするな」
「もう平気なの?色々と。血だらけで運び込まれて、ボクすっごく心配しちゃったんだから」
「特に問題はないみたい。ありがとね」
「ナイフは手から離れたようだな」
「なんか、ポロッと離れました」
「初めて人を殺めた新人に表れる症状の一つではないかと思ったんだが…」
PTSDになってもおかしくなはい、か
覚悟は決めたはずだったんだけどってとこか?
でもなぁ…
「精神的ショックは…うーん、実感はないですね」
「そうなの?確かにケロッとしてるように見えるけど、後からくる事もあるらしいからね?」
「経過を診る必要はあるだろうが、本当にそうなのかもしれない。その右手の様子を見ると、筋力による保持だけではなさそうだ。そして魔力欠乏症だったという可能性がある」
「…個人的にもそっちの可能性を考えておきたいです。MPが0になるとまずいんですか?」
「最低限必要な分、つまり残りMP0を超えて無理矢理消費しようとすると、頭痛とか目眩みたいな症状が起きるんだって」
風邪みたいなあの症状、まさにそれじゃないか
「あー、じゃあ今度から、魔力結晶の事も念頭に置いておくよ」
「実は、緊急時なので勝手にステータスを見せてもらおうとかとも思ったんだが…」
「えっ…」
「見られたくはないんだろう?それでも様子から判断して、念の為に残存している魔力の大きさだけを見てもらった。ほぼ枯渇と言っていい状況だったそうだ」
「そうだったんですか」
「この部屋は立ち入り禁止だったし、ボクがドアの外で見張ってたから、ステータスの秘密は大丈夫!」
「それでミリアがすぐに俺が起きたのに気付いたんだね」
「帰る道中もステータスを勝手に覗かれないようにしておいた。安心するといい」
「ご配慮に感謝します!」
また俺、周りに守られちゃったよ
勝手には覗けないはずだけど、それでもそこまで俺の事を考えてくれて…
「神の加護というのも万能ではないようだな」
「それでも助かってるのは事実なんですけどね」
「ところで、ラジーの賞金なんだが…」
「ああ、手配書がありましたね」
「任務中の他の騎士団員と一緒だったという事情もあって、賞金は出せない。が、せめて協力に対する報酬は出す。冒険者ギルドを通して受け取って欲しい」
「え、貰えるんですか!?」
「そもそもやっつけたのはハジメだったんでしょ?堂々と受け取ればいいんだよ!」
「騎士団のみんなが居たからだし、団長に助けられたからなんだけど…」
「それでも一撃で倒した手際は見事だった」
「いつか手合わせでも本気を出させてやるんだから!」
「お、お手柔らかにね…」
ステータス以外では割と本気みたいなもんなんだけどな
「ともかく、緊急時の騎士団団長からの指名という扱いで冒険者ギルドに報告しておいた。ランク規程の抜け穴だな。実績にもなるだろう」
ニヤリとした口元が超カッコいいと思います団長
「本当に何から何までありがとうございます!」
「ランクが規定を満たしたらそのうち、正式に騎士団から依頼があるかもしれん。その時に力を貸してくれれば助かる」
「その時は駆け付けますよ!」
「そもそも平和なのが一番なんだけどねー」
「何も起こらないようにするのも騎士団の務めだぞ」
「だから警備の仕事があるんだよね。抑止力、だっけ」
何なのこの正義の味方達、すんごい頼もしいんですけど
こういう組織が腐ってないって最高だな
「それじゃあ、元気になったんならノーラと冒険者ギルドの人を安心させてあげて!」
「教会と冒険者ギルドには、ダンジョン内の出来事の事情聴取をすると伝えてある。一応、怪我はなく服は返り血を浴びたせいだとも言ってあるが、顔を見せてやれば安心するだろう」
「あ、実際に事情聴取はしなくていいんですか?」
「あの時の腹芸でだいたいの事情は掴めたからな。何か訊きたい事ができれば連絡する」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「騎士団の制服を着て行ったら、みんなビックリするよ!」
「これを着てると背筋が伸びる思いだよ」
「そうだな。少なくともそれを着ている間は、胸を張って歩いて欲しい。騎士団の評判にも関わるからな」
「お、重い…」
「軽いよ?」
「わかってて言ってるよね…」
「にひひー」
さて、冒険者ギルドだ
この服で入って行ったらどんな反応なのかな
マズい事になるなら警告してくれてたよな、きっと
「お、騎士団か!」
「なになに?今日は捕物があったのにまた依頼があるの?」
「あんたらは前回の依頼を受けただろうが!こっちに譲れ!」
「あ、あの!俺、制服を借りてるだけなんで…」
よかった
因縁を付けられたり…
「偽物か!?おい通報だ!」
「てめえ、正当な理由もなくそれを着るってのは税金を納めてる全員に対する挑戦だぞおい!」
付けられてるじゃんよぉ
別の意味だけど…
「いえ!あの!服が着られなくなっちゃって!それで騎士団で借りたんです!」
「…ちっ」
「なんだ、追い剥ぎにでもあったのか?」
「あれ、ゴブリンの天敵ですか?」
「じゃあダンジョンの捕物に参加してきた帰りか!」
「あんだよー早く言えよー」
「ははは…すいません…」
そのタイミングが無かったんですけどねー!
「ヤマトさん、冒険者を辞めて騎士団に入っちゃったんですか?せっかくこれから色々と…」
「ギルドは事情を知ってるはずですよね!?」
「もちろん冗談です。お勤めご苦労様でした」
「お勤めって、出所じゃないんですから…」
「賞金は残念でしたね。250,000Gでしたのに」
「そんなにかー…でもなんか、お小遣いくれるって団長が」
「はい、こちらが報酬ですよ」
中銀貨2枚と小銀貨5枚出てきた!
一割もくれるもんなの!?
「こんなに…」
「それから、カードを出してください」
「は、はい」
【冒険者ギルド登録証】
ヤマト 人 18 リスガー
Lv45 ランク 4
【更新:リスガー冒険者ギルド 3485/5/19】
「おぅふ…ランク4ですか」
「本来ならランク6であるはずの仕事をこなしてしまいましたからね。2と6の間をとって4になりました」
「飛び級…」
「孤軍奮闘で盗賊団を見つけ出し、やってきた騎士団に情報を流し、合流した後も何故か殲滅に参加してボスの首をナイフの一撃で落としたとか。ちなみに登録6日目でランク4は最短記録更新ですね!」
「あの、どうかその辺で」
後ろがざわついてますから…
「ヤマトさん、これだけの実績を出してしまったら、ヤマトさんとしては諦めてくださいね。色々と」
やめてくださいその笑顔!
気遣いを無駄にしちゃったのは理解しましたから!
「と、ところで、盗賊団に関して声をかけるかもって言ってたのは、これで流れちゃいましたか?」
「そうですね。あれに関しては、斥候任務が回ってきた際にお願いしようと思っていました」
「殲滅と斥候では、ランクが違うんですか?斥候ではランクが6も要らないとか?」
「騎士団へ人員を貸し出す案件と、騎士団へ情報を提供するという案件。つまりこちら側で完結するかどうかの違いです」
あ、そうか
色んなカラクリがあるんだなあ…
「それに主たる任務が違いますからね。ヤマトさんは本来、殲滅には参加できませんから、今回は現場判断での例外という、あ・つ・か・いですね」
「…もしかして俺が自分で希望して参加したのバレてます?」
「ヤマトさんが調子に乗って団長が庇っているのではと思ってましたが、見事に当たりましたね」
「あ、これでツケの支払いお願いします…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます