第42話 鬼ごっこ

「コロちゃん、しっかり捕まってて!」


 魔力感知でどこに居るのかはわかったが、細かい動きまでは追えなかった

 さっきの攻撃を避けずに弾けていれば、また相手が奥側という位置取りにならずに済んだのに!


「もう諦めろ!」

「誰が!」


 そりゃそうだ


 しかしまあ蝙蝠を器用に避けながら逃げている

 あいつを追う蝙蝠も居れば、こちらに目標を切り替える蝙蝠も居る

 他の冒険者に遭遇しないのは不幸中の幸いか

 これも見事にトレインだな

 俺は立ち止まった時に囲まれないよう、そして俺自身が加害者にならないように、迫ってくる蝙蝠たちを葬りながら追いかける

 蝙蝠が邪魔しなければとっくに追いついてるのに!


 でもこの先に大量の反応があるな

 自分から魔物の群れに飛び込んで、それで奴は終わりだ

 あとはまあ、あの二人に怒られるのを覚悟で殲滅して、奴の首を持ち帰れば俺の用も終わりだ


「そろそろ終わりだ!」

「お前がな!」


 奴の最期の角を曲がった先で、感知から反応がいくつか消える

 まさか、人が居てなすりつけたのか!?


「大丈夫ですか!?」

「なんだ心配してくれんのか?俺達は無事だぜ」

「自分の心配した方がいいんじゃねえのか?」

「…え?」


 なんかこう、いかにも山賊でござーい、って感じの…


「お仲間か」


 これは逃げるしかない!


「追え!ロゴジンはこっちだ」


 追うと逃げるが逆転した!

 さっき蝙蝠を放っておかないで本当によかった!

 いや無視してとっとと追いついてればこうならなかったのか!


 しかし追いかけている時は夢中だったせいで道がわからない

 分岐に差し掛かっても迷う暇すらない

 勘を頼りに闇雲に走り回るが、これは完全に迷ってるな


「っ陶しい!」


 リポップしたのか、別の道なのか

 襲いかかる蝙蝠を次々に薙ぎ払う

 さっきから魔力結晶の事がチラチラ頭をよぎる

 貧乏性が恨めしい


 どうするどうするどうする!?

 まさか深い階層に向かってないよな!?

 いや考えるな、変なフラグを立ててる場合じゃない!

 ああもう焦って馬鹿な思考回路になってる!


「また分岐か!」


 そうだ、左手で壁をなぞって一筆書きで脱出作戦だ!


「って行き止まり!?」


 慌てて反対側の通路へと飛び込む


「っ!」


 …直前、目の前を矢が通り過ぎる

 飛んできた方を見ると、集団の中にボウガンを構えている奴が居る

 今のが魔法なら感知できた可能性もあったのに!


 武器を下に落とし、両手を上げる


「止まってくれ!」


 ゆっくり集団に向き直る


「確認したい事がある!」


 静かにじりじり近付いて来る


「答えてやるとは限らねえがな!」


 リーダー格っぽい大男が応える


「ロゴジンはどうした!」

「ああ、責任をとってもらったぜ!」


 まだ距離がある…


「何の責任だ!」

「トレインしてきた責任だな!」


 ただの被害者…いや、明らかに仲間だろこいつら!?


「仲間なんじゃなかったのか!?」

「お試し期間で不合格ってヤツだ!」


 随分と素直に答えるじゃないか


「お前達は一体何者なんだ!?」

「身を寄せあって慎ましく暮らす善良な旅人だぜ!」


 答えるとは限らないんじゃなかったのか?


「最近、この近くまで流れてきたのはお前らか!」

「確かにこの近くに来たのは最近だな!」


 手配書にあったボスの名前は、確か…


===

 ラジー 人 47 追放

 状態:正常

 Lv 49 Exp 670,854

 HP 300/300

 MP 35/35

 SP 202/249

 ATK 288

 DEF 259

 MATK 23

 MDEF 20

 SPD 221

 STR 314

 VIT 320

 MGC 54

 AGI 257

 スキル:ステータスLv5、斧術Lv3、HP回復量上昇Lv5、パーティLv4

===

ーーー

ステータス

  自分のステータスを表示したり隠したりする

 - Lv5

  【ステータス閲覧】Lv3のスキルに抵抗できる


斧術

  斧を扱う技術

 - Lv3


HP回復量上昇

  あらゆる手段のHP回復量に補正

   増加率(スキルLv×10)%


パーティ

  取得経験値を仲間と分配できる

  ステータスのスキルで当事者だけがメンバーを確認できる

  勧誘と維持に人数×1のMP消費

  パーティの最大人数はスキルLv+1

 - Lv4

  有効距離800m

  自分のExp取得を破棄して任意の仲間へ任意の割合で分配できる

ーーー


 当たりだ!

 あちらさんの中で足の遅い奴も、この場に揃ったか


「お前がラジーで間違いないんだな!?」

「ああそうだ。逃げ道を気にしてるがこっちに集中しなくていいのか?」


 そろそろだな

 ダグとロゴジンに指示を出したのか、できれば確認したかったが…


「撃ってこないって事は、ボウガンの矢も尽きたんだろ?」

「まだ一本あるぜ。逃げ出せば撃つ。動けなくなればお前は終わりだ」

「こっちも確認は終わりだ!」


 俺は飛び込もうとしていた通路へと走りだす


 ボウガンから矢が放たれる


 体感時間が遅くなる


 迫る矢…


 この軌道じゃ背中のコロちゃんが!


「っらぁ!」


 武器を拾う暇なんかない

 右手に魔力を集中して…体を捻りながら鏃を弾く!


「逃がすなあああ!!!」

「痛っっってえええええーーー!!!!」


 あまりの痛さに右手を抱え込みながら通路へ


 追ってきた盗賊団が角を曲がった時…


「んなっ!?」

「かかれーーー!!!」


 倒れ込む俺が抱きとめられ、周りを足音が駆け抜ける


「おい回復魔法だ!」

「コロちゃん無事!?」


 ぷるぷる


「良かった…」


 回復魔法の効果で、右手に自由が戻ってくる


「もう大丈夫だ」

「助かりました!回復魔法のお兄さんもありがとうございます!」

「もう休んでもいいぞ?あとはこちらで引き受ける」


 雄叫びや剣戟の音が止まらない


「…手伝います」


 ダグとロゴジンは手下で、こいつらは盗賊団

 指示を出したかどうかはもうどうでもいいか

 そもそもの話で言えば、将来の不安の芽は摘み取らないと


「よく言った!相手は調べのついた追放者、魔物と同じ扱いで構わない」

「わかりました」


 俺が、俺の意思で


「ラジーが逃げた!」


 悪人を狩る


「追え!行くぞヤマト!」


 狩ってやる


「はい!」


 手下を盾にして逃げ出したラジー

 それを、混戦の横をすり抜けて追いかける

 あ、短剣…テオさんのナイフがあるから無視だ!


 どいつもこいつもトレインしやがって!

 俺もひとの事は言えないがな!

 魔物に追いつくそばから屠っていく


「逃が…さない!」


 ステータスの高さはダテじゃない!


「ほざけぇ!」


 急停止したラジーが斧をフルスイングしてくる


「させるか!」


 団長が斧を受け止める

 あの質量を正面から受け止めるとかバケモノかよ団長!


 ぴょいん!


「ふごっ!?」


 コロちゃんナイス!


「っはぁぁぁ!」


 今の俺の力と技術を全て出しきって…逆手に握ったナイフを首筋に突き立てる!


「え…?」


 攻撃としては刺突のはずなのに、首が転がり落ちた


「な、なあ…短剣だった?」

「あれ市販の、普通のナイフですよね…?」

「どんだけ研いだんだよ…」

「そういう問題でもないでしょ…」


 群がる魔物に対処し終えた騎士団員が、血だまりから距離を取る


「あれ、勢い余っちゃった…?」


 確かに遠心力や体重なんかが完全に乗ってたり、クリティカル的な手応えがあったりしたけど…


「ヤマト」

「あ、何度も助けていただいてありがとうございます!」

「これがヤマトの本気なのか」

「自分でも予想外です。どうせならもう少しくらい長く死の恐怖を味わって欲しかったですね!」

「…あまりいい趣味とは言えないな」

「冗談ですよ、冗談。個人的にはラジーに対しては追い回された恨みしかないんですよね。ロゴジンはこいつが始末しちゃったみたいですし」

「ヤマト」

「何ですか?ミリアと手合わせする時は、俺も勉強になるのでちゃんと」

「ヤマト、もう終わったんだ」

「終わりましたね?」

「もう武器を握る必要はない。帰りも送る」

「ありがとうございます…あれ?手が…開かないや」

「ゆっくり、一本ずつ、指を開くぞ」

「お、お願いします」

「落ち着いて、深呼吸して、力を抜くんだ」


 すー、はー


 なんだよ、深呼吸なのに浅いじゃないか

 心臓がうるさい

 汗をかきすぎたかな?

 熱いんだか寒いんだか

 頭痛と目眩もしてきた


「風邪でもひいたかな…」






 気が付いたら、知らない場所で横になっていた

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