第40話 俺、お寝坊しました

 教会に帰ったら、ノーラがお茶を入れてくれる間に清浄の魔法を試した

 やっぱり無理だった

 結局、手で掃除したが取りきれなかった

 …だから、何で俺は完全犯罪の類を連想するんだ


 寝る時はコロちゃんをノーラに預けた

 俺が同じ部屋で過ごすわけにはいかないから、コロちゃんにお願いした

 二人とも喜んでいたのは良かった


 …寂しくなかったもん


 思えば昨夜は、初めての悪意に触れた

 少なくとも、こっちに来てからは初めての悪意だ

 俺はその悪意を倒した


 侵入してきた時点ですら悪意を

 更に言えば、剣を握っていた時には確実に悪意を向けられていた

 俺は、俺や家族に向けられた悪意を倒せたんだ


 ノーラが死なせなかったが、結局は死刑か

 いわゆる、ゆるいアウトローだな

 一度でもチャンスをやるから調子に乗って再犯するんだ

 そして追放済みの悪人が最後のチャンスを棒に振った

 仲間にも見捨てられてたし、本当に馬鹿な奴だ


 次に同じような悪人が居たら容赦しない

 一度通った道だ

 もう、怯まない


「さて、ノーラに慌てて起こされたけど…もうそろそろ昼が近いな」


 今日はノーラも寝坊してた

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだ

 ノーラが慌てていたのは決して、目が覚めたら昼前だったからではない

 俺が昼まで寝ていると俺の稼ぎが減るからだ

 …無理があるか


 俺達が起きたらもう、正式な警備の人が来ていた

 コロちゃんは庭で日向ぼっこしてて、警備の人がそれを見てニコニコしてた

 教会に二人、旧孤児院に二人

 俺達二人が出てこないので、挨拶は後回しに警備してくれてた

 謝ったら、気にしてないし、事情は知ってるからそっちも気にするなと言ってくれた

 ノーラが食事を出そうかと申し出たら、御礼の言葉以外のものは受け取れないだって

 もう少しくらい融通を利かせてもいいとは思うけど、これは仕方ないのかな


 ともあれ、朝昼兼用のブランチもおいしかったです


「わたしは魔石の注文をしてきますね〜」

「いや、俺が行くよ」

「必要な魔石の詳細はわかりますか〜?」


 ごもっともだ


「…お留守番してます」

「では急いで行ってきます〜」

「いいから!転ばないようにね!」


 『ご用の方は、奥の旧孤児院へ』と礼拝堂に張り紙をして、掃除の続きを頑張ったけど無理だった

 昨夜掃除しても取りきれなかったんだ、仕方ない

 なんとか魔法を強化できたらもう一度試してみよう


 帰ってきたノーラには、こっちより礼拝堂を優先してくださいとお小言を言われた

 でもお礼も言われた

 対応する場所を選ぶ余裕のなかった俺のミスなのにな


「コロちゃん、そろそろギルドに行こうか」


 ぴょいん


 午前中の稽古の時間はとれなかったけど、今日は仕方ない


「今日はダンジョン初日だから、様子見だけして早めに帰って、夕方から稽古の時間をとろう」


 なでなで

 ぷるぷる


「深入りしないように気をつけようね」


 なでなで

 ぷるぷる


 まずはギルドでダンジョンの場所の確認だ






「こんにちは〜」

「こんにちはヤマトさん。さっそくですがお話があります。こちらへどうぞ」


 挨拶するや、リリアナお姉さんからご指名いただきましたー

 個室対応入りまーす


「ダンジョンの件ですか?」

「いえ。追放者を捕まえたそうですね」


 情報が早いな


「騎士団に突き出して、賞金を受け取りました」

「生死不問なのは知っていますか?」

「えーっと、生死不問である事、俺に処理する権利がある事を説明されました。あと、助けてはならない事も」

「冒険者ギルドとしては、まだ話すことがあります。騎士団からの話でもあります」

「騎士団からもですか?」

「まずは感謝を、とのことです」

「はい。わかりました」

「次に、もしも冒険者として続けていく気持ちがあり、ランクを上げるつもりがあるようなら、伝えておいて欲しいと」

「何をですか?」

「やはり、聞きますか?」

「お願いします」

「ランク6の条件が、再犯した追放者を処理した経験なんです…」


 要するに、対象の条件は当然として、人を殺めた経験の有無か?


「なんでそんな過酷な条件が…ただの撃退じゃだめなんですか?」

「その一線を超えられる程の精神的な強さが必要になる事があるんです」

「騎士団側が伝えて欲しい理由は?」

「ランク6以上になると、騎士団からの戦力増強の依頼を受理できます」

「それじゃあ、俺にそのつもりがあるなら次は処理しろと?」

「目を付け…期待をかけられていますね」


 それであの時、俺に処理するつもりがないか確かめたのか…


「まぁ、どうせ次からは容赦しないと決めましたから」

「容赦しない、ですか」

「情けを掛ける相手は選びます」

「意外な人間味が出てきましたね」


 何?俺、どんな人間だと思われてたの?ヘタレとか?


「そうですかね?」

「損な生き方ばかりしてきたような印象だったので、ある意味安心しました」


 そっちかーそっちだったかー


「変なところで心配かけてたんですね」

「ダンジョンの場所を教えた後も、単独で調子に乗らないか心配ですが」

「あれ、冒険者のゲン担ぎは?」

「こうして心配してしまっている時点で同じです」

「回避不能じゃないですか…」


 巻き込まれ型のフラグは俺自身が強くならないとバッキバキにできないんだな


「やはり今日から行くんですね?」

「まぁ早く強くなりたいですし」


 強くならないとフラグを回避できないし…


「ともかく、追放者が再犯したら捕まえるだけでなく、処理をしても問題ありません」

「でも最後の慈悲なんですよね?」

「再犯したら、ですよ。まあ襲われたと主張して処理する事を目的に狙う人も居ますが」

「回りくどい事をするくらいなら死刑でいいのに。凶悪犯になるし」

「死刑反対派との折衷案なんです。穴だらけですし、これからどうなるかわかりませんが」

「面倒臭いですね…正直、個人的には身内さえ襲われなければ追放者とかどうでもいいです。とにかく俺はダンジョンに行きたいです!」

「どれくらい潜るつもりですか?」

「今日は様子見だけで、夕方までに帰る予定です」

「わかりました。ココチカのダンジョンまでの地図を描いてあげます」

「ありがとうございます!ダンジョンの中の地図ってあります?」

「有料ですよ?」

「自力で頑張ります!」

「ツケもありますしね」

「…忘れてた」


 リリアナお姉さんお手製の、ダンジョンまでの地図、ゲットだぜ!

 これは、そんじょそこらの地図よりもずっと価値があるぞ!多分…

 用が済んだら異空間に放り込んでおこう






 街を歩いてると、美味しそうな匂いが漂ってくる


「昼時だもんな」


 広場の方からかな?


「この街に来て一週間、まともに散策した事はなかったな…」


 いつも、何か買い物とかの目的があっての事だからな

 お腹はそこまで空いてないけど、何かつまみながら少しだけブラブラしてみるか

 ご飯は食べたけど、中途半端な時間だったから晩ご飯までもつかわからない

 それに美味しいご飯もいいけど、たまにはジャンクフードみたいなのとか、あと屋台のとか食べてみたい!


「コロちゃん、臨時収入もあったし、何か食べながら少しブラブラしてみようか」


 ぷるぷる


 昨日の賞金はノーラと折半した

 ノーラらしく辞退しようとしたが、むしろ教会の分から半分だけ俺に欲しいとか言ったら受け入れてくれた

 あのチョロさは多分、ある程度はわかっててやってるんだろうな

 他人の厚意は素直に受け入れて、別の形で返す

 そうやって気持ちの輪が広がっていくって、いつか言ってた気がするし


 屋台を幾つか見て回って、歩きながら食べられる物を見繕う

 ダンジョンに行く途中ででも食べようかな


 ぷるぷる


「はは、気になるものがあったら教えてね」


 コロちゃんにも好みがある

 同じご飯を一緒に食べてる時、何だって美味しそうに食べてる

 それでもやっぱり、好物ってのはあるものだ

 温度で言えば、ほぼ人肌

 味付けで言えば、基本は薄味

 食材で言えば…


「コロちゃん、やっぱりお肉が好きなんだね」


 ぷるぷる


「スライムって栄養が偏るとかないのかな?」


 ぷるぷる


「ないのか…なんとも羨ましい」


 なら、旅の間は干し肉とかを多目に用意しておいた方がいいかな

 魔物を狩って食べるのがコロちゃんの好みに合うんだろうけど、魔物だって色々だろうし


「わかった、わかったから。すいません!この干し肉、100G分ずつください」


 ぷるぷる


 コロちゃん、色んなお店の干し肉を選んでく


「いっぺんに食べたらだめだよ?なくなったらまた買ってあげるけど、食べ過ぎたら…は、ないのか」


 ぷるぷる


「はいはい。それなら、食べ比べでもして味わって、好みを探そうね」


 ぷるぷる

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