第39話 ノーラとミリア

 大きな足音が複数近付いて来る

 騒がせちゃったからな

 とりあえずステータスは消しとこう

 そして、ドアが乱暴に開かれましたとさ


「何があった!?」

「ミリア無事か!?」

「盗賊が逃げたのか!?」

「ミリアその男から離れろ!」


 あ、誰も団長の心配してない

 まあそりゃね、団長だもん

 強いよね

 でもミリアも強いのにね

 あと俺、別に危険人物じゃないので…


「待て!落ち着け!何も問題ない!夜中に騒いで済まなかった。団長としてこの場は預かる。お前たちは戻れ」


 団員の皆さんは俺を不審そうな目でじーっと見た後、ドアへと向かっていく


「お騒がせして申し訳ありませんでした!」


 とりあえず謝って頭を下げておいた

 ここでの俺への風当たりが強くならないといいなー


「それで、何が一体どうなってるんだ?」

「ちゃんと説明してくれるよね?ボクもう何に驚いていいのかわかんないや」

「もしかして物凄く成長してます〜?」

「うん、始めから順番に説明するから…」


 初日からの出来事を、一部は要点だけをまとめて話した

 冒険者ギルドでかなり心配されたからな

 転移と記憶喪失という事実、夢については結末や魂の損傷、簒奪者なんかは伏せてスキルの一部

 他のエピソード、特にコロちゃんの話はそのままだ

 コロちゃんの大活躍を聞くがいい!

 だんだん嘘と言うか隠し事をする機会が増えて、手馴れてきたか?

 ノーラは俺が二人に伝えなかった事について、何も言わなかった


 こっちに来てから、まだ一週間なんだな…

 自分で、かなり濃密な毎日だと思う

 あ、こっちで夜更しするのは初めてか?

 夢の時以外はこの時間は多分寝てたな


 冒険者ギルドで言われて対外的にヤマトと名乗ってると話したら、ノーラはヤマトで呼ぼうかと確認してきた

 俺の前では好きな方で構わないと話したら、ハジメのままで居るつもりのようだ


 騎士団の二人には、今話した俺の事情は口外しないようにお願いしておいた


「なるほど、それで使徒様かー」

「ヤマトとは珍しい名前だと思ったら、他所の…世界?から来たんだな」


 すんなり信じてくれるとか、女神様パワーすんごいな

 村長もそうだったけど、基本的に信心深い人が多いのかな


「それで結局、ハジメとヤマトのどっちが名前なのさ?二つあって何か意味あるの?」

「ヤマトが俺の居た国の…まぁ古い国名で、俺の苗字…こっちでは家名でいいのかな…?あれ、苗字と家名って何が違うんだ…?」

「お、王族なんですか〜!?」

「ち、違うよ!それなりに名乗る人は多いから!多分…」


 まさか王族に間違われるなんて、俺の人生にあるとは思わなかった


「だが家名持ちという事は、やんごとなき血筋なのか?」

「いえ、中にはそういった事情の家系もありますが…大半の人間の理由はたしか国民の管理の都合で、苗字を名乗らせる事で個人がどの家庭に所属」

「難しい話はいいよ!それよりゴブリンの天敵って、お兄さんだったんだ」

「ミリア、少しくらいはこういった話にも興味をだな…」

 

 対照的な反応だな、うん


「ゴブリンの天敵って一体?」

「わざわざゴブリンを呼び寄せてたくさん退治してる、とんでもない人」

「最寄りの小さなコロニーが一つ、壊滅くらいはしただろうな」

「それって、何か別の被害が出たりは…?」

「生き残りが居たとして別のコロニーに向かうだろうが、受け入れられるかどうかはわからない。まあ野垂れ死ぬだろうな」

「Expとして始末した方がお得なんだろうけどねー」

「ヤマトの戦い方の理由がわかったな。人間相手には分が悪いわけだ」

「魔物相手なら本気を出せるんだね。ボクの参考にできるかな?」

「自分でもあまりおすすめはしないかな…囲まれやすいし、ステータスが低い間は特にね」

「それはこれからだよ!そうだコロちゃん、ステータス見てもいい?」


 ぷるぷる


 頷いてるけど、通じるかな…?


「ありがとね!…おー、これはすごい」


 通じたようだ

 あれはステータスを見る道具か

 教会以外にもそういうのあるんだな


「どれどれ…ゴブリンともタメを張れるな」

「コロちゃんは俺の英雄です!」

「コロちゃん、ハジメさんの無茶に付き合ったらだめですよ〜?」


 ぷるぷる


 コ、コロちゃん…やっぱり君はいつだって俺の味方で


「もう〜コロちゃんも、めっ!ですよ〜?」


 がーんっ!


「コ、コロちゃんとも約束したから!もう無茶はしないって!」

「ならいいですけど〜」


 なでなで

 ぷるぷる


 ノーラに撫でられて嬉しそうだ


「二人とも、もう大丈夫そうだな」


 あ、ノーラがいつの間にか元に戻ってる


「ミリアのおかげだよ。俺じゃノーラに何もしてやれなかった…」

「ううん、お兄さんのお話で色々と吹っ飛んじゃったんだよ!」

「お二人には感謝しています〜」

「さて、道中の護衛と、暫くの間は教会と旧孤児院に警備を手配しよう。だから今日はもう帰るといい」

「団長!ボクが送るよ!」

「ダメだ。少なくとも見習いがやっていい事じゃない」

「わたしも反対です〜」

「俺もだよ」

「ぶぅ」

「そうむくれるな。本当は道中だけならヤマトが居れば充分なんだ。正式な警備の人員が用意できるまでの要員だしな」

「団長!ボク、入団したら寮を出るよ!休日は自宅警備員ってね!」


 その概念、こっちにもあるのか

 って言うか、ミリアの場合はニートじゃなくてガチなヤツだな


「そうか。また華やかさが減ってしまうな」

「帰って来てくれるんですか〜!?」

「やっぱりノーラの傍に居たいからね〜」

「今はだめなんですか?」

「見習いの間は環境に慣れる意味合いもあるし、それだけ集中して訓練できるからな」

「なるほど」


 英才教育みたいなヤツか


「そしたらお兄さんとも、手合わせし放題だしね〜」

「なんかもう、お兄さんやめて名前で呼んでよ」

「じゃあノーラとお揃いでハジメでいいかな〜」

「ほらほら、ここは集会所じゃないぞ。今日はもう帰った帰った」

「はい。ありがとうございました」

「ミリアの部屋はそのままですから〜」

「ありがとねノーラ!気をつけて帰ってね!ってハジメが居れば大丈夫か」

「はは、護衛の人が居るしね」

「ありがとうございました〜」


 団長が夜番の人に話を通してくれて、その人が家まで送ってくれた


「道中と、正式な警備要員が来るまでの間、お守りします。今夜もどうか安心して寝てください」

「お世話になります」

「ありがとうございます〜」


 強そうで頼もしそうな人だった

 人当たりもよかったし

 団長も、大人の対応と言うかミリアも呼んでくれて…


「まさかミリアと家族だったなんてね」

「ハジメさんこそ手合わせまでしてたんですね〜」

「めっちゃ強かった。試合には勝ったけど勝負で負けた感じ」

「小さい頃から元気な子でしたから〜」


 元気な子、か

 それってつまり…


「それで回復魔法を覚えたの?」

「わかっちゃいましたか〜」

「すっごく仲が良さそうだもん」

「魔物から守ってくれた時の怪我が切っ掛けですね〜」


 一度だけ戦った経験ってそれか


「その後、努力し続けたのはノーラ自身だよ」

「照れちゃいます〜」

「昔から優しいノーラお姉ちゃんだったんだね」

「言い過ぎですよ〜」

「そんな事ない。断言する。ミリアもそれからずっと努力してるんだろうな」

「もう〜ミリアこそ本当に頑張り屋さんなんですから〜」

「二人とも家族思いのすっごくいい子だ」

「…何か思い出せましたか〜?」


 来たか

 今までそっとしておいてくれたんだよな


「いや、なにも。気にしてないから別にいいんだけど」

「本当ですか〜?」

「思い出せないからこそ、気にかからないのかな。薄情なのかも」

「それだけは絶対にないですよ〜」

「だといいんだけどね…」

「やっぱり魂の修復は内緒なんですか〜?」

「うん。とりあえずはそれで行くよ。心配かけるだろうし」

「やっぱり薄情なんかじゃないですよ〜」


 …やられたな

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