第38話 俺、ドナドナする側になった
魔力感知に反応が横切る
場所は旧孤児院の辺りか
魔力の大きさは一瞬でわからなかったな
ノーラがトイレにでも…
いや場所がおかしい
「まさか魔物?」
おいおい、壁の内側に出てくるなんて聞いた事ないぞ
こっち歴一週間の俺が知らないだけか?
万が一って事もあるし、一応は見ておくか
何もないならそれでいい
旧孤児院に近付くと魔力感知の範囲に建物がすっぽりと収まる
「ノーラでもコロちゃんでもないな」
反応が4つある
一つはノーラ、一つはコロちゃんだとして…
「餌を探してウロウロか?」
それにしては食べ物のある方へは行かないな
鼻が利かないのか
コロちゃんは起きたみたいだな
敵はこの角の向こうに…って、ノーラの!
「くそっ!」
観察する暇もない!
一気に駆け抜けてすれ違いざまに…
「中…居る…」
「何も…からな…せ……攫っ……るか」
話し声…?
攫うって!?
剣を抜こうとしてる!
「なっ!?」
「ちっ!」
…
人…
人を斬った…
俺、初めて人を…
ってもう一人は!?
…逃げられたか
動揺している間に襲われなくて良かった?
まさか今もどこか物陰から…
いや、それならとっくに襲われてるのか?
「どうしたんですか〜?」
目をこすりながらノーラが部屋から出てきた
そうだよ、俺、ノーラを守ろうと思って…
「あ、ノーラ…俺…」
「う、うぅ…」
「きゃぁ〜〜〜〜!!!!!」
「ノ、ノーラ!これは!」
「こ、殺さない……れ…俺……悪かっ…うぁっ…!」
「止血してください!魔力結晶をとってきます!」
「あ、えと…」
止血?
手首が転がってる
剣を握ったまま…
「助………れぇ!…くっ」
「早く!」
頬に衝撃…
===
ダグ 鼠人 38 追放
パーティ:ロゴジン
状態:正常
Lv 40 Exp 308,863
HP 31/190
MP 42/42
SP 154/156
ATK 180
DEF 163
MATK 28
MDEF 25
SPD 156
STR 205
VIT 209
MGC 66
AGI 184
スキル:ステータスLv3、パーティLv3、剣術Lv3、SP回復量上昇Lv3
===
ーーー
ステータス
自分のステータスを表示したり隠したりする
- Lv3
ステータス隠蔽
ステータスオープンの際に、表示する項目を選べる
【ステータス閲覧】Lv1のスキルに抵抗できる
パーティ
取得経験値を仲間と分配できる
ステータスのスキルで当事者だけがメンバーを確認できる
勧誘と維持に人数×1のMP消費
パーティの最大人数はスキルLv+1
- Lv3
有効距離400m
自分のExp取得を破棄して任意の仲間へ分配できる
剣術
剣を扱う技術
- Lv3
スラッシュ MP10
剣撃を飛ばす
ーーー
見る間にHPが減っていく
でも、生きてる
「わ、わかった!」
「もう一度言う。妙な動きをしたら殺すから。あと、口も開くな」
…コク
切り落とした手首を見せつけながら脅すと、ダグは青褪めた顔で黙って頷いた
まるで悪役のようなセリフだがこの場合は仕方ない
声や足が震えてるのは上手く隠せてるだろうか
「ノーラ、大丈夫?」
ノーラに足を縛ってもらう間、そしてノーラが回復魔法をかけている間、きっちり首筋にナイフをあてていた
ほんとに悪役っぽいな、俺
手が震えてたのはバレてただろうか
手元が狂う恐れがあったから下手に動けなかっただろうが、それはそれで構わない
手首までもが回復したのは都合がよかった
最初は回復魔法の効果に驚き、次にノーラの慈悲に憤りすら感じた
それでも俺が縛る時には手首があるのはちょうど良かった
ノーラが頷く
事が終わってからノーラは恐怖を実感したようで、俺の腕の中で震えている
「こいつに仲間が居たんだ」
あらためて確認すると、こいつのステータスからパーティの項目が消えていた
こいつはMPを消費していない
つまりパーティリーダーではない?
いや自然回復した可能性もあるのか…
「こいつを突き出すのに、ついて来て欲しい」
パーティの項目が消えたのは、有効範囲から出たのかもしれないし、解除したのかもしれない
とにかく戻ってくる可能性がある以上、ノーラを残しては行けない
それ以前に、こんな状態のノーラを放っておけない
ノーラは黙ったまま頷いた
詰め所に連行したら、その足でリスガー騎士団本部に行く事になった
俺が侵入者を殺しそうになった事、仲間が居たが逃がしてしまった事、ノーラのおかげで生きている事など、経緯を説明した
「あいつは生死不問で中銀貨二枚の賞金首だ」
カルーノ団長が賞金を渡してきた
「ありがとうございます。あいつはどうなるんですか?」
「追放された後も悪事を働いたから死刑は確定だ。お前に処理する権利もある。やるならリスガー騎士団団長として立ち会おう」
「いえ、せっかく彼女が助けて…」
「もう確定している事だ。それと、追放者と知らずに命を助けたのか?それとも」
「俺は知っていましたが、伝えてませんでした!何かマズいんですか?俺、そういった事は何も知らなくて…」
「なら忠告しておく。次からは、追放者とわかったら助けるな。最悪、助けた相手を処理しなければ同罪になるぞ。とは言え、尋問の機会を与えてくれたのは感謝している」
「はい…」
「それで、あいつはどうする?」
「さっき、手首を切り落として…その…感触が残ってて…実はまだ、震えが止まらないんです…」
白状してしまった
俺、ノーラと二人でずっと震えてる
ノーラに抱きしめられたコロちゃんは、慰めようとしてるようにも見える
「そうか…お前は、シスターを守ったんだ。それは忘れるなよ」
ノーラが俺の腕につかまる
目を向けると、俺を見て頷いた
「はい…」
「少し休んで行け。落ち着くまでな」
「お言葉に甘えて」
小部屋に通され、落ち着くからと何かのハーブティーを出された
無言で飲む
ノーラは手を付けず、ただコロちゃんを抱きしめている
俺、なんて言葉をかければいいんだ…
「ノーラ…」
「ノーラ!」
その時、ノックもなしに部屋のドアが開かれた
「大丈夫!?怪我はない!?」
「ミリア…」
駆け込んできたミリアがノーラに抱きつき、ノーラも抱きしめ返している
「ミリア?」
「あれ?お兄さん…?」
「ミリア…いや、ここは騎士団か。ノーラと知り合い?」
「ボク、孤児院の出身だもん。それよりお兄さんこそ、なんで?」
「ミリア、人の話は最後まで聞くものだ」
開かれたままのドアからカルーノ団長が入ってきて、静かにドアを閉める
「あ、ごめん団長」
「ヤマトは教会に住んでるらしくてな、今回の功労者だ」
「えぇ〜!?ノーラと二人で暮らしてるの!?ノーラ!大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ〜」
あ、ノーラが少し笑った
一緒に育った、気心が知れた仲ってのは凄いな
「ハジメさんは心配するような人ではないです〜」
「そ、そうなんだ。ごめんねお兄さん」
「心配はかけさせられますけど〜」
「あー、いつも心配かけてごめんねノーラ」
「ちょっと待て。ヤマトだよな?ハジメって何だ?」
「あ…」
そうか、ノーラはずっとハジメで呼んでるんだ
対外的にはヤマトで通してるのを知らないから
「ん?そう言えばお兄さん、ヤマトだよね?」
「ハジメさんはハジメさんですよ〜?」
「何だ、アダ名か?」
「ステータスを見せたら早いです〜」
あ…
致命的な一言が…
「ボク達が見た時はヤマトだったよね?」
「改名手続きでもしたのか?」
ミリアとカルーノ団長も首を傾げている
「えっと、夜も遅いですし、また後日改めて…」
「えー?気になるじゃない!」
「悪事でない事は確認したい」
「ハジメさんには何も問題ないですよ〜!それに使徒様を疑うんですか〜?」
「「使徒様?」」
ノーラさんや、なんで貴女がそんなに追い詰められた空気を出してるんですかね?
こうなったらもう!
「まず女神の加護というものがありまして…ステータスオープン」
「Lv0だと!?」
そこ、やっぱり気になりますよね
「あれ?ステータスの数値が上がったり下がったりで…なにこれ!?」
うん、一般的な基本値と算出値の関係じゃないっぽいよね
「やっぱりハジメさんはハジメさんじゃないですか〜!」
ありがとう、いつもの君に戻ってくれて
ぷるぷる
コロちゃんもいつものままで傍に居てくれてありがとうね
なでなで
ぷるぷる
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