第37話 日進月歩

 えーっと、収納魔法とMPポーションがトントンだから、計算から外すとして…

 残り7って事は…MP38の消費だから、19回か

 初日に1回組んでるから、合計で20回!


 取得済みの他のスキルと比べて随分と少ない回数でスキルLvが上がったな

 これがこのスキルの普通なのかな?

 それともこのスキルと相性がよかった?


 まあこれも、考えても仕方ないし、わかったところで何がどうなるってわけでもないしな


「コロちゃん、おかげで【パーティ】のスキルLvが上がったよ。ありがとね〜」


 なでなで

 ぷるぷる


 しかしこのスキル、Lv2の効果に

 『自分のExp取得を破棄して仲間全員へ分配できる』

 って書いてあるな…


 今更だが取得Expってどういう計算なんだ?

 今まで、魔物のステータスに表示されてたExpがそのままコロちゃんに入ってたよな?


 全員が取得できるExpが表示されてた?

 パーティ人数に応じて、リソースが分割された状態での表示?

 ステータス改なら有り得る


 でももし、俺が取得できない分のExpがコロちゃんに向かって流れてたら…?

 もしもそうだとしたら

 原因はともかくとして、このスキルLvアップがなかったら…

 万が一、今後周りに観察されでもしたら、おかしな状態だって思われる可能性があったのか


「コロちゃん、今まで誰かに勝手にステータスを覗かれた心当たりはある?特に戦闘中」


 ぷるぷる


「そうだよね〜、さすがにそんな細かいことわかんないよね〜」


 なでなで

 ぷるぷる


「いいんだよ〜、気にしないで。そうだとしても、起きてしまった事は仕方ないんだし」


 なでなで

 ぷるぷる


 ぷるぷる


「ん?もう眠いの?今日は特にたくさん動いてたくさん食べたもんね。おやすみ〜」


 なでなで

 ぷるぷる


 ぴょいん


 ぷるぷる


 コロちゃんのステータスを初めて見た時、ExpとLvが高めだったように思う

 そして移動中にテオさんとコロちゃんがパーティ組んでた時は、コロちゃんのLvが上がったって言ってたな…


 もしかしてテオさん、既にこの辺の魔物のExpはあってもなくても変わらないからって、ゴブリン四匹分を全部コロちゃんにくれてた?

 マドロイさん曰く、テオさんってすんごい強いらしいし


 テオさんの印象からすると、可能性は…充分に有り得るな

 本当にやってそうだ


 コロちゃんの生存率を押し上げる要因になってたんだろうな、きっと

 今度会ったら、これもお礼を言っておこう


「さて、こっちはこっちでギュルンギュルンから練習始めますかね〜」


 おっと!


 コロちゃんを見る


 …大丈夫、起こしてない


 コロちゃんはお休み中だから、独り言は極力抑えよう

 安眠妨害はこの世で最も忌むべき害悪のひとつなんだから…


 さて

 せっかくだ

 まずはこの、残りMP7の状態でギュルンギュルンしてみよう


 チラ


 チラ


 コロちゃんの寝姿が気になる


 これは普段からやってるから、多少の雑念があっても続けられるな


 次の段階に行ってみるか

 この残った魔力量を薄く伸ばして…


 窓を開けてみる


 風は吹いてるな


 この量で…さすがに風は遮れないか


 手に集めてみて…これは成功してるんじゃないか?

 そうか、この程度には効率的に使えるんだな

 でもこれだとせいぜい、そよ風を遮る程度だな

 もっと質を高めないと

 いや、量か?

 両方が必要という前提で考えていこう


 では量はともかく、質ってなんだ

 何を以って質が高いと言える?


 例えば、火を出す魔法で考えると

 魔法だし俺レベルの化学的考察は脇にどけておいて…

 量はそのまま範囲というか大きさと言える…よな?

 温度は質と言えるんじゃないか?

 より温度の高い火を出せると良質だろう

 よくあるのは、魔力を圧縮するようなイメージだ

 結局は密度とかその辺か?


 いや、魔力で何かを燃やすんじゃなく、魔力を火というものに変えてるとしたら

 それはもう変化、変質だよな?

 もしくは、燃えるという現象そのものを呼び出してるのか?


 後者なら呼び出したものは回収できるのか?

 こっちは一旦、保留しよう

 前者だとしたら、もう一度変化させて魔力に戻せるんじゃないのか?


 魔力を俺に都合のいい物質的な何かに変化させて、使い終わったら魔力に戻して回収する

 これが正解だとしたら、どんな魔法でも下手したら魔力まで分解できるんじゃないか?

 そうでなくとも仕事をさせた後に残ったエネルギーがあったとしてそれを回収できれば凄い事になりそうだし、そもそも俺の魔力から変質させた物は俺の魔力に戻せるに決まってる!


 という前提で、昨日やった練習をもう一度やってみよう


 体の延長、体の延長…覆ったな


 変質…変質…


 硬くなる…硬くなる…


 ナイフじゃわからんな

 何か柔らかくて小さい物…パーカーの紐でいいか、細いし

 どうせ汚れて着れなくなったんだし、引っこ抜いちゃえ!


 こいつを魔力で覆って…へにょんと曲がる

 でも完全には垂れてないぞ!?

 少しだけ硬くなったか!


 もう少し硬くなれ…硬くなれ…

 

 まだ垂れてるな…

 さっきよりマシだけど

 真っ直ぐになれよもう!お前は立ち上がれる!項垂れるな!頑張れ紐!

 ほら、手伝ってやるから!伸ばしてやるから!真っ直ぐになれよ!

 よしいいぞ、そのままもっと硬くなれ!


 硬くなれ…硬くなれ…もっとだ、もっと硬くなれ…


 よし、振ってみよう!

 あら不思議、ぐにょんぐにょんに曲がります!


 ってこれ、ペンとかが曲がって見えるあの現象じゃないか!

 つまりはちゃんと硬くなってる!


 試しに手で曲げると…曲がるのかよ!

 ほら、真っ直ぐになれ!伸ばしてやるから!

 そしてもっともっと硬くなれ!いいぞその調子だ!頑張れ!お前は出来る子だ!やれば出来る!


 振ってみると…ヒュンヒュン音がする


 手を叩く…痛い


 曲げる…曲がる


 伸ばす


 手を叩く…痛い


 曲げる…曲がる


 そのまま叩く…痛い


 これはあれだ!

 俺に都合のいい物質的な何かだ!

 曲げようとすれば曲がるし、それでも硬さはそのままだ!


 新しい物質が誕生したぞ!俺が作ったから俺ニウムだ!


 俺ニウムを使った魔法剣!

 俺ニウムの膜で覆われた剣は俺の意志だ!折れず、曲がらず、よくキレる!


 俺ニウムを使ったマジックフィルム!

 俺ニウムの膜で覆われた俺は無敵だ!血にまみれたりはしない!


 まあ冗談はおいといて…


 このまま魔力回収…

 できないか


 元に戻れ…元に戻れ…

 そして回収…もう一度!


 元に戻れ…元に戻れ…

 そして回収…もう一度!


 元に戻れ…元に戻れ…

 そして回収…できた!


 あとは…形だな

 硬いだけじゃ叩くだけの棒だ

 戦ってる時にスイカ割りなんてしてられない

 鋭さが必要だ


 鋭いナイフ…

 俺ニウムで出来た、見えないナイフ…

 鋭く…鋭く…


 木くらいは削れるようになって欲しいな

 外に出よう


 よし、この枝でいいか

 鉛筆を削る感じで…


 もっと鋭く!

 削る感じで…


 もっとだ!もっと!

 削る…


「ダメじゃん」


 おっと、つい口に出た


 削ると言うか、ゴリゴリ押し付けてる感覚だな


 ナイフそのものをコーティングしたら…

 薄ーく、薄ーく…


 あまり切れ味は変わらないか

 これは要練習だな

 とりあえず丈夫にはなってるだろう


 いや、考えてみれば今の俺はMPが7だった

 今夜の練習ではまだ、MPポーションを使ってない

 という事は、まともな量の魔力を使って実用性を高めればいいんだ


 一本ぐいっと


 色々と忘れないうちに、今日思いついた事を繰り返し繰り返し反復する


 それにしても、これで練習メニューが一気に増えたな…

 でも何をしていいか分からないよりはずっといいし、武器の損耗も抑えられるだろう


 風呂の修理代はさっき不要になったし、装備の分も魔法でお金を節約できるし…


「いいこと尽くしじゃないか!」


 じゃないか…

 じゃないか…

 じゃないか…


 夜中に騒ぐなよ俺…

 ってかもう夜中なんだな


「集中し続けて汗ばんできたな」


 そして清浄…待てよ?

 体を覆って…清浄


 成功したな

 さすがは俺ニウム、清浄の邪魔をしない!

 ちゃんと体が綺麗になってる

 体を覆う魔法同士が干渉せずにきちんと…


 清浄は体を綺麗にする

 つまり体を覆ってるんだよな?


「体を覆う…」


 スキルは切っ掛け


 もう一度、清浄


 確かに体を覆っている感覚がある


 そうだよ!体を覆う感覚はこれを参考にすればいいんだ!


 綺麗にする感覚は…この際、無視しよう

 変に認識が変わって、綺麗に出来なくなったら困る

 それどころか変な効果になってしまったら困るどころじゃなくなる可能性もある


 着火


 湧水


 送風


 うん、どれも参考に出来そうな感覚がある

 基礎というだけあって、応用が利きそうだ

 この基礎魔法ってのを作った人は、もしかして凄いんじゃないのか?

 わざわざ基礎なんて名前を付けたんだから、こういうのを想定してたんじゃないのか?

 ひっそりと、俺、天才?とか思ってたけど、先人の掌で踊ってるだけなんじゃないのか?


 でも関係ないね

 大事なのは実用性、俺自身が何を…


「ん?」

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