第36話 熟練度

 リリアナお姉さんに追求される前に帰ってきた

 あれ以上ボロが出ると困るからな!


「ただいま〜」

「おかえりなさい〜」


 ああ、居候の身なのにこの安心感

 心置きなく『ただいま』と言える場所

 女神様の件がなければ永住を決めていたかもしれないな…いや、ずうずうしいか


「魔力結晶とってきたよ!」

「たくさんありますね〜また無茶したんですか〜?」

「心配かけるような事態には陥ってないよ。服とかも綺麗なもんでしょ?」

「出掛ける前の服はどうしたんですか〜?」


 にこにこして…尻尾は正面から見えない位置にあるな…


 いい考えだと思ったんだけどなー

 女の人の観察力って凄いんだなー


 俺が残念なだけだな、うん


「…汚れたから着替えたよ」

「洗濯できそうですか〜?」

「前回よりはマシだと思うけど、ちょっとどうかわからない…」

「試してみるので、出しておいてくださいね〜」

「無理そうなら試さずに捨てていいから。安物を選んでるし」

「あまり勿体無い事はしないでくださいね〜」

「気を付ける…」

「では晩ご飯を用意しますね〜」


 待ってる間、ずっとつんつんぷにぷにしながらギュルンギュルンしてた

 下手にMPを消費して寝る前の練習ができなくなっても困る

 それにご飯の前にMPポーションを飲むのはご法度だ

 色んな意味で


 …台所は聖域って、あれ本気だったんだな


 今日もノーラの作ってくれるご飯おいしかったです






「本当に魔力結晶をMPに消費していいんですか〜?」

「そのつもりで持って帰ったんだよ」

「ではスキル結晶を作りますね〜」


 おー、なんか光ってる


 魔力結晶に込められる熟練度の上限は、魔力結晶のMGCか本人の熟練度の低い方らしい

 込める量の調整はなかなか難しく、そもそも魔力結晶が無駄になるため、あまりやらないそうだ

 つまり、熟練度を込めると普通は魔力結晶の上限いっぱいまで熟練度をごっそり持って行かれるのか


 熟練度が下がってもスキルLvは下がらない

 単純に下がる前のスキルLvとして発動しなくなる

 なので、スキル結晶を作ったら速やかに熟練度の回復作業をするべきらしい


 熟練してるから熟練度なんじゃないの?

 何?スキル結晶を作ったら下手くそになるって事?

 わけがわからないよ


 まあ、魂の余剰分だの世界のリソースだのにツッコミ入れても仕方ない


「これから熟練度の回復だね」

「ではこちらの魔力結晶を使わせていただきますね〜」

「どうぞどうぞ」


 ノーラが魔力結晶からMPの供給を受けながら回復魔法を使い、熟練度を回復していく

 その間に俺がスキル結晶を使う


「だめだった」

「なら次ですね〜」


 スキル結晶1個分の熟練度を回復するのに同じ種類で10倍の個数が必要なら…


「11個で1セットって事は、消費MPが10なの?」

「よくできました〜」


 褒められた

 俺が褒められて伸びるのは鼻ぐらいなもんだ


 こんな感じで、ゴブリンの分が3セット、グラスウルフの分が1セット、合計4セットのスキル結晶が作られ、消費された

 結局、今日は覚えられなかったな


「スキルLv1を覚えるためには一般的にどれくらい熟練度が必要なんだろう?」

「苦手な人でも500回くらいですよ〜」

「そんなにか」

「適性の低いわたしでもそれくらいで覚えましたから〜」


 適性が低いって…


「ちょっと待って。適性が低いのにLv5が使えるって、今どれくらいの熟練度なの?」

「わたしの場合は多分、Lvが上がる毎に必要な熟練度が100ずつ増えるくらいでしょうか〜」


 という事は回復魔法の熟練度は適性の低い人がLv1を覚えるのに500必要として

 Lv2で600、Lv3で700、Lv4で800、Lv5で900、Lv5までの累計で…3500


 ざっくり一日一回使ったとして10年近くか


「わたしの場合はしっかり感覚を掴むまでが苦労したので〜」

「それが500回?」

「失敗も含めるともっとでしょうか〜」


 小さいうちはMPが足りなくてそもそも発動できないとしたら、ある程度育ってから練習を初めて…

 Lvが上がって最大MPが上昇して一日の使用回数が増えたとしても…

 どんだけ頑張ってきたんだこの子は


「なんか、スキル結晶で覚えようとしてるのが申し訳なくなってきた」

「癒やし手が増えるのは大歓迎です〜」

「そう言ってくれると楽になるよ」

「気にしたら負けですよ〜」

「ところで、金額の相場を聞いてもいいかな?」

「熟練度によるらしいですよ〜」

「計算方法ってあるの?」

「聞いた話ですけど〜」


 スキル結晶に回復魔法の熟練度を込めると、熟練度1が50G

 これは回復魔法一回分として考えると主観的には不思議ではないな

 相場として高いのか安いのかはわからないけど


 50G×熟練度22回分で1,100G

 そこに結晶自体の値段が…冒険者ギルド買取価格でいいか。250G

 合計が1,350G


「そこから先は買い取ってくれる店との交渉次第って事か」

「それでもMPポーションを使ったら回復魔法は赤字と聞きますね〜」


 確かにMPポーションでMPを回復しようとしたら5本要るから1,500Gで足が出るな

 ノーラはMPポーションの回復量より最大MPが少ないらしいから必要本数も増える

 結果、赤字が膨れ上がるか


 店に売る時にこの金額にちょっと上乗せしてもどうにもならないな

 MPの自然回復に頼って熟練度を回復していくしかない

 数日かかるのに、ひとつ1,350Gか

 小遣い稼ぎにはなっても、なかなか本業にはならないな

 そして希少価値が跳ね上がる


「冒険者が回復魔法を覚えるのって大変そうだね」

「自力でもスキル結晶でもだいたい苦労するらしいですよ〜」

「珍しい分、店頭での価格が跳ね上がってそうだ。その分高く買ってくれって交渉すればいいのに」

「作れるのは聖職者が多いですから〜」

「…俗な聖職者も居そうだけどな」

「そういう人はもっと割のいい商売をしますよ〜」

「そうでない聖職者は、もっと売値を下げろとか言っても神様は怒らないと思う」

「お店の人も生活がありますから〜」


 なんかこの話を続けるとイライラしてきそうだ

 ヤメだヤメ!


「今日もだけど、いつもありがとうね、ノーラお姉ちゃん」

「もう〜年上でわたしより大きい弟さんですね〜」


 ノッてくれた

 ほんとありがとう、ノーラ


「残った魔力結晶は返しますね〜」

「教会の分の足しにしてよ」

「ん〜、それなら半分こしましょう〜」

「なるほど、ちょうどいいね」

「それじゃあ一個ずつ〜」

「それから、今日の分のお金ね」

「え〜っと〜…」

「受け取ってよ。それとも足りないかな?」

「これでお風呂の分が貯まりました〜!」

「うそ!?ほんとに!?」

「はい〜!」


 にこにこ、パタパタしてる

 これはマジなヤツだ…!

 疑ったわけじゃないけど…疑ったわけじゃないけど!


「風呂無し一週間…長かった…」

「むしろ早いですよ〜!」

「じゃあ後は、魔石を買ってくればいいの?」

「明日、注文してきます〜!」

「あ、買ってきてすぐに使えるとかじゃないんだ…」

「複雑な物ではないのですぐです〜」

「明後日には入れそう?」

「なんとかなるかと〜」

「やったー!」


 よかった!

 マジでよかった!

 途中で嫌な気分になりかけたけど、お風呂一つで上機嫌だ!

 明日一日我慢すれば、お風呂に入れるんだ〜!






 ルンルン気分で部屋に戻ったはいいが、気持ちが浮ついてすぐには集中できそうにない

 これじゃ練習はできないから、パーティの熟練度を先に上げるか

 際限なく試すのもあれだから、今日はこの魔力結晶の分だけにしよう

 MP22と等価だから、勧誘と維持で11回分か


「コロちゃん〜」


 ぷるぷる


「【パーティ】ってスキルの熟練度を上げたいから、お手伝いをお願いできる?」


 ぷるぷる


「ありがとねコロちゃん!まずは一旦、パーティを解除するね」


 熟練度上昇の条件はわからない

 なら、結成と解散を繰り返すのが妥当だろう


 パーティのスキルを使うと、いつか見た光の玉がコロちゃんに飛んでいく


 ぴょいん!

 すちゃっ!

 ぷるぷる


「おおお!コロちゃん、空中キャッチもカッコ良いし、華麗な着地をキメられるようになったんだね!凄いぞ!」


 なでなで

 ぷるぷる


 何度繰り返しても、コロちゃんは空中でカッコ良く光の玉を迎撃し、華麗な着地をキメる

 調子に乗って繰り返していたら、残りMPが1になっていた


「あー、魔力結晶分を使っちゃったな…」


 もう少しだけ、もう少しだけコロちゃんと遊びたいなー


「よし、魔力結晶からの魔力供給とMP回復の練習をしよう。そうしよう」


 そう、これは練習に必要な事なんだ

 決して無駄な行為ではないんだ!


 まずは魔力結晶からの魔力供給でスキルを使ってみる


「コロちゃんカッコ良いー!」


 ぷるぷる


 次は魔力結晶でMP回復だ


「お〜、何て気持ちが楽なMP回復手段なんだ。これでコスパさえ良ければなぁ」


 でも緊急時には使えるな、これ


 そして何回か繰り返し、残りMPが7になったところで…


「【パーティ】のスキルLvが2に上がったよコロちゃん!」


 つんつん

 ぷるぷる


ーーー

パーティ

  取得経験値を仲間と分配できる

  ステータスのスキルで当事者だけがメンバーを確認できる

  勧誘と維持に人数×1のMP消費

  パーティの最大人数はスキルLv+1

 - Lv2

  有効距離200m

  自分のExp取得を破棄して仲間全員へ分配できる

ーーー

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