第34話 研究と実践

「ファンタジーだな」


 生き物としてのスライムなんて、ファンタジーそのものだ


「俺が居るのはファンタジー世界だ。現実だけどファンタジーなんだ」


 固定観念?

 それがどうした

 魔法ってのは何でも出来る


 漫画やゲームで色んな魔法的なものを見てきたじゃないか!


「とは言っても、実際どうしたもんか」


 切っ掛け…

 スキル結晶を手に入れて…


 どこで?

 売ってる場所は探せばあるだろう


 いくら?

 高いと国が買えるとか言ってたけど、逆に言えば誰でも作れる安いのだってあるかも


 俺でも買えるの?

 確かめた事はないが、薬品みたいに購入資格があったりしたら面倒だな


 それにスキル結晶ってどう使うんだ?

 魔力操作と魔法感知はその場で覚えさせられた

 覚えさせてもらった

 自力でのやり方はわからない


「そもそも、スキル結晶はスキルを自力で覚えた人が作れるはず。という事は、スキル結晶に頼らずにスキルを覚える手段があるんだ。俺だって【短剣術】…はあやしいけど、【集中】なんてスキルを自力で覚えたし」


 それが魔法で言えば体系化された呪文や現象か

 ならそれを考え出した先人達は…


「根源へと至る意志」


 魔法ギルドのお兄さんは、俺に新しく魔法を作れと言っているようなものなのか

 だったらいっそ、俺にとって都合のいい魔法を作ってやろうじゃないか

 既存の物理現象とか、体系化された魔法とか知ったこっちゃない

 またもや、ある一点に結論が戻るのか

 前にもなんかあったな、似たようなこと


「まずはこの、体内でギュルンギュルン動かせるようになった魔力をどう活かすかだ」


 動かすだけではMPを消耗しない

 よくある、気の循環みたいな感じだ

 少なくとも、この世界じゃ眉唾ものじゃない

 気というか魔力を練ってエネルギー波みたいなのを…出ろ!


「プスンて…プスンって!」


 さすがにそう簡単には行かないか

 体から離れた魔力が雲散霧消するだけだ


「そろそろ一本いっとくか」


 MPポーションを飲む

 今の無駄遣いで枯渇寸前だ


 少なくともこの辺の魔物でMGCが多い奴は居ない

 という事は、俺のMGCはなかなか成長しない

 つまり、放出する感じのものは今は向いてない

 何かをやったあと、体内に回収できるような運用が必要だ


 よくあるのは、身体強化だな

 筋肉の補助?

 それもありだけど、せっかくだから違う事をしてみたいし、感覚が掴めないとイメージも沸かない

 【体術】のスキルはパッシブだからオンオフできなくて切っ掛けになり辛い

 これは保留だな


 他に何か切っ掛け…


「そもそもなんで火やら水、光を作り出せるんだ?風も吹かせられるし、一番わからないのは清浄の魔法だ」


 基礎魔法とは、そういうもの

 そんな認識が浸透して、それを覚えて使うと、魔力と引き換えにその現象が起こる

 そういう、体系化された魔法


「もはやイメージ力というか認識、むしろ妄想の域に達してないか?」


 だってファンタジーだもん

 なんて、身も蓋もないようだけど、そうとしか考えられない


「また脱線しまくってるな」


 作用機序はともかくとして、魔法は何かを生み出せる

 物質だったり、物理現象だったり、説明のしようがないそれこそ妄想のような出来事だったり

 避雷針を避けて相手に届く電撃だったり、空中に浮かんで相手を目掛けて飛んでいく岩塊だったりは定番だ

 多分、エネルギー源としての魔力というのが唯一の法則なんだろう

 やっぱり、念頭に置くべきは回収できて再利用できる使い道だな

 …またこの結論か

 だから、その使い道を探してるんだろうに

 いや、魔法そのものに慣れたら、それこそ魔法のようにエネルギーの保存則みたいなのも無視できるかもだけど

 到達の可否以前に、あるかどうかもわからない到達点はこの際、置いておこう


「何かを生み出す。攻撃、補助と来たら、次は守りか」


 気、じゃなくて魔力を使った守り…

 身に纏う…


「纏うまでは出来てるんだよな」


 何に使うか

 俺の戦い方は今のところ、最短最速の一撃離脱と、距離を取れない場合の近接格闘

 ごく真っ当な物理的戦闘手段だな


 殴られて痛くない、斬り付けられて傷付かない、そんな守り

 鉄板…はパスだな。動けないし、視界が塞がる

 そもそもそんなものを作ったとして魔力を回収できるのか?

 魔力の膜とかが物理的抵抗力を持てばいいんだ


 やっぱり纏ったままの状態で作用してくれないと

 例えば、今吹いてる風を遮るとか…


 うん、一部だけだな

 もう少し薄く伸ばして…


 隙間風がくすぐったい


「ああ!消えた!」


 雑念が入ると難しいな

 でも練習次第でできそうだ


 もう一本いっとこう


 次は逆に、一点集中

 こっちの方が意識しやすいな


 密度を高めたら触れたりしないかな?

 風は遮れたんだから、やってやれない事はないんじゃ?


 まず、できるという前提で…


「これをどうする?」


 貫手や手刀が使えるようになる

 でもリーチとそもそもの魔力の絶対量がな…


 『魔力量と指向性』か


 広範囲に使える魔力の絶対量はこれからに期待するとして


 武器に纏って魔法剣!…とか?


「むむむ…」


 じんわり広がる…けどこれも難しい

 だが難しいだけだ


「体の延長、体の延長…」


 伸ばし過ぎた

 ひょろっとしてる


「リーチ伸びるな、おい」


 また消えた

 また一本


「あとは形と硬度か」


 へにょへにょだ

 また一本


「やってやれない事はない!」


 また一本


「なんの!」


 また一本


「まだまだ!」


 また一本


「硬くなる!鋭くなる!」


 また一本


 また一本


 また一本…


「晩ご飯ですよ〜!」


 …やべ、お腹タプタプだ






 それでも頑張って食べた

 お腹タプタプでも、ノーラの晩ご飯は美味しかったです


「ずーっと魔法の練習してたんですか〜?」

「うん。なんとか感覚が掴めそうな気がして」

「う〜ん、MPポーションではなくて魔力結晶を使うという手もありますよ〜」

「どういうこと?」

「魔力結晶からMPを供給するんです〜」

「そんなこと出来るの!?」

「そうすれば〜お腹タプタプにならずに済みます〜」

「いいこと聞いた!」

「でも売ってMPポーションを買った方が安いんです〜」

「確かにそうだ…回数をこなさなきゃならないのに、それは正直…」

「ご飯の前は程々にしてくださいね〜」

「反省してます…」


 詳しく聞くと、MPの回復に使うよりは増槽として使う方が一般的だそうだ

 最大MPが10しかなく、消費MP20の魔法を使いたい場合に魔力結晶から足りない分を供給する、と

 ノーラは上位の回復魔法を使う時に魔力結晶を消費する以外、使わないようにしているらしい

 それでリリアナお姉さんは、教会の分の魔力結晶をスキル結晶に使うのに反対してたのか

 回復に使う事を考えると、確かに素直に売ってMPポーションを買った方がコスパがいいな


 そして魔力結晶からの魔力の供給と、スキル結晶の使い方の感覚は同じ物のようだ

 やってる事は結局は魔力操作そのもので、俺なりの解釈だと、ギュルンギュルンまで行かなくてもじんわりと結晶を覆って、そのまま魔法を使う、もしくは回収するイメージだろう

 それで魔法ギルドのお兄さんは、俺にスキル結晶を握り込ませて俺の手を包み込んだのか

 他人の体に魔力を押し込むと言うか、浸透させるって技術もあるんだな


「そう言えば、魔力結晶でスキル結晶が作れるじゃない?」

「教会にある分では回復魔法のは作れません〜」

「魔力結晶にも向き不向きがあるの?」

「まず魔力源として見ると〜、MGCの高い魔物の結晶が優秀なんです〜」

「そうなんだ」

「スキル結晶にするには〜必要な熟練度分のMGCの魔力結晶が必要ですね〜」

「じゃあこの辺の魔物の結晶だと、回復魔法は作れない?」

「ん〜、数を集めればなんとか〜」


 分割はできるって事なんだな


「スキル結晶を買い集めるとしたら?」

「値段が跳ね上がりますよ〜」

「…もしかして、寄付を現金で持ち帰るよりも、スキル結晶を作る魔力結晶で納めた方が効率がいい?」

「そうでもないですよ〜」

「あれ?」

「もし回復魔法のスキル結晶でお金を稼ごうとしたら、熟練度がカツカツになっちゃいます〜」

「MPポーションを使って熟練度を回復したらどうなるの?」

「赤字になっちゃいますよ〜」

「じゃあスキル結晶を作ってもらうのは…」

「身内の分くらいならなんとか〜」


 身内か

 ノーラに身内って言ってもらえたんだな…


「せめてMPポーションを用意するよ」

「勿体無いですよ〜」

「作ってもらうからには、それくらいはちゃんとしたい」

「回復量がわたしの上限を超えてます〜」

「そんなのは気にしないよ」

「無駄が出ちゃいます〜」

「必要経費だ」

「気にしてください〜」

「気にしない気にしない」

「だめですよ〜」

「いいからいいから」


 あれ、チョロインのくせになかなか頑張ってるぞ


「…美味しくないんです〜!」


 …うん

 あれはマズい

 脳が詳細を思い出すのを拒否して、それ以外に形容のしようがないくらいにマズい

 一回分の分量が多かったら誰も使わないんじゃないかってくらいにマズい

 人間が吐き出さないギリギリのラインを絶妙に攻めてるレベルでマズい

 いややっぱ吐き出す人間も普通に居るだろってくらいにマズい


「…それはわかる」

「熟練度は地道に稼ぎますので〜」

「いや!あんな物を勧めた俺が悪かった。回復用に魔力結晶を提供する!」

「えぇ〜!?」

「どれくらい用意すればいいか、目安はわかる?」

「回復魔法は同じ種類が11個で1セットですけど〜…」

「何セットでLv1の熟練度が手に入るかは、その人次第か」

「勿体無いで」

「はい決定!」


 チョロいぜ

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