第33話 強くなるには

「ミリア、俺の完敗だよ…」


 ぴょいん


 コロちゃん、慰めてくれるの?ありがとね


 本当にあのステータスに翻弄されたんだな、俺

 魔物相手に勝てるからって、これじゃだめだな


 なでなで

 ぷるぷる


「でも大怪我しないように、手加減してくれてたんでしょ?」

「ヤマト、魔物相手と人間相手では勝手が違う。ステータス差を意識するのも苦労しただろうし、暗殺術があるという事は本来の戦い方とも違っていたりしないか?それに避けるだけの技術はあったし、最後の投げ技は綺麗に入っていた。そこまで落ち込む事じゃないんだぞ。そしてミリアは特に強い!」


 本来は対人戦の方がまだ得意なはずなんだけどな、俺…

 まあプロの訓練を毎日受けている相手に…いやいや…


「ボク、生まれてから一度しか魔物と戦った事がないんだ」

「そう言えばExpが75だったね」

「ボクが正式に入団したら、ボクが休みの日にでも討伐に連れてってよ」

「見習いはだめなんだ?」

「変なクセとか色々と理由はあるが、やはり危ないというのが一番の理由だな」

「ぐうの音も出ないほどマトモな理由だった…」

「それで、手合わせも良かったらまたやろうよ!」

「俺も勉強になるし嬉しいけど、いいの?」

「団長、いいでしょ?」

「まあ、ミリアが個人的な交流でという事なら、別に構わんだろう」

「ありがと団長!」

「ありがとうございます!またよろしくねミリア」

「今度は負けないから!」

「俺も翻弄されないように稽古を頑張るよ」

「さ、野次馬共に捕まる前に帰った方がいいぞ。門まで送ろう」

「あ、ありがとうございます」


 うわーみんなチラチラこっち見てるよー


「それじゃ、ギルドへの完了報告を忘れるなよ」

「ばいばーい!」

「おじゃましましたー!」


 このまま走ってギルドへ駆け込もう

 単純に逃げるのはステータス頼りで問題ないから簡単でいいな!






 ギルドへ報告が終わって、報酬という名のお小遣いに大銅貨1枚くれた

 これで今日の収入は3,100G、無収入は免れた


 今日の残りの時間は自己鍛錬にあてようという事で、とりあえず一通り型稽古をやってはみたものの…


「基礎は大事だけど、これだけで対抗できるかと言うと疑問だな」


 思い返せば、ミリアのステータス自体は今のコロちゃんより低かった


「コロちゃんもかなり強くなったんだね〜」


 なでなで

 ぷるぷる


「次はイメージトレーニングしてみるか」


 こうきたらこう、みたいな感じで相手を想定すればいいのかな?

 とりあえずミリアの動きを思い出して…


「…完封される絵面しか想像できん」


 いやいや、コレこそ気持ちで負けてるってヤツだ


 まずは態勢を崩されないようにしないとだめなんだな

 となると、まずは相手の動きを分解して、ひとつひとつに対処する事を想定して…


 うん

 結局は基礎の積み重ねだな

 基礎、大事


「ふぅ…こっちは地道にやるしかないな」


 崩された場合はもう、出来る事をやるしかない

 今日だって、ステータス頼りとは言え無理矢理こっちのペースに持って行った

 もしステータスの立場が逆だったら?

 勝負にもならない

 ならどうする?

 それこそ何だっていい、出来ることをやる

 じゃあ何を?


 俺にあるのは、未完成とは言え体術の覚えと、テオさんの教え


 『もし必要があって、それを実行できるなら、刺せ。最短最速で』


 最短最速

 ミリアの時は下手な様子見で実行できなかった

 尋常な手合わせだからある意味仕方なかったが、初めての魔物が相手なら躊躇なくステータスを覗こう

 そして手合わせでないルール無用の勝負なら、遠慮は一切不要だ


 体術に関して言われたのは…


 『生兵法は怪我のもとだぞ』

 『ともかく、体術の型は体に染み込ませろ。体作りと体力づくりにはなる』

 『そんでもって、時には捨てろ。さっきの土投げみたいに』


「風が冷たくなってきた」


 そう、俺には魔法があるんだよな

 今まで、立ち止まってるゴブリンに使った事はあったが、戦いの動きの中に取り入れた事はなかった

 そんな余裕もなかったし、格闘の基礎も出来上がっていない上に、生兵法は怪我のもと

 でも、練習しなきゃいつまで経っても出来ないままだ

 それにこんなファンタジー世界、まだ攻撃された事はないけど相手が魔法を使う事だってあるだろうし、何も知らないのは危険すぎる


 そして何より、ゴブリンに使った時はある意味、仕切り直しからの先手必勝だった


「砂を飛ばさなくたって、単純に風が吹けば目を瞑るよな」


 接近戦の時はとりあえずそれでいいか

 必要な場面があれば相手の顔に向かって吹きかければいい


「ん?なんか脱線してるな」


 そうか、ミリアとの手合わせが楽しくて悔しいから勝つ事を考えてたら、いつの間にか強敵と命懸けのやりとりをする事を考えてたんだ


 ミリアとの手合わせは、尋常な手合わせとして楽しみにしておくとして

 冒険者としての生き方もそれはそれで考えなきゃな


「続けるか」


 必要なら接近する前に風を送って、目を瞑ったところで最短最速

 相手を圧倒できる程のステータス差がない間は、初手に搦手は有効だろう


 一撃離脱できれば仕切り直し

 それが出来ない場合や、相手が集団だった場合にはやっぱり砂か何かを飛ばした方がいいな


 風を送って、砂を巻き上げてみる


「あれ、なんか…」


 普段から移動中や暇な空き時間にやってる魔力操作の感覚に近い

 これをくれた魔法ギルドのお兄さんは…


 『【魔力操作】と【魔力感知】のスキル結晶だよ。魔力操作は基礎魔法の前段階をスキル化するまで繰り返したものだ。普通はそうなる前に基礎魔法を覚えてしまうがね。君が使いこなした時にどこまでのものになるのか非常に興味があるんだ。成長した暁には是非見せて欲しい』


 他に何を言ってた?


 『ふぅ。最後にもうひとつ。魔法に呪文は要らない』


 確かに呪文なしで使ってる


 『呪文はイメージを具体化する助けにはなるが、それが足枷にもなるんだ。イメージが固まればそこで成長が止まってしまう』


 これに続けて…


 『これは僕の研究テーマでね。必要なのは体系化された呪文や現象ではなく魔力量と指向性。もっと言えば根源へと至る意志だ。スキルはほんの切っ掛けに過ぎない』


 具体的には知らないけど、例えば火の玉をぶつけるという魔法があったとして、その魔法は一連のマクロやスクリプトみたいなものかな

 呪文を唱えるってのは、使い手それぞれのイメージによる、定義された現象の呼び出しだろうか

 こうすればこうなる、みたいな


 なら、根源へと至る意志ってのはなんだ

 魔法の根本を理解しろって事か?

 助言とセットでくれたって事は、魔力操作じゃないのか?

 魔法の根本=魔力操作

 これはまだわかる

 でも、そこから先がどうにもこうにも


「スキルはほんの切っ掛けに過ぎない…」


 つまり、切っ掛けにはなる、と


ーーー

基礎魔法

  一般に生活魔法と呼ばれる基礎的な魔法

 - Lv1(MAX)

  着火 MP10

   火を着ける

  湧水 MP10

   水を出す

  送風 MP10

   風を送る

  光球 MP10

   明かりをつける

  清浄 MP10

   自分の体を綺麗にする

ーーー


 そもそも着火とか、火で攻撃する魔法そのまんまじゃないのか?

 みんなやらないだけで、別に珍しい発想じゃないよな?

 マクロがあるなら、それを実行すればいいって


 でもあえて研究テーマにしてる人も居るんだよな…

 どういう事だ?


 とりあえず、やってみるか

 火は危ないから、やっぱり風で、切り裂くイメージをあの木に…


 ダメか

 そう簡単には行かないんだな


 でも、切っ掛けにはなるんだよな?

 切っ掛けにすればいいんだ


 今度はちゃんと、魔力操作を意識して風を…


「だめじゃん」


 実用的じゃないな

 やっぱ体系化された魔法は手軽なんだな


 そもそも風で切り裂くってどういう原理なんだろ

 鎌鼬みたいなもんか?

 風そのものは吹き飛ばすイメージはあるけど、切り裂くイメージはない


 いやだめだ


「イメージが固まればそこで成長が止まってしまうって言ってたな」


 つまり、少なくとも鎌鼬みたいな魔法を知らない俺にとっては、風は切り裂くものじゃないっていう、常識というか固定観念があるわけだ

 きっとそれが邪魔をしている

 とは言え、そうそう覆せる類のものではない

 発想の転換をすると…


 ウォーターカッターみたいに絞る?

 じゃあそもそも水は…


 量が圧倒的に足りない

 穴を穿つどころか一瞬で終わる

 これじゃ水鉄砲だ


 ならサンドブラストは?


「…できた!」


 けどこれは…砂のない場所だと使えない

 汎用性がない


「もう少しで何か掴めそうなんだけどな…」


 ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん

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