第17話 冒険者

「ともかく、俺、働けます!旅に出るお金も欲しいんです!登録させてください!」


 よろしくおねがいします!と頭を下げる


「まあそれは構わねえんだが」

「始めから手の内を晒し過ぎです」

「それはわかってるんですけど!」

「お前、なんで女神の加護や収納魔法なんてもんを俺達に話したんだ?」

「それはお世話になった人達に、お礼を言って、もう大丈夫だって事を伝えて」

「余計な部分まで開示する必要はねえよな?ましてや偽装まで出来るってのに」

「事情が事情ですし、できるだけ嘘は吐きたくないですから!それもお世話になった人達に!役にも立ちたいし売り込みも」

「お前のその心意気は立派だ。だが、俺達が信用に足るという判断はしたか?その根拠は?」

「えーっと…人を信用するのに根拠を持ち出すのは」

「その気になれば、私達はハジメさんをどこかに売り渡す事だってできるんですよ」

「他人に期待し過ぎだ、それも自分の都合の良いように」

「…俺、甘え過ぎてたんですね。みんながいい人だからって」

「お前自身のやりたい事、やるべき事を考えて発言しとけ」


 何よりまず最初にやるべき事は…

 リソースを集める事だよな


「やるべき事…は、魔物を狩る事です。でもそれは自分の為です。俺自身のやりたい事は」

「ほらな、全部を馬鹿正直に話そうとする」

「あの、聞いて欲しい事、聞くべき事なら聞きます。でも伝え方次第で言質を取られる事もありますし、信用にも関わりますよ。魔物を狩るのにタダ働きさせられたり、自分の都合で狩らなくなるのではと疑われたり」

「自由に書き換えられるなんて聞いて、俺もステータス偽装の件で疑ったからな」

「そっか…自分の首を絞める事にもなるんだな…」

「今の話も、もし聞いて欲しくなったら改めて聞きますから。その時は遠慮無く言ってくださいね。今、私は何も聞いてませんから」

「記憶喪失で異世界の住人でって、無意識に誰かに頼りたくなっちまったのかもしれねえな」

「そこに付け込まれると大変ですからね」

「俺、本当に運が良かったんですね。昨日今日と、悪い人に会ってません…」


 どんだけ綱渡りしてんだよ、俺


「わかんねえぞ?俺達も今はいい顔して後々利用しようとしてるかもしれねえぞ?もしくは女神の加護が怖くて」

「お説教もこれくらいにしておきましょう。嫌われてしまいますよ」

「ははは…」

「では、登録に向けてのお話ですね」

「名前と所属地を偽装して、道具がどう反応するかはわかるのか?」

「試してみない事には。なぜですか?」

「ハジメって珍しい名前や事情であちこちに探りを入れたからな。変な目立ち方して、バレなくても良いもんがバレても面倒なだけだろ」

「なるほど、偽装するスキルを活用する時の邪魔になるかもしれませんね」

「そういう事も考えないといけないのか…」

「名前の候補はありますか?」

「ヤマト、でどうでしょう?」


 ステータスの名前を書き換えて二人に見せる


「また珍しい響きだな」

「とにかく後で、その名前で試してみましょう」

「駄目なら駄目で、そん時に考えるか」

「はい」

「ところでお前、収入をできるだけ旅の資金に貯めておきたいって事でいいのか?寝床のアテは?このまま教会か?」

「とりあえず暫くは教会の旧孤児院に。あと滞在費より少し多目に寄付をしようかと」

「少し多目ですか?」

「具体的な金額は決めてませんが、せめて自分がお世話になる分と、お風呂の修理くらいは…俺も使いたいですし」


 お風呂大好き、日本人のDNA

 あ、コロちゃんだめだって!


「まあ稼いだ金をどう使うかは自由だからな」

「一般的な冒険者として稼げると仮定して、このまま教会で暮らすと衣食住のうち、食と住の問題は解決しますね」

「ステータスも少し高めだから、この辺で言えば装備としての衣の問題も半ば解決だな」

「問題はスキルが活用できる依頼ですね」

「正直、持て余すよな?」

「ですね。優秀なスキルの使い手を確保できたのは僥倖ですが、依頼の種類と数が…」

「ぶっちゃけて言うと、潜入の類になるから滅多にねえな」

「盗賊団の壊滅作戦の下準備や、違法取引の囮捜査などになりますね」

「しかしこれ、結局は身を守れる腕っ節が必要になるよな?」

「そうなりますね」

「よしハジメ。お前、討伐依頼で体を鍛えろ」


 なでなで

 ぷにぷに


 あ、俺のターンきたか


「えーっと要するに、仕事は体が資本だから鍛えつつ、ついでに日銭も稼いで、出番に備えろ、と?」

「そういう事だ」

「普通に冒険者として活動する、という基本に戻るんですね」

「ま、駆け出しのうちは仕方ねえな」

「いえ、わかりやすくて良いと思います」


 いきなり危ない仕事をするよりは断然いいだろう、実際

 まあ魔物と戦うのも危ないんだけど

 なんか冒険者って害獣駆除の第一人者みたいだな


「ところで、冒険者とかギルドの興りってどんな感じなんですか?」

「なんだ、そんなもんに興味あるのか?」

「珍しいところに気付きますね」

「なんかちょっと、気になって」

「もともとは住む場所すらねえ労働者や使い捨てられるような爪弾き者の集まりだ」


 いきなりあれだな

 どこかで聞いたことのある感じの話が出てきたな


「手を貸してくれる人達も当時からたくさん居たそうです。もちろん、悪いことを考える人も」

「権力者や犯罪組織に利用されそうになったり、悪事の片棒を担ぐように強いられたなんて話も当然あったらしいな」

「グレーな案件は今でも頭が痛い所ですね」

「犯罪組織にならずに済んだのはひとえに、真っ当に生きるという誓いを守った先人達が残ったからだ」

「多くの血が流れ、命を落とした人達もそれは沢山居たらしいです」

「国やなんかに誘われたり、いっそ国を作っちまうかなんて話もあったらしいな」

「でも先人達は、支配者にならない事を選びました」

「結局は人の間で、助け合いながら生きていきたいだけなんだってな」

「今でこそ組織として力をつけてますが、大きくなるまでにこうして何度も何度もギルド崩壊の危機を乗り越えてきたそうです」

「これからも真っ当に生き、世のため人のために活動するのがギルドの願いだ。もちろんギルドにも色んな奴が居るだろうが、少なくとも俺はそうありたいと思っている」

「職員一同、同じ気持ちですよ」

「ま、うちのギルドはそうだろうな!」

「なんか…すごいですね」


 イイハナシダナーなんて茶化すようなものじゃないなこれ


「自分で言うのもなんだが、結果としてうちを信用したお前の判断は正しかったと思うぞ」

「はい」

「だがそこに判断に足る材料はあったか?」

「記憶がないどころか、この世界とは別のところから来たんですよね?」

「これからはもう少し利口に、信用する相手を吟味しろよ?」

「肝に銘じます」

「今日話した内容も、お前自身で信用に足るかを判断しておくんだな。他人の言葉を鵜呑みにするなよ?」

「そんな」

「そもそもの話、冒険者の基本でもあるんだ。お人好しじゃ務まらない場合もある事を覚えておけよ?」

「他にも隠してる事があるかは知りませんが、今回の事だって言いふらさない方がいいです」

「…そうですね」


 他にも隠してる事、か


「ところで、そろそろお時間ギリギリでは?」


 あ、時計がある

 針と文字盤の見慣れたヤツだ…


「お!わりいなハジメ、ちっと用事があるんだ。リリアナ、後は頼んだ」

「かしこまりました」

「ありがとうございました」

「これからの働きに期待してっからな!」

「はい!」

「ではハジメさん、道具の認識を試して、可能ならヤマトさんで登録しましょうか」

「あ、その前に」

「どうしました?」

「さっきの話だと、カードに所属地って表示されるんですよね?」

「されますよ」

「勝手に名前を使いたくないので、所属地の話をきちんと通したいんですが」

「そういう事でしたら、教会ですね。お昼を食べてから、またいらしてください」

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