第16話 新しい朝が来た

 なかなか寝付けず、ひたすらコロちゃんをぷにぷにしていたらさすがに逃げられた

 いつの間にか寝落ちして、気付いたらとっくに日が昇っていた

 と言うか、コロちゃんに顔の上に貼り付かれて起こされた!


 あ、ドアの外からノーラの声がする


「ハジメさん起きてますか〜」

「もがっ!おはよう!」


 コロちゃんを顔面からひっぺがす


「おはようございます〜リリアナさんがいらしてますよ〜礼拝堂で待ってますね〜」

「すぐ行くよ〜」


 これはちょっとコロちゃんにお願いしておこう


「コロちゃん、起こしてくれてありがとな」


 ぷるぷる


「でも次からは、つんつんかぺちぺちして起こしてくれるか?」


 ぷるぷる


 通じてる…よな?

 とにかく準備して礼拝堂だ

 借りたシャツにフードはついてないから…コロちゃんは抱っこで行くか


「おはようございます」

「こんにちはですよハジメさん。さすがにあまり寝付きが良くなかったようですね」

「おかげで、こんな時間まで寝かせてもらっちゃいましたよ」


 やべ、寝癖は直したっけな


「仕方ありませんよ〜」

「体調はいかがですか?」

「それがもう、絶好調です!」

「うふふ〜」

「無理してませんか?」

「寝起きって事を考えたら、こんなものじゃないですかね」

「…ひとまずは大丈夫そうですね」

「神様のお墨付きです〜」


 なんかノーラのしっぽがゴキゲンにパタパタしてる


「それは…教会に泊まったからという事ですか?」

「それも含めて色々と、ギルマスさんを交えてお話したいんですが」

「それなら今から戻れば時間はとれますね」

「それじゃさっそく行きますか。ノーラ、行ってくるよ」

「はい〜いってらっしゃい〜」

「お昼までには終わると思いますので」


 ふりふり


 ぷるぷる


 コ、コロちゃん…!

 体を伸ばして手を振る真似っ子を!

 間違いない!この子は天才だ!

 なでなで


 お昼前の街をリリアナお姉さんと歩く

 なんか世界が輝いて見える!


「いや〜清々しいですね〜!いい一日になりそうだ!」

「…ハジメさん、やはり無理してませんか?もう少しゆっくり歩きますか?」

「むしろもう少し早歩きでも大丈夫ですよ!」

「いえそれは危ないですよ」


 うーん、心配かけっぱなしってのもな


「あとで説明しますけど、とりあえずはごく健康な体になったと思ってください」

「いえでもステータスが…」


 よし、さっそく女神様のスキルを試す時が来たな


「俺のステータスを見ることはできます?」

「Lv0では閲覧スキルが通用しませんよ?少なくともスキル結晶だってまだ試してませんし」

「そこはおいといて、閲覧スキルは使えます?」

「ええ、うちの職員はみんな、使えるようにしてありますよ」

「じゃあ、試しに俺に使ってみてください!」

「それでは…」


 リリアナお姉さんがじぃ〜っと眼鏡越しに覗き込んでくる

 なんか視線がぞくぞくするっ!


「こ、これは一体…?」


 今度はぽかーんとした表情に

 いやー、美人ってどんな顔しても美人なんだな


「どうです?」

「…故障でもしてましたか?」


 あー、そう来たか

 確かに、そう考えるのが自然だよな

 ノーラはあんな事があったから信じただけで


「結論から言うと、故障はしてないはずですよ。まあ確かめてないですけど」

「という事は、故障の可能性の有無とは別のところに原因が…?」

「それについては、ギルドについてからお話しますよ」


 あれ、リリアナお姉さん顎に手を当ててなにか考えこんでる

 眼鏡まで反射して様になってるな

 真剣な表情もすごくいい


「…正直、何がなんだか」


 でもやっぱり笑顔で居て欲しいなーなんて

 どこのチャラ男だ俺は


「とにかく、今の俺は大丈夫です。ほら行きましょう」






「リリアナです。ハジメさんも一緒です」

「おう、入って大丈夫だ〜」


 リリアナお姉さんがギルマスの部屋をノックすると、ギルマスが入室許可をくれた


「ただいま戻りました」

「おうリリアナ、ご苦労さん」

「こんにちはマドロイさん」


 コロちゃんだめ!大人しくしてようねー


 ぷるぷる


「ようハジメ、どした?」

「すぐにお茶をお入れしますね。そしたらすぐにお話しましょう」

「お、おう」


 変なものを見るような目でドワーフがエルフを見やる

 やはりこの二つの種族には激しくも悲しい確執が…ないな

 昨日もごく普通に接してたし


 益体もない事を考えていたら、マドロイさんがちょいちょいっと手招きして耳打ちしてきた


 コロちゃんだめだってば!


 ぷるぷる


「どうしたんだハジメ、今日のリリアナはなんかこう、グイグイ来てんぞ」

「あー多分、今からする話の内容を早く聞きたいんだと思います」

「なんだ、なんか大事な用か?」

「ちょっと俺のステータスに関する事で、お伝えしておきたい事が」

「なんだそりゃ?」


 度肝を抜いてやる!

 昨日との落差に、お茶を吹き出すくらいは覚悟してもらおうかクックック…


「お待たせしました。ハジメさん、席に着いてお話をお願いします。ギルマスもお席にどうぞ。まだお時間ありましたよね?」

「あ、どうも。いただきます」

「一体、何の話だ?お、結婚でもすんのか?ん?」

「ぶふーっ!!」


 このおっちゃん、何を急にぶっ込んでくるんだ!

 その頭から被ってる俺の飲みかけのお茶、自業自得だからな

 膝の上のコロちゃんは…良かった被害なしだ


 だめだってば!


 ぷるぷる


「うっへぇっ!ばっちい!」

「ギルドマスター、ハジメさんのお話は、おそらく真面目なものです」

「ステータスですよ!ス、テ、ー、タ、ス!」

「結婚だって真面目な話じゃねえか…リリアナと結婚すりゃハイステータスだしよ…」


 ブツブツ言いながら、マドロイさんは頭と顔を拭いてる…顔より頭のほうが拭きやすそうだ

 それにしても、こっちには結婚話はセクハラだ的な認識がないのか?

 確かにリリアナお姉さんを射止めたらそりゃハイステータスだろうけど

 て言うか独身なのか…恋人とか…いやいやいやいや!


「ハジメさん、失礼します」


 まだローテーブルの横に立っていたリリアナお姉さんが俺の隣に座る

 いい匂い…じゃなくて!


「お掃除はご自分でどうぞ」


 あ、リリアナお姉さんのギルマスを見る視線の温度が下がってる気がする

 笑顔なのに

 セクハラ判定、アウトーーー!!!


 世界の真実(笑)なんて厨ニ病ワードに関係しそうだから、簒奪者のスキルは隠して…

 女神の加護は信用の材料になるだろうし、これのお陰で今後、強くなれるって事にするか


「これが今の俺のステータスです。ステータスオープン」


 マドロイさんもリリアナお姉さんもぽかーんとしてる

 あ、そうか

 リリアナお姉さんは偽装したステータスしか見てないんだ


「この通り、昨日の問題は解決しました!」

「待て待て待て待て!なんでLv0で【ステータス】スキルが使えてんだ!昨日はダメだったろ!閲覧はどうなんだ!?」


 あふんっ!

 なんかぞくぞくっときた

 あ、これ、ステータスを探られてる時の感覚なのか


「ハジメさん、さきほど見せてもらったステータスと違ってますが、これはどういう事ですか?」

「俺、本当の意味でよそ者なんです」


 説明する内容は…

 転移と夢でいいか

 教会の事は伝わってるだろうし

 簒奪者や夢の一部の事は伏せて、一通り説明しよう

 本当はスキルも含めて全部話したかったけど、必要以上に余計な心配をかけたくない

 特に夢の最後なんて絶対だめだろう


「というわけでステータスに【女神の加護】というのがあるんです。これで成長だってできるんです!」

「ハジメさん、先程とのステータスの違いについては?」


 あー、結局やって見せるしかないか


「見た目だけですけど、偽装できるんです」


 まず、全部の項目を9999にして見せる

 次に、全部の項目を1234にして見せる

 なんかもう、マドロイさんがぽかーんからじとーに変わってる

 リリアナお姉さんは何かを受け入れたような顔だ


「本来のステータスはLv0のヤツなんですけどね」

「それを信じろと?ステータス偽装なんて初めて聞いたし、それなら昨日の時点で既に工作をしてたんじゃねえのか?偽装できるってんなら【女神の加護】ってのも怪しいもんだぞ?」


 しまったなー

 ギルマスの疑いは当然だ

 どうしよう…


「テオさんの話からして、嘘ではないかと」

「テオか」

「戦いに関して、テオさんの目を騙せる人はそうそう居ないと思います」

「…まあ、テオの話じゃ強くはなさそうだったな」

「それにどんな目的があるにせよ、ハジメさんの行動は迂遠で不確定要素が多すぎるかと」

「お前がそう言うんなら信じてみっか」

「テオさんってそんなに凄いんですか?」

「なんだ、何も聞いてねえのか?」

「何がです?」

「あいつ、強ええんだぞ、そりゃもう」

「門番って激務なんですね」

「門番ではないですよ」

「え?」


 今度は俺がぽかーん

 はいリリアナお姉さんのクスクス笑い頂きましたー


「次にお会いした時、直接訊いてみるといいですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る