第12話 チートどこいった

「とりあえず、俺の置かれた状況を整理したいんですが」

「危ない」

「危ないですね」

「危ないです〜」


 ぷるぷる


「いやそれはわかりましたって」


 みんなして危ない危ないって!

 まるで俺が危ない奴みたいじゃないすかーやだー


「そもそもの発端は、お前のステータスが開けない事だったな」

「俺のLvが0だから、ステータスのスキルもなかったし、閲覧スキルでも開けなかった、と」

「そんな事があったんですね〜」

「原因はともかく、安全に暮らせる方法を探す必要があるな」

「さしあたって身体強化や守りに関するスキル結晶を…確実ではありませんね」

「問題があるのか?」

「魔石が反応しないという事は、スキル結晶の行使にも問題が生じる可能性があります」

「パーティが組めなかったのも、その辺の問題かね」


 魔石はギルドで見た自爆ボタンについてるデカイのだったか

 魔力結晶は魔物から剥ぎ取れるとして…


「スキル結晶ってなんですか?」

「自力で習得した何らかのスキルの熟練度を魔力結晶に封じ込めたものですよ」

「取り込んでスキルを習得か強化できる」

「なんか、高そうですね…」

「ものによっては国が買えるとも言われています〜」

「俺、お金も可能性も何もないですね」

「まず習得を兼ねて、ステータスのスキル結晶で試してみましょう」

「簡単に手に入るんですか?」

「誰でも作れるぜ。普通は誰でも自然と覚えるからな」

「うちの魔力結晶を使えますよ〜」

「魔力結晶なら当然、ギルドにありますよ。わざわざ教会のものを使うわけにはいきません」


 なんか、みんなして俺に何かをしてくれようとしてる…


「とりあえず、村での問題は不可抗力だったと、村長に伝えておく」

「俺は行かなくていいんですか?」

「街から出るのは危ないですよ〜!」

「おすすめ出来ません。ギルドに戻ったら今夜の居場所を探しましょう」

「なら暫くはここに居てください〜」

「良かったじゃないか。記憶喪失って事は、行くあてもないんだろ?」

「えーっと…」


 やばい、視界が滲んできた

 誤魔化すように深々と頭を下げる


 いや、本当に頭が上がらない

 コロちゃん!フードから落ちる!落ちるから!


「俺に出来る事は何でも手伝います!」

「う〜ん、何もしないでもらえるのが一番のお手伝いでしょうか〜」

「子供か!」

「実際、赤ちゃんよりも弱…危ないですから」

「言うこと聞いておけ」


 シスター、容赦ねぇ

 リリアナお姉さんも、かろうじてオブラートに包んでくれた感じか


「身元はとりあえず教会ってことで解決したな。所属地も書き換えられるならやっておけ。どうせあのステータスで悪い事もできないだろうしな」

「ははは…」


 俺のチートどこいった


「それと、道中の討伐で手に入るはずだった金を渡しておく」

「このお礼は必ず!」


 この世界で初めてのお金だー!

 なんかコインを一枚手に握り込ませてきた

 こっそりお小遣いを貰うみたいな


「ところで貨幣価値が判らないんですが」

「記憶喪失ですからね…」

「ならお部屋に案内した後に教えてあげます〜」

「よろしくお願いします」

「とりあえずはこんなところか」

「今出来ることはこれくらいでしょうね」

「ではさっそく、お部屋の用意をしてきますね〜」


 パタパタ…こてっ


 あっ…


 パタパタ


 シスターは根本的にいい子なんだな

 さっきはあんな事を言われたけど、出来ることがあるなら全力を尽くそう


「それでは私は、ギルドへ帰って報告します。明日のお昼前、念の為にお迎えにあがりますね」


 リリアナお姉さんは穏やかで頭も良くて頼れる大人の女性だ

 今は頼るしか出来ないけど、いつか頼られるようになりたいな


「ハジメ、困った時は誰かを頼れ」

「もう十分お世話になってますって」

「助けを求めた結果、今こうして居場所が出来た。その事は忘れるなよ」

「ホントに感謝してますよ」

「あー…いや。じゃあな」


 あれで門番って、キャラの無駄遣いだろ…






「お待たせしました〜」

「いえとんでもない」

「改めまして〜、リスガー教会のシスターのレオノーラです〜ノーラと呼んでください〜」

「えーっと、記憶喪失のハジメです。これからお世話になります。よろしくお願いします」


 きっちり頭を下げる

 見たか俺の最敬礼!


「も〜固いですよ〜年下ですし気楽に気楽に〜」

「うん、よろしくね」

「それではご案内です〜。ゆっくりでいいですよ〜」


 パタパタと歩くノーラの後ろでは尻尾もぱたぱた

 わんこだ〜


 コロちゃんは、俺が転んでも受け止められるようにしてくれてるっぽい

 ありがとね、コロちゃん


 って外じゃんここ


「この建物です〜」


 なんだ、奥に敷地があったのか


「ちょっと大きいけど、何人くらいいるの?」

「ハジメさんを入れて〜2人になりました〜」

「じゃあ挨拶しとかないとね」

「さっき済ませたじゃないですか〜」

「え?」


 もしや…リリアナお姉さんか!?


「ここがおトイレで〜」


 便座だ

 洋式だ

 でもタンクもレバーもない


「あの、これの使い方って…」

「あ〜、魔石が使えないんでしたっけ〜」


 壁に埋まってる青いのは魔石って事か

 水洗式ならぬ魔石式?

 いや水が溜まってるという事は魔石による水洗式か


「…どうしよう」

「それじゃ〜後で水を汲んでおきますね〜」


 よかった

 使ったら呼べという羞恥プレイは回避できたようだ

 いやむしろ彼女に対する拷問になるのか

 そりゃ回避するよな…


「お願いします…」

「次にここが〜お風呂です〜」


 風呂あるのか!

 ひゃっほーい!


「が!」

「が!?」

「残念ながら、今は魔石がありません〜」

「じゃあこれ!」

「へ?」

「これで修理代なんとかなる?物価がよくわかんないけど」

「さっきお金はないって〜」

「貰った」

「ダメです〜!これはハジメさんのこれからの人生に必要になるお金なんです〜!」

「正直に言おう、お風呂に入りたい」


 お風呂大好き、日本人のDNA舐めんな


「正直に言うと〜、必要な魔石を買うには足りないです〜」

「その分は稼いでくる!滞在費も!」

「う~ん、とりあえず預かるだけですよ〜?」

「でも直るまでお風呂は無しか〜」

「ご飯と一緒に〜、体を拭くお湯を持って行きますね〜」

「その辺りの場所や使い方も後で教えてね」

「まずは人並みに動けるようになってからですね〜忘れちゃダメですよ〜」

「うぐっ、そうだった…」

「そしてここが用意したお部屋です〜」


 なんか渋いお部屋だ

 ベッド

 机に椅子

 クローゼットと姿見

 カーテンのかかった出窓

 空っぽの小さな本棚


 ぴょいん


 ぽふん


「ちょ、コロちゃん!」

「あはは〜気に入ってくれたみたいですね〜」

「ホントにここ使っていいの?」

「今は誰も使ってないですから〜」

「そうなの?」

「それに起こしたらかわいそうですよ〜」


 コロちゃん寝るのはやっ

 いかにもすぴーすぴーと聞こえてきそうだ


「じゃあ使わせてもらうね」

「ベッドに着替えと〜机にお金の絵本が置いてありますので〜」

「ありがとね」

「それじゃあご飯を用意してきます〜」

「お願いねー」


 さてと、着替えは体を拭いた後でいいとして

 鏡を確認


 う〜ん、普通だ

 前髪で目が隠れてるわけでもないし、どこにでも居る普通の高校生とか言っておきながら実はイケメンなパターンでもない

 まさしく俺の顔だ

 普通だ

 決してブサメンではない、と思いたい

 体もこの世界の冒険者基準では多分ナヨっちい方だ

 …ここにもチートはなかったのか


 とりあえず、お金の絵本だな、うん



 むかしむかし、おかねは まものを たおして てにはいる、 まりょくけっしょう でした。

 まりょくけっしょうを そのまま、 おかねとして つかっていたのです。



 さすが絵本、絵の他はひらがなばっかりで読みづらい


 ・お金は昔、敵を倒して手に入る魔力結晶そのものだった

 ・むしろ魔力結晶ではなく宝石のような扱いだった

 ・しかしさすがに危なくて割に合わないのと、魔力結晶の利用価値が高まるにつれ、コントロール可能な貨幣による経済が発達してきた


 小硬貨 1円玉サイズ

 中硬貨 10円玉サイズで穴あき

 大硬貨 500円玉サイズ


 小銅貨 1G

 中銅貨 10G

 大銅貨 100G

 小銀貨 千G

 中銀貨 一万G

 大銀貨 十万G

 小金貨 百万G

 中金貨 千万G

 大金貨 一億G


 Gってやっぱりゴールドだったのか

 なんなの、銅貨、銀貨なのにゴールドって…

 しかも銅の次が銀って銅なの?あいや、どうなの?

 だいたい大金貨は一億Gってこんな金額の硬貨作ってどうすんだよインフレか!

 …と思ったけど、武器やら防具の値段は高いのがお約束だし十分に現実的…なのか?

 いやぁ…ファンタジーに出てくるような強い武器だとしたら、まぁ…

 でも偽造対策とかどうやってんだろ?

 まるで小学生の考えた設定みたいな世界だなここ


 で、テオさんがくれたのは…中銀貨じゃないのか!?

 そかーゴブリン退治って儲かるのかー

 いやいや


 テオさん…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る