第11話 採血しますね〜

 リリアナさんを先頭に、俺、テオさんと夕焼けの街を歩く

 どこかから美味しそうな匂いが漂ってくる

 ちらほら酒場に人が集まり始めてるようだ


「おい、疲れたのか?」

「自覚はないですが…」

「こっちに着いてから、だんだん動きが遅くなってきてるぞ」

「あ、すいません」

「少し歩く速さを落としましょうか」


 ちょっと疲れたのかな?

 異世界初日にイベント詰め込み過ぎでしょ


 こういう時は、スリに遭遇するとかお約束だよね

 でも財布と携帯は手に持って、パーカーのポケットに突っ込んでるから関係ないもんねー

 仮に盗んだとして、この世界じゃ使い道がないだろうな

 相手は得もしないのに、俺は一方的にダメージを受ける

 何これ不公平どころか誰も幸せにならない


「こんばんは〜、お祈りですか〜?」


 教会は中心の大通りを挟んでちょうど反対側だった

 いかにも女神像って感じのものがシンボルマークか

 扉をくぐると左右に長椅子の列、中央奥に祭壇、女神像、まんま教会のイメージだな

 出迎えてくれたのは、ぽわぽわした感じのシスターで、頭部の膨らみは…わんこか!


「彼のステータス証明書の発行をお願いしたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「は〜い、それではあちらの小部屋に入って魔石に手を置いてください〜」

「いえ、血液式でお願いしたいのです」

「お、お貴族様ですか〜!?す、すぐに準備いたします〜!」


 パタパタと走り去っていった…

 尻尾が脚にぺたっとくっ付いてますよー


「とりあえず、座って待たせていただきましょうか」

「あの、貴族って?」

「生まれたばかりの赤ん坊の確認に使うんだ」

「えーっと、話がよくわかりません」

「まず、産まれたばかりの赤ちゃんには、ステータス閲覧のスキルが使えないんです」

「ところが血縁関係に敏感なお家柄の連中に絡まれると、産まれてすぐに確認する必要があったりする」

「そういった場合に備えて、各教会でひとつは、血液式の道具を備えていたりするんですよ」


 血液式を使うのは普通、貴族の赤ちゃんくらいなのか

 でも俺は赤ちゃんじゃないんだけど…


「なんで赤ちゃんにはステータス閲覧のスキルが使えないんですか?」

「個人差はありますが、生後数時間から半年くらいはLv0なんです」


 どうもこういう事らしい

 ・産まれた直後はLv0で、時間が経つとLv1になるらしい

 ・その後もLvはおよそ1歳に1のペースで自然に成長し、概ねLvの成長が終わる16歳で成人扱いらしい

 ・Lv1になると、ステータスのスキルが使えるようになる

 ・ステータス閲覧のスキルは、Lv1以上の相手にしか使えない

 ・ステータスのスキルLvが高いとステータス閲覧のスキルに抵抗できる

 ・村長さんのステータス強制開示というのは、法の下にステータス閲覧を受け入れさせるものらしい

 ・貴族の中には、スキルを産まれ持った事を証明したがる連中も居る


「ならもう少し時間を置いてから魔力式で調べれば…」


 だって俺、この世界に来てまだ1日と経ってないし


「赤ちゃんではないですし、バッドステータスの影響も考えられるので、待つ意味はないかと思いますよ」


 ですよね〜


「まさかお前、血を採られるのが怖いのか?」

「針を指に刺して、少し血を垂らすだけですから」


 子供じゃないっての


「お、お待たせいたしました〜!不思議なお召し物だな〜とは思っていたんですよ〜!」


 部屋の準備かと思ったら持って来ちゃったよ…

 それにお世辞か何かを言いたいんだろうけど、そこは『素敵なお召し物』あたりじゃないの?


「あの、俺は別に貴族じゃないので」

「そもそも貴族だろうと血液式を使うのは赤ん坊くらいだろ?」

「…あ〜!ですね〜!早とちりしちゃいました〜」

「ではシスター、お願いいたしますね」

「は〜い、ちょ〜っと針がチクっとしますよ〜」


 子供か!






【ステータス証明書】

 ハジメ 人 18 -

 状態:-

 Lv 0 Exp 0

 HP 2/3

 MP 0/0

 SP 2/3 (5%↑ 体術Lv1)

 ATK 1 (5%↑ 体術Lv1)

 DEF 3

 MATK 0

 MDEF 0

 SPD 2 (5%↑ 体術Lv1)

 STR 2

 VIT 4

 MGC 0

 AGI 3

 スキル:体術Lv1

【発行:リスガー教会 3485/5/13】


 測定が終わると、目の前に光が集まってウィンドウのようなものが現れた

 えーっと、どうすればいいのかな…?


「手で触れてください〜」


 なるほど実体化した

 これ見せたらみんな、どんな反応するのかな


「なんか俺、Lv0でした」


 そう言いながら、皆に見えるようにステータス証明書を掲げる


「っ!癒やしを!癒やしを!癒やしを〜!」


 シスターが必死に回復魔法らしきものを連発してくれる

 明らかにオーバーキルならぬオーバーヒールだ

 むしろオーバードーズか?ちょっと気分が…


「…」


 リリアナお姉さんは血の気が引いた顔で絶句してる


 ぷるぷる


 コロちゃんはいつも通りだね〜


「いいかハジメ、ゆっくり、そこに、座れ。二人とも不用意にハジメに近づくなよ!何が致命傷になるかわからん!」


 ものすごい真剣な声と顔で言われたので、とりあえず言われた通りにする


「あと2、3回、針で刺されたら死んじゃうかもですねーHAHAHA」

「ご、ごめんなさいです〜!」

「あ!い、いえ、そういうつもりで言ったのでは!」

「ゴブリンと戦わせて、悪かった…!」

「た、戦わせたんですか!?」

「死んじゃいますよ〜!!」

「とにかく、一旦、落ち着きましょう!ね?深呼吸さんはいっ」


 みんな揃って深呼吸

 周りが慌ててると自分が冷静になるってこの事かー


「まずほら、別に俺、普通に過ごしてたでしょ?普通にしてください普通に」

「そ、そうだな。今すぐ何かで死ぬってわけでもないしな」

「確かに、慌てたところでどうにかなる問題ではないですね」

「普通に〜、普通に〜…」


 よし、みんな落ち着いたな


「でも明らかに異常なステータスですね」

「俺、Lv0ですもんね」

「それだけじゃないんです〜」

「とりあえず上から順番に確認するか」

「お願いします」


 テオさんがシスターに目配せする

 教会の人はある意味、専門家だもんな


「一行目は名前、種族、年齢、出身地もしくは所属地です〜」


 名前、人、18歳はそのままだな…


「地名の表示がないのは?」

「名前と一緒で各地で書き換えできますけど、こんな表示は見た事も聞いた事もないです〜」

「追放なら、そう書き換えられますからね」


 アバッシ出身って言えないのか


「状態っていうのは?」

「何もなければ正常、おかしければ何らかの表示が出るんです〜!」

「呪いなら呪いって出るしな」


 おいおい、まさか診断要らずか?


「Lvはとりあえずいいとして、Expというのは?」

「そのまま経験値です〜」

「ゴブリンを倒してるのに0とはな…」


 たった3行で異常のオンパレードかーい


「残りの数字は…」

「Lv0にしてもちょっと値がな」

「病人さんでここまででは〜」

「顔色などに異常はなさそうですが…」


 病人って事は病気はあるんだな


「スキルは、生まれつき持っているのも有り得るんですよね?」

「だがお前の場合は、訓練で身につけたんだろう?」

「よく訓練そのものに耐えられましたね…」


 うーん、元の世界ではこれが普通のステータスなのかな


「ちなみに一番下のは?」

「うちの教会の名前と、発行年、発行日ですよ〜」


 まあそうだよね

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