第10話 ギルマスの哀愁

「ハジメさんをお連れしました」


 リリアナお姉さんがギルマスの部屋をノックすると、テオさんがドアを開けてくれた


「おう丁度よかったな。こいつが今言ってたハジメだ」

「えっと、初めまして、ご紹介に預かりましたハジメです。こっちはコロちゃんです」


 ぷるぷる


「で、こっちがここのギルマス、マドロイだ」

「おうハジメにコロちゃん、俺ぁマドロイだ」


 うおっ眩し!

 とか言ったら失礼か

 そこに居たのは禿頭のドワーフ、磨き抜かれた頭部を誇る御仁だった


「お世話になります」


 ギルマスって肩書からむくつけき大男を想像してたけど…

 確かに筋肉質なんだけど、いかにもドワーフって身長だ

 そしてぼうぼうに生えたお髭と頭頂部の対比が素晴らしい


 お辞儀で誤魔化しながら、ぺちぺちしたい衝動を抑え込んでいると、コロちゃんがぴょいん、と飛び出した!


「ぬぉ!お前ぇもか!」


 頭部に着地しようとしたコロちゃんが、つるんっ!と滑る


「コロちゃんだめ!こっちに戻って!マドロイさんごめんなさい!」


 慌ててコロちゃんを確保!

 そして今にも飛び出しそうなコロちゃんを抑えながら謝る

 俺だってあの頭をぺちぺちしたいの我慢したのに!


「別に構わねえさ、どうせもう一本も残ってねえんだからな…」

「ははは、スライム相手に油断するのが悪いんだよギルマス!」


 もしかしてスライムって、頭髪が好物なんだろうか…

 なんて恐ろしい生物兵器なんだ!


 まさか顔面に貼り付いて窒息死させるイメージの原因ってこれか?

 1、顔面に近いから頭髪が好物になった

 2、頭髪が好物だから顔面に貼り付く習性がある

 どっちが先なんだ


 テオさんは豪快に、リリアナお姉さんはクスクス笑ってる

 ドワーフのおっちゃんは…これこそが哀愁ってヤツか


「まあ座ってくれや、ちゃっちゃと始めよう」

「よ、よろしくお願いします」


 マドロイさんとローテーブルを挟んでソファに座ると、リリアナお姉さんが自爆ボタンっぽい箱をテーブルに置く

 むしろ早押しクイズのボタン…

 いや、自爆ボタンの方がロマンがあるな


「まずはこの真ん中の魔石に触れてくれ」

「はい」


 このでかい球体、魔石って言うのか

 魔力結晶とは違うのかな


 あ、コロちゃんを片手で抑えてなきゃ


 そして触れて待つこと数秒…

 何も起きてないのは気のせいか?


「あの、これでいいんですよね?」

「…テオ、試してくれ」

「あいよ」


 テオさんが手を触れるとすぐに光りだした!

 と思ったらすぐに手を離しちゃったよ


「壊れちゃいねえな」

「ちゃんと動いたな」

「メンテナンスは欠かしてませんから」


 俺、なんか変な事した?

 してないよな?


「ハジメ、もう一度触れてみてくれ」

「は、はい」


 …何も起きない


「ハジメ、こいつは登録と確認を行う為の道具で、魔力で動く」

「魔力を放出できないヤツでも検知できるんだよな?」

「ああ、その場合でも体内の魔力を検知したら道具に溜め込んだ魔力で動く」


 うーん、魔法とかない世界から来たからか?


「検知できねえのは生まれた直後の赤ん坊か、時間の経った死体くれえだ」

「つまりハジメさんは完全に…」

「俺には魔力がないって事ですか?」


 じゃあ異世界に来たのに、魔法は使えないってこと?

 なんだよそれー


「そんな話、聞いたことないぞ」

「魔力封印の呪いなどバッドステータスの影響でしょうか?」

「あれは魔力が放出できなくなるだけで、魔力そのものがなくなるわけじゃないんだろう?」

「それだってステータスが見られねえんじゃ、確認もできねえわな」


 ステータスを見る道具は魔力を使うから、結局は魔力のない俺には使えないって事か

 もうだめじゃん…


「ギルドの記録はどうだったんだ?」

「ハジメさんの名前で各支部を通じてあちこち照会してみましたが、そのような名前はどこにも登録されてないそうです」


 どこにも登録されていない

 転生特典ででも記録が捏造されていないなら、それは当然だし仕方ない


「まあ皆が皆、何らかのギルドに登録するわけじゃねえからな。それは不思議じゃねえ。しかしギルドとしては、してやれる事はもう調査依頼を受理してやる事くれえか」

「あの!やっぱり登録もできないんですか?」


 せっかくの異世界だ、冒険者やってみたい

 現代知識で内政チートとか、商売ウハウハとか俺にはできそうにないし

 そもそもファンタジーと言えば大冒険だ!

 魔力が無いならLvを上げて物理で殴る!


「ギルドとしちゃ、教会にある血液式の道具で作れるステータス証明書でも登録自体は受け付けるぞ。この道具が作られる前は、同じ道具がギルドにもあってそっちでやってたらしい」

「します!登録します!」

「そのかわり魔力式ギルドカードが発行できねえから、討伐証明は剥ぎ取り素材の提出が必須になるぞ。不正をしてないかの審査も必要になる」

「そのくらいなら問題ないです!」

「記憶がないなら、とりあえずギルドに登録しといた方が動きやすいか。生活の選択肢としてアリだし、もともと身元調査で行くつもりだったんだ。教会に行ってみるか」

「おねがいします!」

「そんじゃまあリリアナ、ウチのこの件の担当はお前って事で頼んだ」

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