第9話 人間ってどこでもそう変わらない

「ケモミミだ、ケモミミがおる。はて、にゃんこによく似たケモミミだ。おまけにわんこのケモミミまでおるわい」

「何言ってんだお前?」


 リスガーの街に辿り着いた俺達は、いや、俺は、感動していた


 THE和製ファンタジー、剣と魔法の世界

 ケモミミだけじゃない、耳の尖ったのや、背が低くて筋骨隆々なの、翼を持っているのや鱗が生えてるの、お約束のオンパレード


 まさに、俺の為にあるような世界!

 俺は今、モーレツに感動してい


「さっさと終わらすぞ、来い」

「ア、ハイ」


 テオさんに引率され、冒険者ギルドへ


 外観はなんか、砦ってイメージだな

 トゲトゲのついたでかいカメが支配下に置くと旗を立てるような感じだ

 看板は、盾の前に交差する剣と杖

 いいねいいね、わかりやすくて好きだな

 安直とか言わない

 おお、そしてこれは西部劇で見るあの、意味のなさそうなスイングドア!

 わかってるなー趣味が良い


 そしてテオさんはちょうど空いた受付へ…

 眼鏡をかけた美人なエルフのお姉さんだ!


「ようリリアナ」

「あらテオさん、お久しぶりです」

「今日ってギルマスは居るのか?」

「はい、居られますよ。今日は飛び込みですか?」

「ああ、できれば早めに頼む」

「かしこまりました、ではそのように」


 リリアナお姉さんは眩いばかりのスマイルで対応すると、【対応中】の札を置いてギルマスに話を通しに行ってしまった


「受付の人と知り合いなんですね」

「あー、まあそうだな」

「おや?おやおやおや?なんですか歯切れの悪い」

「飯奢ってやるから黙ってろ」

「ごちになります!」

「空いてる席に座って手を上げれば対応してくれる。俺の名前でツケとけ」


 ちょうど小腹が空いていたのだ

 転移初日、丘で目を覚ました頃はほぼ南中だった

 そこでコロちゃんと友達になり、グラスウルフを倒すも別の個体に追いかけられ、トレインしてから裁判を受け、10キロ前後離れたこの街まで歩く途中で初めての魔物とのタイマンをし、ここへ辿り着いたのが夕方近くだ

 怒涛の初日だ


 そう言えば、あれだけの全力疾走をしたり初めての戦闘をこなしたのに、体に痛みが出ていない

 こんなところにチートがあったんだなあ…

 でも丈夫な体って事ならもっと直接的に、わかりやすく戦闘力とかにもチート欲しかったなー

 ま、ねだってばかりでも仕方ない

 こうやって丈夫な体が手に入ったんだ、これで良しとしようじゃないか


 さて、メニューメニューと…


 読める、読めるぞ!というか日本語じゃないか!

 どうして異世界にひらがなカタカナ漢字に算用数字まで!

 これなら読み書きできるし助かるのは事実だけど…

 識字率とか含めてお約束が色々あるはずなのにこれとは、面白い事になってきたのか?

 …そう言えば会話も普通にできてるぞ


 あれか、ステータスに【異世界言語】って書かれてるパターンか

 とりあえずこの件は今考えてもどうにもならないし保留にして選ぶか


 せっかくの異世界初の食事なんだから、いかにもそれらしいものをチョイスしたいところだけど

 あまり長い時間かけてゆっくり食べると都合が悪そうだから…

 とりあえずこのサンドイッチみたいな説明のやつと、何か知らない生き物のだけどミルクでいいかな


「すいませーん」

「はーい」


 あれ、リリアナお姉さんだ

 もう戻ってきたのか

 じゃあテオさんは…あれ?


「ご注文ですか?」

「はい。でもテオさんがどこかに…」

「テオさんなら先にギルマスとお話してますよ。ハジメさんは食事が終わったらご案内するようにと」

「そうだったんですか。えーと、この子にも食事をあげたいんですけど、どんなのがいいんでしょうか」

「スライムは雑食ですので、消化できるものならなんでも食べますよ。好みはそれぞれですが」

「コロちゃん、俺と同じものでいいかな?」


 ぷるぷる


「じゃあこれとこれをそれぞれ二人分、テオさんの奢りでお願いします」

「かしこまりました」






「ほんとにイメージ通りだな」


 入り口から見て左半分に椅子やテーブル、その一番奥に通路と階段

 右半分は奥側から出っ張るようにL字の受付、そこから見て入り口側は空きスペースでその壁2面に掲示板

 あれはクエストボードってやつかなー


 他には【魔力結晶以外の剥ぎ取り素材は裏へ!飲食スペースでは取り出さないように!】ってあちこちに書いてある

 なるほど、食事するスペースを兼ねてるんだもんな

 ものによっては臭かったり、見た目で食欲をなくしたりしそうだし、もしかしたら口に入ると危ないものもあるかもしれない

 それに大物を仕留めたりしたらここじゃ狭い可能性もあるし


 なんか、意外性に乏しいと言えなくもないけど、現実的にはこの辺が落とし所ってことか

 ファンタジー世界とは言え、人が生活してるわけだし


 冒険者ギルドって事は、他の場所に座ってる人達は冒険者なんだろうな

 軽装だったり頑丈そうだったり、全身をすっぽり覆うフード付きローブだったりと格好は様々だ

 食事してたり話し込んでたり、掲示板を眺めてる人も居る

 全部で10人くらいかな?多いのか少ないのかわかんないな


「おまたせしましたー」

「あ、どうも」

「食べ終わった食器は返却口にお願いしますねー」

「わかりました」


 さっそくいただきまーす

 俺が食べ始めるのを見て、コロちゃんも食べ始める


 普通に美味い


 コロちゃんもなんだか嬉しそうにぷるぷるしてる

 もっとこう、ガバッと乗っかって食べるかと思ってたんだけど体の一部をくっつけて少しずつ取り込んでるな

 そして取り込むそばから…なんか消えてる

 体積どこいった


 サンドイッチはコンビニで売ってるみたいなのじゃなくて、コッペパンみたいなのを切り開いて具を挟んでる

 わりと固くてパサパサしてるけど、ソースが絡んで中和されて食感だけが残る

 具材はこれ、ほぼ野菜だな

 肉っぽいのも少し入ってるけど、肉汁はなくてここもソースの出番だ

 全体的にソースがいい味だしてる

 何かのミルクの方は、サラサラしてるな

 水で薄めてるのこれ…?

 飲みやすくていいけど

 味は薄いけどほんのりと風味がある

 ちゃんと美味しいと感じられるけど、ギルドの食事は質より量って事なのかな


「ごちそうさま」


 ぷるぷる


 うーん、メニューにはサンドイッチが35G、飲み物が15Gと書いてあった

 サンドイッチが350円、飲み物が150円と計算して一人分が500円

 二人分で1000円として、1G10円くらいかな

 でも物価って場所によって違うし、この世界で何が高くて何が安いかなんてまだ知らない

 命が安い、なんて事がなきゃいいんだけど


「コロちゃんおいで、そろそろ行こうか」


 そう言うとコロちゃんはぴょいん、と頭の上に乗っかる

 これは…

 バランスを崩したとにき危ないんじゃないか?

 緊急時ならともかく、できるだけリスクは減らしたい

 シャンプー要らずは嫌だ


「コロちゃん、そこは危ないから肩においで」


 そろりそろりと肩に降りてくると…つるんと落ちた

 あわててキャッチすると、腕に絡みついてくる

 ごめん、なで肩じゃ乗っかれないよね

 スルスル、と腕を伝って登ってきたかと思うと、結局フードに収まった

 体を伸ばして肩から顔を出し…顔だよな?

 とりあえず、すりすりしとこう


「やっぱそこが一番安全だよね」


 ぷるぷる


 さて、いつまでもイチャついてるわけにもいかない

 食器を返却してリリアナお姉さんを探そう

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