第8話 やってやんよ!

「うわぁ!っと!ふん!ぬぉ!」


 タイマンで避けるだけという前提なら、左右どっちが軸でも人型相手の体捌きはできる

 受けておいて良かった武器術講習!攻撃は自信がないけど、逃げるだけならまだなんとか!

 本当はもっと距離をとりたいけど、テオさんかコロちゃんに流れていったら危ないし、一匹くらいは引き付けておかないと!

 上手くすればあっちが早く終わって助けに来てくれるかも知れないし!


 でもいい加減、しつこいな…

 これスタミナ勝負になったら負ける可能性も充分にあるぞ


「ハジメ!自分を守れ!逃げるだけじゃない、何でもいいから攻撃しろ!攻撃しなきゃ何やっても倒せないし終わらないぞ!」


 あーもー!やるしかないのか!

 何なら人間様のずる賢さって奴を見せてやる!

 まずは…飛び込むようにして避けて更に距離をとる!


「おいゴブリン!お前のチマチマした攻撃なんて当たらないんだよ!攻撃が当たらなきゃ敵は倒せないんだぞ!どうしたかかってこい!俺はここに居るぞ!」


 右手を腰に当てて、左手で相手を指さし、大見得を切る

 言葉が通じるかは分からないけど、挑発は通じると信じて…というか通じるのが大前提だ、通じる!絶対!


 いいぞいいぞ、顔を真っ赤にしたような感じで地団駄踏んでる

 あとは大振りを誘って…ここだ!

 体捌きで避けながら、右掌で下から土を投げる


 掌底の遠当てって憧れるよね、うん

 まあ実際は土なんだけど、とりあえず目に入ったみたいだ

 得物を手放して両手で目を押さえてる


 ここから後ろに回り込んで…全体重を乗せた飛び蹴りだ!

 口笛は俺の落ち度だけど、殺しにかかってきたのはそっちだからな

 まずは抵抗できなくなるまで飛び蹴りで一撃離脱!


 そして動けなくなったところで手足をバッキバキだ

 人間と同じなら関節の構造はわかってるんだよ!

 関節技の恐ろしさを身を以って味わえ!


「ふー、ふー」

「勝ったな、ハジメ」


 ぴょいん!


 テオさんが近づいてきて、抱えられたコロちゃんが飛びついてくる

 もーコロちゃんてば、心配してくれてありがとねー


 なでなで、ぷにぷに

 ぷるぷる、ぷるぷる


「あれ、そっちはいつ終わってたんですか?」

「瞬殺だ、あんなもん。コロの分までな」

「そいつ、今のでLv6から9に上がったぞ」

「すごい!強い!」

「そんなでもねえんだけどな…で、トドメは刺さないのか?このままじゃただ苦しいだけだぞ」

「…放っておけば息絶えるのでは?」

「さすがにこの状態で放置はないだろうよ。苦痛を止めてやれ」


 あれかな、武士の情けみたいなやつかな

 もしくは最後までキッチリ責任を取る、みたいな


「じゃあ首でもへし折って…」

「やめとけ、噛まれるのがオチだ。これ使え」


 そう言ってテオさんは短刀を手渡してくる


「お借りします」

「いや、それはやる」

「いいんですか?」

「街で売ってるようなただのナイフだ、気にすんな」

「ありがとうございます」






「躊躇しなかったな」

「ええまあ、そんなの自分が危ないじゃないですか」

「弱いくせに覚悟が決まってんだか胆が座ってるんだか」

「とりあえず自分の身を守るのが大前提で最終目標ですかね」

「そんでもってグラスウルフからは必死に逃げてきたな」

「あれは相性が悪かったと言うか…蹴ったら自分の脚にダメージが」

「…とりあえず移動を再開するぞ」


 あれ、なんかテオさん

 何か言葉を飲み込んだような


「それにしても、守ってくれるって言った以上は先に終わったなら助けに来てくれても良かったんじゃ?」

「なんか妙に器用に避けてたからな。対人戦のようなものだけならできるんじゃないかってな」

「あー、倒した手段は、あの技術の延長ではないですけどね」

「お前、基礎は頭で理解してそうだがしっかり身についてはいないな」

「ええ、まあ」

「生兵法は怪我のもとだぞ」

「さっきも言った通り、基本的に攻撃はしてこなかったので」

「あくまで護身術か」

「そんな感じです」

「ともかく、体術の型は体に染み込ませろ。体作りと体力づくりにはなる」

「はい」

「そんでもって、時には捨てろ。さっきの土投げみたいに」

「ははは…」

「本来どんな物かは知らんがお前を見た感じ、あれはカウンターを狙う為の動作だろ。それも対人特化の」

「少なくともそのつもりで覚えて、実行しています」

「もし必要があって、それを実行できるなら、刺せ。最短最速で」

「刺せ、ですか」

「まあ斬れ、でもいいんだが」

「なるほど」

「同体格の人型以外にはそこまで役に立つわけでもないからな、お前の今の動きは」

「覚えておきます」


 村を出てから、体感で90分くらいかな

 てことはざっくりあと40分くらいか

 コロちゃんは腕の中で膨らんだり縮んだり…呼吸?

 寝てるのかなこれ


「ハジメ」

「なんですか?」

「お前、記憶喪失っての、嘘だろ」

「いやそんなわけないじゃないですかーははは」

「体術の話で、もうバレてるぞ」

「あ…」

「その上で訊く。お前、どんなところから来た」

「どんな…ですか?どこではなく?」

「そうだ。そういった技術の片側だけを、まあ趣味で覚える酔狂も居るだろうが、お前のは実用品だ。そして覚悟と言うよりも何かを切って捨てたかのような不気味な躊躇の無さ。歪すぎる」

「歪ですか」

「もしそういったカタに嵌まるのが必要なところからお前が来たんだとしたら、そこは苦痛だらけの場所なんだろうよ」

「そうでもないですよ。楽しいもの、面白いものもいっぱいありましたし、これからも増え続けると思います」

「ますます歪だな」

「そういうものですかね」

「さあ、どうなんだろうな。この目で確かめてみない事には、実際はわからん」


 記憶喪失のふり、やっぱ難しいんだなー

 言ってみれば別人のふりしてるみたいなもので

 あっちの俺とこっちの俺は別人、それが大前提

 知らないはずの事をポロッと漏らしたら簡単にボロが出る

 例えばこの世界の俺は、元の俺がどんな生活してたのか、知ってるのはおかしいんだ

 知識じゃなく技術で言えば体術だってそうだし、生活手段のバイトだって…


「ところでテオさん」

「なんだ」

「魔物を倒してお金を得る手段っていうと…」

「魔力結晶と素材の剥ぎ取りだな」

「ああ、やっぱりそういう…」

「なんだ、必要なのか?」

「もし次に遭遇したらおねがいします」

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