第7話 村長裁判、そしてドナドナ


「どうしたテオ。この男は一体何をしたのだ?」


 村長さんのとこに運んでくれた門番さんは、思いの外ゆっくり丁寧に椅子へと下ろしてくれた

 丁寧に扱えるなら舌を噛む前に言っておいて欲しかった…


 あ、コロちゃん膝の上においでー

 大丈夫だよー別にここは怖い魔物が出る場所じゃないからねー

 まあ人の心を魔物と言う事もあるけど


 ちなみに顔面の色々は、コロちゃんがお掃除してくれました

 もうね、コロちゃんなら顔面に貼りつかれようが、何だって受け入れちゃいますよウフフ


「グラスウルフ一匹、村の入り口までトレインしてきた。そっちは片付けたから問題なかったんだが、記憶喪失だと言い張るのにステータスは見せない、ハジメという名前以外を明かさない、パーティも拒否だ」


 舌からは出血してないよな?

 んべー

 くっ、見えない…

 もう少し、あ、つ、攣る!危ない!


「なるほどの。ハジメとやら、アバッシの村長、ザールだ。これからアバッシ法廷を開廷する」

「おい聞いてんのかハジメ!顔芸してないで神妙にしろ!」

「は、はい!すいません!」


 危ない危ない

 法廷侮辱罪があったらまずかったな


 ここは法廷ってイメージとは違うがらんどうの物置って感じで、俺が奥の椅子に座らされ、扉の前にザールさんと門番のテオさんが並んで立っている

 これ、法廷ってより尋問とかじゃないか?

 そう言えばこの村に入ってからまともに周囲を観察してなかったけど、目に入った印象は剣と魔法のファンタジーだったな

 魔法はまだ見てないけど


 つまり文化は中世レベル? → ここは中世の法廷? → 俺大ピンチ!?


「もし繰り返すようなら、法廷への侮辱として罪が重くなるので心するように」


 あ、見逃してくれてたんだ…


「まずは確認だ。おぬしは村の入り口まで故意にグラスウルフ一匹をトレインしてきた。これについて間違いはないか?」

「はい…間違いありません…」


 これは…動かしようのない事実だ

 俺の意思で、魔物を村まで引っ張ってきた…


「では罪を認めたとして、お主の身元等を確認する。まずは被告人のステータスオープンを口頭にて要求する。名前、種族、年齢、出身地もしくは所属地以外は誰にも漏らさぬと約束しよう」

「えーっと、名前はハジメ、どこにでも居るごく普通の人です。年齢は…まあ18で、出身地と所属地は…わかりません」


 俺、幾つくらいなんだろう

 体つきはもとのままみたいだけど、自分の顔を見てないし

 とりあえずこの世界では0歳、にはならないかな…


「自称ではなくステータスオープンを要求している。開示されないので、スキルにて強制的にステータス閲覧を行う」


 そんな事言われたって、ステータスをどうやって開示すればいいのかなんてわかんないし

 ああ、なんかまた背筋がぞくぞくっときてる

 正直ビビってるよな俺


「この期に及んでまだ抵抗しておるのか?この行動は有罪が確定した場合に刑罰が重くなると理解しての行動であると捉える。もう一度だけ機会をやろう、ステータス閲覧を受け入れるように」

「おいもういいだろ、さっさと開示しちまえ!」

「そんな事言われたって、どうすればいいのかわかんないですよ!」


 転移者だか勇者だかの力か知らないが、どうにも抵抗とやらをしてしまっているらしい

 神様ももうちょっとくらい融通の効くようにチート能力をくれても良かったんじゃないのか!?


「ぬぅ…結論としては閲覧できん」

「じゃあ仕方ねえ、刑罰マシマシ前提で話を進めるしかないな」

「待ってください!」

「テオ、ハジメがトレインをした事実は変わらぬな?」

「変わらないな」

「本当に!本当なんです!」

「…この件でここまで強制開示に抵抗するとは、普通ではないの。知っていればここまで抵抗はするまい」

「え?」

「それにこの辺りは特別に強い魔物も居ないし、トレインを行うのも馬鹿らしい。連れてきたのはグラスウルフ一匹だしな。まあ悪戯にしては悪質だが」


 …あれ?

 なんか急に追求が弱まった?


「テオ、お主の目から見てハジメはグラスウルフには勝てそうだったかの?」

「俺には無理です!」

「まあ無理だろうな。体力的に見ても怪しいし、ふん縛って運んでくる時の抵抗具合からしてもな」

「そして記憶喪失との主張だな?」

「本当に本当なんです!」

「でもステータス閲覧のスキルが効かないんだよな?」

「いやテオ、どうもおかしい」

「何がだ?」

「確かに閲覧できないが、それは抵抗されているという感覚と違うのだ」

「抵抗もしてません!」

「少し黙ってろ!村長、何だそれは?」

「拒まれておるような感覚ではなく、そもそもの対象を捉えられないような感覚、つまり…」

「そりゃ流石にねえだろ、この歳だぞ」

「法廷はテオドールにハジメのステータス調査を要請し、結果が出るまで一時凍結とする。以上」

「で?」

「ギルドに照会して、それでも駄目なら教会あたりだの。過去の活動記録があれば参照し、無ければステータスを調べる。その上で不可抗力だったかどうかを判断する。記憶があるかどうかの問題はそれ次第だの」

「え、ギルドって冒険者ギルド!?やっぱあるんだ!」

「…お前も飽きねーな、その態度」

「だって知らないものは知らないって、それ以外は言いようがないでしょ」

「とりあえず、お前が記憶喪失だとして、だ」

「はい」

「ギルドに照会する」

「宜しくお願いします!」

「もし過去に登録があれば、そこから情報を引っ張り出せるからの」

「なるほど」


 まあ登録なんてしてあるわけないんだけどねー

 むしろ紹介してもらえるって事はその時に登録できるってことだ!


「でだ、村にはギルドも、神殿どころか教会すらない」

「じゃあどこで?」

「ここから丘の向こうへ2時間ほど道なりに歩いた先に、リスガーという街がある」

「丘の向こう…」


 若干、あくまで若干だけど、トラウマっぽいんだよなーあの丘…ほんと若干ねあくまでも

 て言うか今、2時間って言ったな

 時間の単位が同じなのか?

 いや、仮に一日が24時間だとして、あちらとこちらの一秒が同じ長さだとは…


「現時点でお前の身元はこの村の預かりって扱いだから、お前は一応は守ってやる」

「ッ!どうか、平に!平に!」


 この辺の敵ははっきり言って手に負えない


「護衛と監視を兼ねてパーティ組むから承諾しろ」

「は、はい」


 テオさんから俺とコロちゃんに光の玉が飛んでくる

 承諾…と


「おい、スライムの名前しか出てこないぞ。お前、また拒否したな?」

「なんでかわかんないですけど、本当にできないんです!」

「はぁ…まあいい、行くぞ」


 てなわけで


 ぴょいん♪ぴょいん♪


 口笛を吹きながら丘を越えたりなんかしちゃったりして

 なんだかコロちゃんの足取り(?)も軽快なスキップのようで

 日は傾いてきたけど、いい天気だもんなー

 丘を下る時はやっぱり、ころころ…ってするのかねー

 あ、びたーんってならないように気をつけなきゃねー

 あれ痛そうだもん


「調子に乗って口笛を吹き続けるんじゃないぞ」

「え?」

「ゴブリンが仲間を呼ぶ鳴き声に似てるんだ」


 うそ!?


「えっと、グラスウルフとどっちが厄介なんですかね…」

「基本的にはどっこいだが、得物を振り回せるだけの知性がある分、厄介さではゴブリンが上だな。連中の武器は殆どがナマクラだが、硬い棒と考えりゃそれはそれで油断ならねえ」


 ゴブリンかー和製ファンタジーの王道だよねー

 そうそう、ちょうどあんな感じで…


「集まってきやがったな」

「うわあ、グラスウルフより厄介なのが5匹…異世界大冒険は初日で終了か…次に生まれ変わる時はもう少し難易度が低い場所がいいな…」


 ぴょいん!


 ここらの魔物はテイムできそうにないし、無理にやろうとするとそれこそ危ないだろうなー

 コロちゃん、ここでお別れになるかも知れないけど、元気に生きてね

 強いのは知ってるから、強く生きてとは言う必要ないかもだけど

 時々は思い出してくれると嬉しいなあ…


「おい、そっち行ったぞ!気をつけろ!」

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