第6話 お約束、そしてドナドナ

「あー、まずはステータスでもいい。身分を証明できるものを見せろ。話はそれからだ」


 門番さんはホレホレ、と手をひらひらさせている

 とりあえずポケットをまさぐってみる

 出てこい異世界特典!

 …出てきたのは、財布とスマホだけだった

 あ、電源きっとこ


「やっぱり身分証は持ってないみたいです…」

「はあ?お前、どこから来たんだ」

「えーっと…異世界とか来訪者とか、そんな感じで…」

「おい、おふざけの時間はそろそろ終わりにしてもらおうか」


 この流れは良くない

 良くない流れだこれ

 大事なこ


「名前を言っ」

「ハジメです」

「偽名じゃないだろうな?パーティ組むぞ」

「へ?」


 門番さんから俺になんか光の玉が飛んでくる


「な、なんですかこれ!?」

「逃げるんじゃねえ!」

「何!?魔法!?ちょっ!」


 パーティ組むって言ったのに、攻撃されてるの!?


「パーティってスキルだろうが!受け入れろ!」

「どうやって!?」


 逃げるのを止めても、体に当たってこない


「そいつを取り込めば承諾!振り払うか消えるまで無視すれば拒否だ!」

「取り込むってどうやって?」

「そのつもりで意識しながら触れれば承諾か拒否になる」


 …こう、か?

 光の玉は消えたけど


「拒否かよ…なら出身は?」


 拒否してないのに…


「実は、記憶喪失でして…」

「ほお、記憶喪失のハジメさんは、一体なんなら覚えてるんだ?名前以外は?」


 お約束、記憶喪失

 自分の名前は場合によるが、生活に必要な知識を除いて記憶がすっぽり抜けているというご都合主義は実際、どこまで通用するのだろうか

 そう言えば基本スタンスを今まで決めていなかったが、とりあえずこのパターンの基本をなぞっておこう

 方針に特に希望なんてないし


「…わからないんです。気が付いたら、ここを出た丘のところで眠ってて」


 嘘は言っていない

 ただ、倒れる直前かどうかはわからないが、その前の記憶も持ってはいる

 異世界だけど

 そして転移してきたってのも信じてもらえないみたいだし、これ以上の事は実際、何も言えないだろう


「…どこかから拐われて逃げてきたのか?」

「すいません、本当に名前以外は記憶がなくて、丘で倒れてたんです」


 じっと見つめられて背筋がぞくっとする


「埒が明かんな」

「なんか…すいません…」

「そういう事ならとりあえず、ステータスオープンと念じてみろ、口に出してもいい」

「ステータスオープン」

「口にするだけじゃ駄目だ、ちゃんと意識して念じろ」

「…ステータスオープン!」

「真面目にやれ」

「本当にできないんですよ!」

「抵抗にしても下手過ぎるだろうが!」

「本当…なんです…」


 なんで、ステータスを開く、ただそれだけの事ができないんだ…


「怪しい怪しい誰かさんはトレイン未遂で村長に報告しちまおうかなー」

「そんな!」


 必死に助けを求めただけなのに!

 でも…危険を他人になすりつけようとしたのは事実なのか…


「本当に命からがら逃げてきたんです!このコロちゃんが負けそうでしたし、あのグラスウルフってのも強すぎますよ…」

「護衛もつけない一般人が調子に乗るからだ。そのスライムは育てたのか?どうもそんな風には見えないんだが。グラスウルフに勝てるとは思えん」

「さっき友達になったばかりです。いつの間にかテイムできたみたいですが」

「テイム?そんなもん知らんぞ」


 もしかして、ユニークスキルってやつか…?


「あの、スライムが懐くのは珍しいんですか?」

「それなりに人に懐くらしい。特に子供だな。弱いなりに守ろうともする。ペットにする奴も居るな」


 やっぱり偶然じゃなく、守ってくれたんだな


「それから懐いた人間と離れると、そいつを探し回ろうとするらしい」

「そうなんですか」

「命の恩人だっけか?」

「命懸けで助けてくれました」


 あの死闘は本当に凄かった


「さっきのと戦ったのか?」

「別のグラスウルフの頭にとりついて、なんとかコロちゃんが弱らせてくれて、隙を突いて追撃して、結局コロちゃんが倒してくれました」

「そいつは運が良かったな」

「その後に遠吠えで仲間を呼んだみたいで、集まってくる前に逃げ出しました」

「必死に逃げ込んできた時のお前の顔は見事だったな」

「嘘じゃなく全力の必死だったんですよ!」


 あんなに走ったのは人生初だった

 もうやりたくない…


「まあそうだろうな。あんな、人としての尊厳をかなぐり捨てたような顔はそうそう出来ないだろう」

「その節はお世話になりました…でも顔のことはもう忘れてください。おねがいします」

「でもお前は最後までそのスライムを囮にしなかった。魔物だろうが仲間を見捨てない、そういう意地はこれからも人として忘れるなよ。あとステータス見せろ」

「はい、助けていただいて、ありがとうございました!あとステータスはわかりません!」


 頭を下げて、横を通り抜ける

 丘の方はきっと危ない、反対側からもっと手頃な場所を探そう

 そしてゆくゆくは伝説のテイマーとして…

 そうだ、冒険者ギルドとかあるなら、その場所を…


「あのー」

「なんだ」


 ちょっと質問しようと思う

 もちろん、冒険者ギルドについてもそうなんだけど


「なにしてるんですか?」

「縛ってる」


 何を縛ろうとしてるのか知らないけど、俺まで巻き込んでるじゃないですかー

 もう!このお茶目さん!


「何を?」

「お前を」

「なんで?」

「村長裁判にかける為」


 そうだったー!

 俺、容疑者?

 記憶喪失って言いながらステータスを見せるのを拒否してるように見えるらしいから…

 ここの法律とかは知らないけど、限りなく怪しい奴じゃん!


「お、俺、どうなるんですか!?」

「とりあえず、お前がどこの誰なのかを確定させないとな」

「だから記憶喪失で、ステータスだって開きたくても開けなくて…」

「お前の言う事がどこまでが本当かわからんが、とりあえず村長のステータス強制開示を受けてもらう」

「見られるの!?」

「嫌だろうが諦めろ」

「そうじゃなくて、見ることができるんですか!?」

「当然だろう」

「よっしゃー!」


 やっと自分のステータスが見られる!

 そうかーギルドとか行かなくても自分のステータス見られるんだー!


「何を喜んでるんだお前は。何らかの罪に問われてる時に裁判で強制開示を拒否したら不利になるのは理解してるんだろうな」

「拒否できるんですか?」

「知らん。お前がどういうつもりか知らないからな。じゃあ運ぶぞ」


 簀巻にされて担がれるって、まんま人攫いじゃないかこれ!


「え、ちょ、この扱いは、え?」

「舌噛むぞ、黙ってろ」

「ひゃい」


 担ぐ前に言って欲しかった…

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