第5話 俺?走ったよ
「ひぃぃぃーーーーっっっ!!!」
走る、疾走る、必死で逃げる
両腕で抱えたままだと上手く走れないからラグビー選手みたいに片手で抱えてたら、コロちゃんがもぞもぞとパーカーのフードに入ってきた
お陰で今は、俗に言うスプリンター走りだ
肘から先はビシッと指先まで!
骨盤から上体は起こして前傾し過ぎず!
しっかり腿を上げて足首の角度を変えず!
さすがに無呼吸まで真似したらこの距離は走れないから呼吸はする
でも…これ…長距離…の…走り方…じゃない…
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
いつかテレビで観た、舌を出して走ると余計な緊張が解れてもっと速くなるみたいなのもついでに実践!
顔中から涙とか鼻水とか涎とか色んな汁が迸るけどそんなの気にしてる場合じゃない!
とにかくもう全力の全力で走る!
ひぃぃぃーーーーっっっ!!!
き、距離が…追い付かれる!
「おぉーたぁーすぅーけぇー!!」
だいぶ近くなった門番っぽい人に全力で助けを求める!
「なんだあれ新種…いや人間か!?」
「死にたくないぃーーーー!!!!」
「そのまま駆け込め!」
唸れ!俺の両足!いや全身!
間に合え!間に合ってくれ!
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
「せぃっ!」
追いつかれる前に、なんとか安全地帯まで逃げ込めた
頭をぶつけるのも構わず仰向けに倒れ込んだら、コロちゃんがクッションになってくれた
あ、ごめんコロちゃん、痛かったよね、でもほんとごめん、今、動けない…
コロちゃんはぷるぷるって、気にすんなーみたいな感じで
ほんとコロちゃんには感謝しきれないな
息を整えていると、門番の人がこちらへやってきた
なんか、レザーアーマーって感じの色んな装備、そして重そうな剣でベテランの雰囲気を醸し出してるおっちゃんだ
その無精髭、お似合いですね
「ひゅーっ、ひゅーっ、ひゅーっ、ひゅーっ」
「なんか呼吸音がヤバイが…怪我はなさそうだな」
仕方ないさ、命をかけて走ってきたんだから
それもこれも魔王のせいだ
必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければ!
門番さんは俺を起こして背中をさすってくれてる
コロちゃんはササッと俺の腕の中に逃げ込んできた
「ぜひーっ、ぜひーっ、ぜひーっ、ぜひーっ」
「おい、護衛はどうした?」
「はぁっ、はぁっ、俺と、この子だけです、はぁっ、はぁっ」
「そのスライムは処分しなくていいんだな?」
「だ、ダメです!この子は命の恩人なんです!げほっげほっげほっ」
ぷるぷる
コロちゃんだけは絶対に渡さない
この子は人類の希望足りえる存在なんだ
そうじゃなくても恩人を…恩スライムを差し出すなんて、それこそ死んだ方がマシだ!
「スライムが命の恩人ってお前…まあ懐いてるならいい。で?グラスウルフ一匹を引っ張ってきて助けてくれーって、変わった服だが冒険者の類じゃないんだな?」
いくらチートがあるとは言っても、俺の身体能力は一般人だ
それでもこんな魔界で生き延びただけ、ルーキーとしては充分過ぎる程に合格点のはずなんだ!
初日なんだから!
なんかじとーっとした目で見られてる
ぞくぞくっとするけど、俺、別にへんなものに目覚めてないよ…な?
「はぁっ、魔界に、送り、込まれた、一般人、です、はぁっ」
「魔界ってなんだよ…護衛もつけずに一般人が何してたんだ。まさかどこかが襲われて助けを呼びに来たのか?」
「はぁっ、はぁっ、ふぅーっ…襲われたのは俺達だけです。ここなら精鋭の皆さんが助けてくださるかと」
「こんな平和な村に精鋭なんぞ居るかバカタレ」
「だってここ、最果ての村…前線基地なんでしょ?」
「最果てってお前、随分と失礼なヤツだな。それに前線基地って何のことだ?ここは良くある水と空気と素朴な食い物が美味い田舎の村だぞ」
「…え?」
「は?」
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