第30話 結審

 途中何度か迷いそうになりながら記憶を辿り、しばらく歩いてると、あの丘が見えてきた

 4日前に俺がこっちで目を覚ました場所だ


 こうして数日過ごしてからもう一度目にすると、これは夢じゃなかったんだと思える

 まあ、どこかのタイミングで何か死ぬような目に遭ってて、これが長い長い臨死体験だったりしたら洒落にならないけど

 それこそ考えても仕方ないな


「コロちゃん、ここは初めて会った場所だね」


 なでなで

 ぷるぷる


「俺がうたた寝してたら、コロちゃんが膝の上に乗ってて」


 なでなで

 ぷるぷる


「友達になって、人の居る所へ案内してくれて、その途中でわんころに襲われて」


 なでなで

 ぷるぷる


「出会った時からずっと、コロちゃんは俺の事を守ってくれてるよね」


 なでなで

 ぷるぷる


「本当にありがとうね、コロちゃん。これからもよろしくね」


 なでなで

 ぷるぷる


 スライムは特に子供に懐くってテオさん言ってたな

 少なくとも、俺くらいの体格は本来なら該当しないってニュアンスだ

 あの時から既に俺は弱り始めてたって事なのかな


 ぴょいん!


 思えばこっちに来てから数日、スライムに襲われた事はないな

 テオさんも問答無用で始末しようとはしなかったし


 ぴょいん、ぴょいん、びたーん、ころころころ…


「あああ、コロちゃーん!」


 走って追いかける


 そうそう、こんな感じでコロちゃん遊んでたんだ

 それで、アバッシ村まで案内してくれてる途中で…


「せいっ!」


 って、こんな感じでテオさんが始末してくれるまで、襲われたり逃げたりしたんだ

 グラスウルフに関しては同じように倒せるようになった

 ゴブリンはどうだろう?

 テオさんみたいに倒せるようになったら、どれだけ囲まれても関係なくなるだろうし、相乗効果でステータスもガンガン上がるだろうに


 ぴょいん

 ぺっ


「はい、ありがとね〜コロちゃん」


 なでなで

 ぷるぷる






「こんにちは〜」

「ん?よう!いい天気だな!」


 やっぱ門番はテオさんじゃないのか

 テオさん居るかな?


「ですね〜。村に入りたいんですけど、手続きってあるんですか?」

「そうだな、ステータスの一行目と、あれば身分証を見せてくれ」


 一行目?

 どう見えるのが普通なんだろ?

 そういうの確認した事なかったぞ…

 言われた通り一行目だけ表示すればいいのか?


「じゃあこれ、冒険者ギルドのカードです」

「おう、確かに確認した。旅の途中か?」


 セーフ!


「ちょっと村長さん宅にご挨拶に」

「そうか。通っていいぞ」

「どうも〜」


 これだけで通れるなんて、やっぱり平和な村なんだな、ここ

 村長さんの家はたしか、ここをまっすぐ行って…


「ん?おぬしは確か…ハジメかの?」


 居た!

 畑の収穫物を運び込んでる!


「村長さん!お久しぶりです!」

「4日ぶりだの。今日はいったいどうしたのだ?」

「お二人にちょっとお礼というかご挨拶に。手伝いますよ!」

「おお、すまんの」


 暫く手伝って荷物を運び終えると、お茶を出してくれた

 今度はあの時とは違って、ちゃんとした部屋だ


「わざわざ挨拶に来たのか。律儀なことだの」

「まずはお礼を。あの時は俺に、なんと言うかチャンスをくれて、ありがとうございました!」

「まあ伊達に長生きはしとらんからの。しかし本当にLvが0だったとは驚いた」

「俺自身、びっくりでした。もう何が何だか」

「テオから事情は聞いた。ではこれにてハジメを無罪放免とし、結審する!」

「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げる

 お礼も言えたし、裁判もちゃんと終わった

 あとは事情を説明すれば、胸の支えもとれる


「それで、テオさんは?」

「テオはあれで忙しくしておるからの。今頃またどこかの街で依頼をこなしておるのだろ」

「やっぱり冒険者だったんですか…」

「聞いておらんかったのか。あれからどうしておるのだ?記憶も身寄りもなかったのだろ?」

「あの後、教会でお世話になっています。今は表向きヤマトと名乗って、新人冒険者としてなんとか」

「ほう、冒険者か。とすると、護衛もなしに自力でここまで来られるようになったのか?」

「はい、コロちゃんと一緒に」

「グラスウルフをトレインしてきた男がのう」

「ははは…その節は本当にお世話になりました」

「ハジメではなくヤマトと名乗っているのは、記憶が戻ったのかの?」

「いえ、冒険者ギルドがあちこちから情報を集めようとしてくれて、その時にハジメって珍しい名前を使っちゃったので、変に目立つといけないって事で」

「もし冒険者をしているのがあの時の事情によるものなら、この村で農民なんぞやって平和に暮らしても良いのだぞ?」

「いえ、実は…」


 ん?なんか窓の辺りに誰かの反応…

 まさか盗賊団?

 もう!?


「どうしたのだ?」

「ちょっと家の外に誰か…このまま話し続けるフリをしてくれませんか?確かめてきます」


 村長さんに耳打ちし、こっそりと裏へまわる


 誰かが聞き耳を立ててる?


 全速力で近づき、逃げ出そうとする犯人の腕を背中に回し…


「おい待て!離せ!」

「あ、門番さん!?」






「すいません…」


 早とちりだった

 そりゃそうだ

 こんな白昼堂々、盗賊団が動くわけがない


「いいっていいて、コソコソしてた俺が悪かったんだ」

「心配して覗いておったのか。これで急に腹を下したりしなければもう少し優秀なんだがの」

「それはしょうがないだろうが…」

「どうしようもないですもんね」


 あれだな、無神論者でも神に祈るって奴

 俺も辛い目にあった事がある気がする


「お前、あれだろ?数日前にちょっとテオに代わってもらってた時にトレインしてきた奴」

「あ、そうか!本来の門番さん!」

「聞いてた通りだな」

「えっと、どんなお話があったんでしょう…」

「弱いはずなのにそれなりに動けて、思い切りが良くて、記憶喪失の大変な奴」

「考え足らずって事ですよね…さっきは失礼しました…」

「お前、人がせっかく言葉を選んでやったのに…」

「ははは…」

「じゃ、俺は仕事に戻るからな」

「はい。さっきはすいませんでした」

「頼んだぞ」


 


「それで、なんだったかの?」

「えーっと確か…今どうしてるか、でしたっけ?」

「そうだったの。この村で暮らすか訊いたのだった」

「お気持ちは本当に嬉しいです。でも、冒険者もしたかったので」

「Lv0だからと思ったが、さっきのを見ると本当に心配は要らぬようだの」

「実は、教会に最初に泊まった夜、女神様に助けていただいて」

「女神様だと?」

「夢の中で、お告げって言うんですかね?結論を言うと、魔物を狩る生活をする事になりました」

「ほう?」

「ステータスを見てもらえますか?」


 Lv35の冒険者としてのステータスに、女神の加護を表示させる

 あとはテオさんだな


「ありがたや〜!ありがたや〜!」


 あ、しまった


「そ、村長さん!顔を上げてください!」


 利用されるとかじゃなくても、こういうのがあるんだ!


「ま、まさか使徒様に…」

「いやいや!俺は女神様に助けられただけで、大層な存在になったわけじゃないので!普通の人間ですから!」

「そ、そうなのかの?」

「そうなんです!普通にしてください!お願いですから!」

「しかしの…」

「このとおりです!」

「わ、わかった…せめて村をあげて歓待…」

「勘弁してください!」

「むぅ…」

「そうだ!近くに盗賊団が流れてきたって話は伝わってますか?」


 もともとこれが気になってこの村に来たんだ


「その話か。心配せずとも伝わっとるよ」

「いつか挨拶にとは思ってたんですけど、盗賊団の話を聞いてここの事が浮かんで」

「こんな何もない村を襲っても何もないだろうて。来るか来ないか、いつ来るのかもわからんしの」

「村の守りとかは…」

「そうだ、冒険者ギルドに手紙を届けてくれんかの。そこから騎士団にも嘆願が届くように書いておくでな」

「お安い御用です!」

「もうすぐ家族も帰ってくるだろう。昼でも一緒に食べて行け。どうせ食べておらんのだろ?」

「ありがとうございます!お言葉に甘えて!」

「わしは手紙を書き直してくるからの。その間、好きに待っとれ」

「お手伝いとかは…」

「はっはっは、すぐじゃ、すぐ帰ると思うでの」

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