第28話 実験

「実験から始めるべきだったな、うん」


 何が入るのか、入らないのか

 例えば俺が入れるとして、そもそも入って大丈夫なのか

 出来る事を理解してから使い道を考えるべきだった


 あ、実験を繰り返すならMPポーションをいっぱい飲まなきゃいけないのか

 マズいんだよなぁ


 まぁ仕方ない


「重さの扱いについては何となくわかった」


 重さは無視されない

 物を入れると体が鈍くなるような感じだ

 上から押し潰されるわけじゃないけど、全身が圧迫されてるのに近い


「あとは何を調べるか…」


 よし!


 まずは時間経過だ

 スマホの電源を入れて…

 ここに来たのが、3日前の同じくらいの時間か


 …時計は同じように進んでるな


 充電に使える魔法があれば普段から時計として使えるのになー


 待てよ?

 こっちの世界とあっちの世界で時間の単位が同じでも、時間の長さが…


 別の方法で実験するか






「ノーラ〜、同じ長さで同じ種類のロウソク二本あるかな?」

「それなら〜…これを〜」

「ありがとね」

「何を始めるんですか〜?」

「ちょっとスキルの実験。ほら、ノートが入ってた異空間の」

「なるほど〜」


 実験の間はとりあえず、部屋の机にノートを仕舞っておくか


 ロウソク二本に…着火!

 片方を中に設置して


「コロちゃんおいで〜」


 ぴょいん


 なでなで

 ぷるぷる


 つんつん

 ぷるぷる


 ふにふに

 ぷにぷに


 …


「そろそろいいかな」


 異空間を開けて…


 うん、同じ長さだ

 時間経過は異空間の中と外で同じだな

 酸素も少なくとも容積分はあるんだろう


 しまった、ロウソクの燃え尽きる時間を聞いておけば良かった

 まあ、あっちとこっちの時間の長さを調べても実用的じゃないからいいか


 いや、こっちの時計とスマホのストップウォッチを比べればいいだけか?

 ん?ストップウォッチの1分の長さがこっちの1分に変わってたりして…

 とにかくこれはまた今度だな


「次は…生き物の扱いについてかな」






「ノーラ〜、生きた魚を捌ける〜?」

「できますよ〜?」

「もし用意できたら今夜は魚でもいい?」

「いいですよ〜」

「じゃあ獲ってくるから桶を貸してくれる?」

「釣りに行くんですか〜?」

「これも実験の一環なんだよ。生き物が入るかどうか」

「なるほど〜」


 街の横の川に来た

 お〜泳いでる泳いでる

 よしよし、今は誰も居ないな


 水中の魚の下に異空間の入り口を小さく開けて…


「流れ込んできた!」


 魚が水と一緒に流れ込んでくる!

 お、重…

 押し潰される前に閉める!

 重さの扱いがよーくわかった

 ステータス高くてよかった…


 少なくとも水中でも異空間の入り口は開ける、と

 まあ空気中でも開けたしな

 でも入り口を小さくは出来ないのか

 水平には開けたから、入り口に角度をつけるのは出来る、と

 あと、中に水が流れ込むって事は重力に従ってるな


「コロちゃん〜」


 もぞもぞ


 なでなで

 ぷるぷる


 つんつん

 ぷるぷる


 ふにふに

 ぷにぷに


 …


「地面に対して斜めに入り口を…」


 …だめか

 個体に対しては干渉できないのかな?

 空気はできて、水はできて、地面がだめで…

 分子レベルの話か?

 まあ分からないものは分からない、でいいか

 これが出来たら、無条件に相手を切断する必殺技とか出来たのに


 で、中の魚は…

 泳いでるな


「生き物はOK、と」


 あとは…


「家に持って帰ってから桶に移すか」


 あれ?

 これって、誘拐やら窃盗に悪用できるんじゃ…


 いや、深く考えるのはよそう

 とりあえず、色々わかった


 





「ただいま〜」

「おかえりなさい〜」

「魚だよ~」

「これ食べられませんよ~」

「…ごめん」


 そういうオチかよ…






 さて、気を取り直して

 当初の使い道のひとつ、着替えだ


 生き物も中には入れるんだよな


 外で着替えるよりも、この中で着替えた方がいいんじゃないか?

 ついでにこれも、実験しておこうじゃないか!


「コロちゃん、着替えの練習してみるから、ちょっと離れてて」


 ぴょいん


 入り口を開いて


 中に入っ…


「冷たっ!」


 無理無理


 …水分が残ってるじゃんよ

 これ、どうやったら乾くんだ

 開いたまま乾くまで放置か?


 一旦閉じる


 開く


 濡れてる


 閉じる


 開く


 濡れてる


 …そっと閉じる


「普通に拭くか。いや、リセット出来ないのか?」


 異空間そのものを解除…出来ない


 前は解除できたのに


 開く


 やっぱり濡れてる


 解除…できた!


「お〜」


 目の前の床へと水滴が


 開く


「乾いてる!」


 中に物が入ってると解除不可能で

 入り口を開けたままなら、中身をぶち撒けて解除可能か


「なるほどね」


 それじゃまあ、入りますか


「お〜、これが俺の体重か」


 膝を抱えてもたれかかる


「狭いとこ落ち着くわー」


 果たして俺は、この狭い空間で着替えられるのか!?


 一旦閉じて


「暗っ!」


 心臓がバクバクしてる


 衣擦れの音がする


 無理無理無理無理ッ!

 暗いよこの中恐い!


 出口を作って慌てて出る


 ぴょいん


「…棺桶の中ってあんな感じなのかな」


 落ち着くのを待つ


 ぶるぶる

 なでなで


 なでなで

 ぷるぷる


 今になって考えてみたら、とんでもない事をしてた


 そもそも、だ

 中で入り口を閉じて、自主的に閉じ込められた後に、外に出られるとは限らなかった

 出られたとしても、同じ場所に出入り口が作られるとは限らなかった


「知らない間に危ない賭けをしてたんだな…」


 気付いてないリスクがある可能性が高い

 それに異空間は多分、密閉空間だ

 長時間、人が中に居たりしたら窒息する

 これはもう当面の間は、危なくなったらコロちゃんをこの中に逃がすとかも考えない方がいいのかな


 とりあえずまとめてみるか


 ・生き物も入れる

 ・中に物を入れると重さを感じる

 ・入り口の大きさは変えられない

 ・入り口を遠くには開けない

 ・入り口から離れると消える

 ・入り口の位置や角度は自由度がある

 ・入り口を開く場所は空気中や水中など、ある程度は自由

 ・入り口で個体?を切断したりはできない

 ・閉じると外界と隔絶される

 ・閉じても下向きの重力がある

 ・閉じても時間の経過は中と外で同じ

 ・中に入って閉じてもまた開ける

 ・中から開いたら入った時と同じ場所に出口が開く

 ・中に空気がある。開いた時に中に入った分?検証不可?

 ・中に物が入ってると解除できない

 ・中の物をぶち撒ける前提で、入り口を開けたままなら解除できる

 ・中の壁は硬い

 ・中の形は変えられない

 ・気付いてないリスクもあるかもしれない

 ・緊急避難には使えるかもしれないけど、できるだけ避けたい

 ・コスパ悪い

 ・着替えには向かない

 ・暗いとこ恐い

 ・あとやっぱり狭い

 ・悪い事には使わない


 最後の方はただの感想だな


 あ、入り口の裏側は…


 もやもやしてる

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