第2話 例のアレ

「ふわ~ぁ、よく寝た…」


 随分とスッキリした目覚めだ

 こんなに気持ちよく眠ったの、いつぶりだろう?


 あまりの気持ち良さに、思わず全力の背伸びを…


「って痛たたた…くない…?」


 いつもなら、首筋とかどこかしら攣るのに…?


 ああそうか、バイト辞めたんだった

 やっぱり辞めて正解だったんだよあんなとこ!

 どこの疲れも残ってないし、やっぱり健康って偉大だなー

 天気もいいし、風も気持ちいいなー

 ほんと平和だなー

 このまま少し日向ぼっこでもするかー


 …ん?


「チュンチュン」


 ここどこだ…?


「チチチチチチチチ」


 確かバイトを辞めて…

 そうだ、帰りに具合が悪くなったんだ

 冗談抜きに疲れてたんだな…


 それで…

 襲われて…!

 気を失ったのか!?

 え、でも病室じゃないし、と言うか建物が見えない…

 見渡す限り…


 正面、原っぱの先に林


 右手、原っぱってよりもうこれ、草原か。その先にでっかい山


 左手、正面へと続く林ってかこれももはや森か?


 それで後ろは…丘

 いや、後ろが丘というよりも、ここが丘の中腹か


 そして丘の向こうに青と白のコントラスト

 うん、やはり心地良い風だ

 どこかから花の香りも漂ってくる


 えーと…


 まさか…


 ここ、天国か…?

 す、少なくとも地獄じゃなさそうだけど


 …えー


 マジかー


 俺…死んじゃったん…?


 いやいやいや、まずは深呼吸してー

 すーはーすーはー

 胸に手を当てて考えてみよう

 あ、心臓動いてる


 …うん、考えてもわからん

 まずは、誰か居ないか探してみよう

 とりあえず丘のてっぺんだ


 ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん


「いやー見晴らしいいなー」


 ころころころ…


「人っ子一人居ないなー」


 ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん


「この雄大な景色を独り占めだーわーい」


 ころころころころ…


「すいませーん、誰か居ませんかー」


 ……


「誰かー」


 ………

 ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん…


 誰も居ない

 そう、人っ子一人居ない


 ころころころころ…


 でも、生き物が居ないわけじゃない

 もちろん、草木という意味ではなく


 ぴょいん、ぴょいん、びたーん、ころころころ…


 あああ、さっきまで元気に跳ね回っていたのに、びたーんときて、丘の斜面をころころと…

 これ、ひょっとするとあれかな

 いわゆる、あの…?


 ぴょいん、ぴょいん


 特にこっちに向かって来るでもないから気にしてなかったけど

 改めて観察すると…


 ・丸っこい

 ・なんか透けてる

 ・ぷにぷにしてそう

 ・生きてる、ていうか跳ね回って転がって…遊んでる?


 どう見ても例のアレです、本当にありがとうございました


「異世界キテターーーーーー!!!!!!」


 びくん、ころころころころ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る