レベル0のサバイバー

@kkym_h9b

第1話 やってられるか!

「それじゃあお疲れ様でした」

「おいヤマト、空いてるシフトに入れといてやったから確認しとけよ」

「いえもう来ません。正しい計算で未払い分を振り込んでおいてください。今までお世話になりました」

「ふざけるな!人としての最低限の責任ってもんがあるだろうが!」

「ああ…そういうのいいんで…」


 辞めてやった

 どこにでもある話だ


 なんにだって限度ってもんがある

 雇用契約は奴隷契約じゃない

 働くってのは生活の為だ

 そこが最低ライン

 人生を全うする為に働く

 働く為に生きるんじゃないんだ


 更に言えば、こちとら学業だってある

 本来は2週間前でいいところをずっとずっと前に宣言したんだ

 これ以上は譲れない

 シフト以外にも言ってやりたい文句なら、そりゃ幾らでもあった

 でももう無関係だし、だからこそ言う意味もない


 筋の通らない連中とは付き合わなきゃいい

 逃げられるなら逃げるべきだ

 ま、あちらさんはお役所から逃げられないだろうけどねー


「お、お友達はっけーん」

「マジメちゃんじゃーん!」


 ああ、それにしても体がダルい

 熱でも出てきたのかな

 なんか頭とか胸の辺りが痛い気もする

 とりあえず早く帰ってとっとと休もう


「ナーイッス!」

「ツイてるねー!」


 もうゲームや漫画なんてどのくらい触ってないんだろう

 明日にでも病院に行って、何もなかったら、ちょっとくらいはいいよね

 少し遊ぶくらいはお金の余裕もあるし

 アレの続編とか、もう幾つか出てるんだろうな


「やっほーいっと!」

「ぐぅっ!」

「うわヒッデー!」

「いいんじゃね別に」


 いきなり衝撃を感じて、気付いたら路地に倒れてた

 あちこち痛い

 具合も悪化してきた気がする


「…え?」

「え?じゃねえよ」


 見上げるとどこかで見た気がする顔

 …ヤバイ


「あん時お前がチクってくれたおかげでさー、やる事ねーし金もねーんだわ」

「かわいそーな俺らに金恵んでくれるよな?」

「むしろ遊んでくんね?もちろん金も貰うけど」


 うわー、カツアゲって今時あるんだな

 暴行付きだから恐喝ってよりはむしろ強盗か

 高校の時から不良が抜けてないのか

 歳考えろよ!更正しろよ!

 って分析してる場合じゃない!

 俺は逃げ出した!


「逃さねーよ!」

「ほらほら遊ぼうぜー」


 しかし回り込まれてしまった!

 ってふざけてる場合でもない!

 ただでさえ具合が悪いのに、不意打ちまで食らって最悪だ

 でも3人に囲まれて逃げ場がないぞ…


「逆恨みだろ!こっちはごく普通に穏便に暮らしたいだけなんだよ!」

「お前は大人しくボコられときゃいーんだよ!」

「やっちまえ!」

「おらあっ!」

「くっ」


 はっきり言って喧嘩は得意じゃない

 合気道の経験は少しあるけど、あくまでルールのあるものだし、それも随分と前の話だ

 ただでさえ一対一でもやりたくないのに、囲まれてる上に頭痛までしてきた


 逃げられないなら仕方ない、覚悟を決めるか

 覚えた中で使い物になりそうな体捌きは、左を軸足にする動きだけ

 有利な位置取りだけは死守しないと

 正面からの拳を右手で捌いて、左手を相手の肘に添える。そして右に反転して左に居たヤツにぶつけると、勢いで相手の肘が折れる


「いてー!腕…腕が!」

「はあ、はあ、先に手を出してきたのはそっちだからな」

「調子こいてんじゃねーぞ!」


 右に居た奴が跳び蹴りを仕掛けてくる

 左足で右斜め前に踏み込み、そのまま右足を振り上げつつ右回転

 上半身のどこかにでも当たってくれ!

 相手が経験者じゃなくて本当に運が良かったと思った瞬間、反射的に俺に伸ばしていたらしい腕に掴みかかられ、もつれるようにして倒れ込む


「ってー、てーよ…」


 正面のヤツに巻き込まれて倒れ込んでた左のヤツが起き上がってくる

 一人は肘をやられてうずくまってるし、一人は頭から落ちたのか動いてない

 …本当なら逃げるチャンスだけど、とっくに警察沙汰か

 俺、大丈夫かな


「…けほっけほっ、救急車呼んだ方が良くないか?」

「マジで潰す」


 うわー、何か光を反射する尖ったものが出てきたぞ…

 ああもう、息が上がってるし眩暈もしてきた…

 頭が、胸が、痛い、苦しい…

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