第2話 心の在処

施設の所長からクマのぬいぐるみ貰った。

幼い私の最初の記憶。

閉鎖された部屋で誕生日を祝ってもらったのが最初の思い出。

国の研究機関であるその施設は魔女に関しての情報を集めていた。

私は、毎日休み無く続く質問がとても嫌で苦痛だった。

なぜなら、私には過去の記憶が無く聞かれた事に答える事が出来なかったからだ。

私は口数が減り

心が黒で染まっていった。


しばらくして若い女の人が来た

新しい所長になったそうだ

誰が所長になろうと私には関係ない

同じことの繰り返し

もう心がどこにあるのかわからない

繰り返し

繰り返し

繰り返し……

何を話しているのか…もうわからない…

いつものよう…に ふるまうだけ……


「ごめんなさい」

体をすべてを抱きしめられた

「つらかったよね」

「もう大丈夫だから」

「だいじょうぶだから」

心まで優しく抱きしめられた

私は彼女の胸の中で声を出して泣いた

初めてぬくもりと幸せを感じた

とけていく

色がつく

ああ 世界が広がる



彼女の告白は昔の事を思い出させる

所長は私に愛と幸せを胸の奥に感じさせてくれた

魔女である私を好きだと言ってくれた彼女は

なんだか所長に似ている。

「くすっ」思わず微笑んでしまった。

「やっと笑顔を見せてくれた」

「あっ、いやこれは、ちがうんです」

「大丈夫だよ」

「!」

「私はどんな事があってもあなたの側にいる」

「人が何を言ってもあなたを信じる」

「だから大丈夫だよ」


涙が溢れた

前が見えない

彼女を抱きしめた

「ありがとう」

言葉がつまってうまくでてこない

彼女も涙を流し2人で思い切り泣いた

夕陽に照らされ舞う桜の花びらは

優しい風とともに空と大地に幸せを描いてゆく


「好きになってくれてありがとう」

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