第3話 なまえ

幼い時… 魔女の研究をしている暗い施設にいた…


来る日も…来る日も…… 動物のように調べられ……


精神 は……… 崩 壊 し て い く … ……………

………… …… …


「………また、あの時の ゆめ… 」


厳しい冬の寒さは過ぎ去り 柔らかな日が小窓

から射し込んでいる

目が覚め最初に『私の可愛い小窓』に挨拶をする

ベットから起きて側に行き 窓を開ける

新しい息吹が頬を撫で髪を揺らす


目の前に広がる優しい風景

美しい緑の色の隙間から見えるキラキラは 瞬く星空

遠くに見える海の 青のキラキラは 輝く宝石

重なり合い キャンバスは様々に色づき 私を楽しませる

桜の花びらがふわりと入ってきた

窓辺に腰を掛け しばらくの間 春の訪れに耳を傾ける


魔女の存在が世界中に知られて7年が経ち

私は高校生になった

式典を終え教室に戻り、一人席についていた

この高校は魔女を理解し知識を深めるために国が設立した学校だ

魔女の私がここにくる必要性があるのか疑問だが…

母が強く勧めるので仕方なく入学した

(今まで通り 一人の勉強で良かったのに)

「あの理事長。見たー⁈ 小ちゃくて可愛かったねー」

「うん、うん、それにあのサラサラの髪が金色に輝いて綺麗だったー」

「私はエメラルドグリーンの瞳で見つめられたわ」

「わたしも、わたしも」

「…」

(どうやら『あの魔女』の話で盛り上がっているみたいですね…)

「『あの魔女』のだらしない本当の姿を教えてあげましょうか」

「彼女たちの『がっかりする姿』が目に浮かぶようです。ふふふ」


私はあの魔女を知っている

施設に囚われていた私を『あの魔女』は救い出してくれた

存在は解っていたが、『私を縛る幾つのも仕掛け』の特定と解除に

時間が掛かったそうだ

そして従者の筆頭として潜入していた

今の所長である彼女は

あの暗い牢獄で私を暖かく抱きしめてくれた人

『彼女は私たちの誇り』だと従者達から尊敬の念を抱かれる人

彼女のとても美しい容姿に柔らかな声は

小さなわたしが憧れを抱くのにさほど時間は掛からなかった


しばらくして世話をしてくれている彼女が『あの魔女』のもとに行くというので

会って「感謝を伝えたい」と頼んだ

子供が気楽に頼んだ事だったのだが、大人の世界では実に骨の折れる事だったらしい

沢山のスーツの大人たちが多くの車と共についてきた事を覚えている

車に一緒に乗ってきてくれた彼女だけが心の拠り所だった

大きな幹線道路から山が連なって見える方へ入る

大きな樹木が立ち並ぶ深い緑の森を沢山の車が登って行く

途中大きな門がいくつもあり一つ一つに五、六人の人がいた

車列はそこを止まる事なく進み、やがて大きな古めかしい

洋館につく

『パタン、パタン』と沢山のドアの開け閉めがしばらく続き、そして多くの人達がいなくなり

あたりは深い深い静寂を取り戻した

次に『ぎーぃ~…』と何かが擦れているような低い音が耳に入ってくる

私の座席の向かいに座っている彼女が「さあ、行きましょう」と、

ニコッと微笑みながら私の手を取った

(あたたかい)

私は彼女に触れられるのが大好きだ

(もっと触ってもらいたい)

玄関先の真っ赤な絨毯が奥のらせん階段まで真っ直ぐに伸びている

大きな両開きの扉の奥に女の人達が絨毯を真ん中に、その両脇をズラリと並ぶ

(大きなフリフリが沢山ついた見たことがない洋服…)

興味はないけれど、頭に耳が付いていることには驚いた

「おかえりなさいませ お嬢様にお姉様」

一斉に頭が下がりそして出迎えられた

「ただいまー… でも…」

「大変ねーあなた達も…」私の手を引いたまま女の人達に話しかける

「そーなんすよ、姉さん」

「ホント、あたいらにこんな格好をさせるなんて

何考えてるんですかねあの人は」

「まあまあ」と宥めているのだが幼い私には分かるはずもない

「この子ですかい」

「そう、可愛いでしょ」と彼女が頭を撫でてくれた(うれしい)

「きゃーみせて、みせて」女の人達に囲まれ触られまくる

「やめてください きもちわるいです」淡々と言いながら

『ぴしっ』と頭や体の手を払いのけた

… … …。

「きゃぁー。なにこの可愛い生き物は…」

益々激しく撫で回された

「はいはい、また後でね」手を引かれた

「もう少しいいじゃないですか」

「そうですよ これを着けたらもっと可愛いくなると思うし」

猫の耳が取れている

(おぉー)耳だけには興味がわいた

「そんなの着けなくても充分に可愛いわよねっ」

こちらを向きウインクする

(あっ、いや、その、ちょっと猫の耳はつけてみたい…)

「また、後でなー」

「はやくもどってきてねー」

彼女たちが笑顔いっぱいに手を振っている

(ふー、なにをいっているのですか これで永遠におわかれですよ ふふふ)

左の頬だけが上がり微笑む

練習をしているのだがうまくいかない

でも、今日はなんとなく、これでよい気がする、うん

「あらっ、今日は楽しそうね。

良かったわ連れて来られて」

「はいっ、とても楽しいです」

彼女に話しかけてもらうだけで本当に嬉しい気持ちになる

正面の左右にある螺旋階段の右を登り奥へと続く通路へまっすぐ進む

幾つもの大きな部屋を通り過ぎた突き当たりの部屋の前に立った

入り口には金色の猫のプレートが掛けてあり何か文字が彫ってある

猫は横向けに大きく背伸びをしているみたいだった

あくびをしていて眠たそうな猫のプレートだ

彼女は扉の前に着くと跪き、胸に手を当てながら

敬意を表した


『私たちを統べる者である永久の魔女よ

貴台の従者である証が貴台の栄光を輝かせる事を私は望む』


いつも優しい彼女の声とは違い凛々しく清々しい

「入れ」中から声が聞こえた

彼女は立ち上がり扉を開け私に入る様に促した

「しーのー 。 よく来たのー 会いたかったぞー」と

何処からともなく金髪で小さなお人形さんが

彼女に飛び込んだ

「あらあら、始祖様はいつから甘えん坊さんになったのかしら 潰しますよ」と言いながら

子猫の首をつまむ様に体から『ガバッ』と引き剥がし持ち上げた

「しぃのー…いた いー」腰まである金髪が左右にサラサラと揺れ

身体はそれとは相反しプランプランと空中を漂っている

黒く足元まで丈のある沢山のフリフリが付いたその服が

輝く金色の髪を際立たせた

(すてき)

初めて着てみたいと思った

「なんじゃ、そちよ、この服が欲しいのか」

向こうを向いてプランプランしていた顔がゆっくりとこちらに 向いた

(よまれた 心を)

''恥ずかしい''

と同時に怒りが込み上げた

両腕を胸の前で『ぐっ』と組んだ

「ほうー」

摘ままれていた腕からパッと消え

突然私の前に現れた

『じーっ』と顔を近づけそして離れた

「そちの声が突然流れ込んできたのでな」

「ただ、それだけじゃ。決して心を覗いてはおらぬ。安心せい」

「うっっー」と威嚇した

「うっ、ほんとじゃ、本当にワシは覗いていないのじゃ」

「覗いていない証拠にほれ、そちの名をわしは知らん」

「しのー」と涙目で助けを求めている

「わ、わたしは…みられるのは嫌い」

瞳に涙を含み両腕を結んでしゃがみこんでいる私は

必死に声を絞り出し抵抗した

この『心のざわめき』を早く取り除きたい

「そ、それではどうじゃ」あたふたしている始祖は

「お、お詫びじゃ、そちに名を授けよう」

「?! 我が主人よ。それはダメだ、まだ早い」

傍にいた者が口を開く

始祖は右手を軽くあげその者を制止し私に聞いてきた

「名が有れば皆が思ってくれるぞ」

「…」

「名が無ければ誰も呼んでくれぬぞ」

「 」

沈黙が少しあってのち再び始祖が優しく問いかけた

「どうじゃ、そちは名が欲しいか」

コクリとうなずいた

「そうか。でわ、受け取るがよい」

「知りうる限りの名をそちに示そう…」

と言い終えると、徐々に周りが黒に包まれていった


遠くから声が聞こえてくる

「なんじこの世に生まれた何者なのか、知りたかろう」

(わからない)

何も見えない


「なんじこの世の存在に関わる何者になるのか、知りたかろう」

(わからない)

暗くて…さむい…


「なんじこの世に残した記憶のかけら、全ての欠片を見定めよ」

(ただ 心を暖めたい…)

ともし火がみえる…


(私は…アル ・メガ…生み出し壊し…また… 生み出す者…)

(さあ…手を伸ばして… 掴んでみよ…)


小さな炎は溢れんばかりの光となり辺りをとても眩しく輝かせた

やがて光の塊は翼を象る

それは羽ばたき 崩れ また象る事を永遠に繰り返していた


私はそれが壊れないようにと触れ抱きしめた

沢山の光が腕から溢れ落ちて行く

(まって いかないで…)

私は拾い集めようと必死になった

やがて全てのものが私からこぼれ落ちた

静寂が支配する

(なんで…みんな…いなくなったの)

空に叫び しゃがみこんで大声で泣いた

泣き疲れていつのまにか寝てしまった…


幾度の時が流れただろう…

目を覚ますと私の周りには草花が咲いていた

(とても いいにおい)

起き上がり辺りを見渡すと色とりどりの美しい世界が

私の視界を一気に大きく広げる

強く吹いた風が渦となり私を乗せて空高く舞い上がった

私はこの世の美しい全てを見て そして手に入れる

全てのものへ良い知らせを届け空と大地を繋ぐ者

そう、思い出した

「わたしはウインディ、ウインディ・グラティア」

全ての人の心を繋ぐ架け橋となる者…

(ああ きもちいい…)

暖かな風のなかに溶けてどこまでも飛んでいけそう

そうこの翼があればどこまでも…どこまでも……

「……なんじよ」

「…なんじよ」

始祖の声を聞き夢から覚め館の部屋の中にいた

「どうやら、よき名を得たようじゃの」


「………」


「なんじゃ、気に入らんかったかや」

「もう少し、もう少し飛んでいたかった…」

「うっ、」

「でも…」

「でも、ありがとう。始祖様」


こうして私は私の名を知った

『ウインディ・グラティア』

そして本当の心を手に入れた



余談

名が明らかになった魔女は一匹か一人を従者に選ぶ事が出来るらしいです

私は選ばず、待ちます

私を理解してくれる者が現れるその日まで


お姉さん達には覚えたての魔法

『ウインディクロス』を

足元から上へ飛ばしてあげてます

服が巻き上がると「きゃーきゃー」と言って喜んでくれます

でも、たまに縄で吊るされてしまいます

でもお姉さん達の笑顔のために

今日も頑張ります。
























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