第12話告白

(多田)

「実は 私ね

 小学校から今の高校に来るまで

 いじめられていたの。

 私ね 前の高校でも

 少しいじめられていたんだけど

 小中学校の時より

 いじめられにくくなったんだ。

 前の高校で

 色々 行動をしてみたの。

 そしたら まわりも 

 私の見方が変わったりして…

 私 卑っくんに 

ちゃんと問題に向き合ってほしいの。

そうすれば 変わると思うから。

私が 変われたんだから 

卑っくんもできるはず。

それで あえて 

博物館に行くことにしたの。

過去の問題とも 

ちゃんと向き合ってほしいの。

ごめんね…

私 少し 感情的になっちゃった…」


余計なお世話だ…

何か行動をすれば

良くなるかもしれないと期待し

行動して、失敗したら 

普通に失敗するより 

より辛いだろう。


ぼく以外の人に

ぼくの気持ちがわかるわけがない。

ヘドロのような人間の気持ちなんか

わかるはずがない。

ただ 意味もなく呼吸をしている

人間の気持ちがわかるわけがない。

まず ぼくは 人間ではない。

人間だけど 

人間であると認めたくない。


(多田)「ごめんね

    一方的に 

    しゃべっちゃって…

    余計なお世話だよね… 」

彼女の目が潤んでいた。

これから デートというのに

泣かれては困る。

ぼくは 

自分の感情を抑えてこう言った。

(卑田)「余計なお世話ではないよ。

    アドバイスしてくれて 

    ありがとう。

    茉優実って優しいね。」

ぼくは あえて 下の名前で呼んだ。


すると 彼女はもとに戻った。



彼女のカミングアウト以降

博物館までの電車では 

会話をしなかった。

本当は ぼくの方から 

話しかけた方が良いのかも

しれなかったが

その勇気はなかった。

ただ 時間と景色が流れた。

博物館が近づくにつれて

以前に女の子と

博物館に行った記憶が

よみがえってきた。

ぼくは 上野駅の改札を出るとき

足が重くなったような気がした。

彼女は 

ぼくにその症状が起きていると

分かったからなのか

僕と手を繋ぎ 僕を引っ張るように

歩いた。

彼女の引っ張る力からは、

強引という感じは感じられなかった。

適度な強さであった。

彼女の温かい手が

ぼくを溶かしてしまうのではないかと

思った。

しかし ぼくのこじらせた部分は

少ししか 溶かされなかった。




博物館についた。

ぼくと多田さんは

博物館に入る前に 

博物館をバックに写真を撮った。

多田さんの携帯で

多田さんが撮った。

二人ともカメラの入るため

多田さんと とても近づいた。

それでも

 納得のいく感じで

撮れていないからなのか、

彼女はさらに ぼくに近づいた。

彼女の頬とぼくの頬が触れた。

彼女の良い匂いが ぼくを包んだ。

彼女の髪がぼくの頬に触れた。

くすぐったかった。

くすぐったかったが 

髪からは とても良い匂いがした。

ぼくは 横目で彼女を見た。

彼女の目は 輝いていた。

ぼくは 彼女の目の輝きから

彼女が

本当にいじめられていたのかと

疑問をもった。

長い間 いじめられていたのに

何故 あのような目の輝きがあるのか

不思議であった。

写真を撮り終わり

彼女がぼくから離れたとき

また 良い匂いがぼくを包んだ。

ぼくは その匂いに 

少し浸ってしまった。

そのため 彼女が博物館に入ろうとしているのに 

彼女が声をかけてくれるまで 

ぼくは 彼女に気づかなかった。


ぼくは

彼女の可愛い声に導かれて

博物館に入った。




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