第4話⑦
二人の魔王の戦いがあった。その戦いの後、その様子を見えていた少女達が現れた。
魔王エピキュアは二人が戦いに巻き込まれなかったこと、そもそも一瞬の戦闘に出会わせられたこと自体がめったににない奇跡だと思った。
しかしそれは違かった。
「兄さん……?」
魔王プロトプラズマは連城恋の兄であった。この遭遇は偶然では無く必然だったのであろう。
「なんで……? これって、いったい……何が?」
恋は豊水を見た。
「いや、俺にもさっぱりなんだが……。今までこのスライムが人間だとなんて思っていなかったぞ……。」
「……兄さん! 何してるの? 行方知れずになったと思っていたら……!」
「危ない! 触っちゃあダメだ! 溶けるぞ!」
冷静さを欠き、魔王プロトプラズマを触ろうとする恋を豊水は止めた。
「ジャージ超能力者さん、さっきからこのスライム喋らないけど死んじゃったの?」
静保はプロトプラズマを(ついでに珍しく混乱した恋も)写真を取りながら豊水に聞く。
「いや、まだ死んでないはずだ。さっきは多少は発声していたが、どうも会話する能力はなさ」
「レン……オマエナノカ……」
「兄さん! 私がわかるの!?」
なんと魔王プロトプラズマ……半透明な男の姿のそれが言葉を紡いだのだ!
「喋れるなら最初から話してくれれば良かったのに」
「兄弟愛の力ですかね?」
静保と冗談めかした事を言いながらも、しかし豊水は訝しんだ。知性があるなら今までの破壊行為は意図的なものなのか? そうは見えなかったが……。
「オレハ……イッタイ……ナニヲ……アアア! カラダガイタイ!」
「兄さん何があったの? 兄さんはあの、光の柱が出た夜から行方がわからなくなって……」
「ヒカリ……光……タイ……ヨウ……太陽……ガ!」
その時、何か明らかな変化が魔王プロトプラズマに起きた!
「ソウ、だ……太陽、アの、光……オレハ……燃やサレテ……!!」
魔王プロトプラズマはその経緯を遂に話し始めた……。
連城恋の兄は大学生である。
あの夜。アルバイトを終えた彼は、仕事仲間の友人たちと、ある「秘密基地」に集まっていた。
それはとある廃倉庫である。彼らは意味もなく、童心に帰ったようにそこに集まり、とくになにもしなかった。冷静に考えて友人宅のアパートで酒でもなんでる方が有意義だと思っていたが意味のないことに楽しさを感じていた。
しかしその日は事情が違かった。秘密基地は荒れ果てていた。台風が過ぎ去ったかのように無数の傷跡が残っていた。
彼らには知る良しはないが、魔王の戦いがあったのだ。
「こりゃあ酷いな。何があったんだ?」
その場には軽い騒ぎがあり、近所の住民が集まっていた。
「何かが飛んでたって聞いたぜ。ん? なにか明るく……」
空から凄まじい光が降り注いだ。その光は熱かった。
「アアアアアアアバババババババ!」「ギャアアアアアアア!」「ゲェェェェ!」
彼らは瞬間的に焼き尽くされた! 連城の兄も同様に燃えた。
なに? 爆発? 熱い。 死ぬ。 助けて。
恋の兄は薄れ行く意識の中で空から1人の赤い少女が降り立ったのを見た。
「早速魔王同士の戦いが始まったみたいね。ウフフ、上手くいってる。」
光が止んだ。野次馬焼死体を気にも留めず、少女は歩き出す。
「まあ、上手くいって当然だけどね♪」
場所が遠かったからか、即死には至っていなかった恋の兄は、燃えて苦痛を与えるその眼球で、過ぎ去っていく赤髪の少女を見ていた。
彼は見た。少女の体から、何かが落ち、地を這っていた。それは彼に近づいてきた。
肉体は。死にゆく肉は。
我が収まる器はどこだ。
魂だけでは、我は、消えてしまう。
彼は声を聞いた。もう耳は死んでいたはずだ。心の声を聞いたのだ。
おお、見つけた。器。肉の器!
融合せよ、汝!
そしてすべての魔王を喰らい、世界の全てを手に入れるのだ!
その何か……魔王の魂は、焼けた灰になりかけの彼と融合した。
しかし。その魂は困惑の声を出した。
だめだ。肉体の損傷が激しすぎる。
我の魂も何故か不完全な状態だ。
くそ、これでは……正常な魔王になれな……い……
その魂の声が薄れるのと同時に、彼の意識も薄れ、消えていった……。
「それがお前の正体だったわけか。」
魔王エピキュアは魔王プロトプラズマの説明を聞き、ある程度の納得を得た。
「オレハ……俺ノ魔王魂ハデキソコナイナッダノダロウ……。」
「兄さん……どうしてそんなことに……」
恋は声を震わせ悲しんだ。
「レン……オマエカ……ソウカ……ソコニイルノカ……。」
魔王プロトプラズマは恋を見た。
「俺ハモウダメダ……死ヌ……イヤアノ時スデニ死ンデイタ………。」
「そんな……死なないで!」
「レン……。母さんと父さン……友達ヲを連れて……遠クニ逃げろ……。魔王ノ戦いガ続けバ……もっと多くノ人が死ぬ……生きるんダ……。」
プロトプラズマの体が再び崩れ、黒い粒子が飛び散りはじめた……
「兄さん! 待って!」
恋はプロトプラズマに触れようとしたが、蜃気楼じみてすり抜けてしまった
「最後に……人の心で……会えて良か……った……」
プロトプラズマは完全に黒い粒子となり、魔王エピキュアの中に吸い込まれていった……
「これが魔王の最後なのか……。俺は……。」
エピキュアはプロトプラズマの力を吸収したことを感じた。
恋はただ兄の死だけを理解し悲しんだ。
静穂はよくわからず呆けていた。
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