第4話⑥
ジャージを新調した豊水は道を走っていた。
彼はまず、最初にスライムが現れたという廃倉庫に行こうとした。連城恋から借りた黒い欠片に意識をムケルと、魔王の力のする方向を感じることができた。おそらくは、フラッシュバックにあった緑色の髪の女魔王だと考えた。これを手がかりとすれば、スライムにたどり着けるかもしれないと推測したのだ。
しかし。彼の発達した魔王聴力は悲鳴を聞きつけた。そして、あのスライムを初めて見た時に感じた気配を。
「来やがったか! 絶対仕留めてやる!」
身に溶け込んだ魔王の魂を解放させ、魔王エピキュアは常人を遥かに超えた速度で走行!魔王シックス・センスを頼りに敵魔王の元へ!
「ここか! ……畜生! 遅かったか!」
その場所はコンビニであった。駐車された自動車は炎上し、店舗の外壁は融解し、そして人間は誰一人としていなかった。
その代わり。
「化けモンが……何人食いやがった?」
底には人間の三倍はある強酸性溶解液の巨人が地面を溶かしながら立っていた。
「お前も魔王なんだろ? 魔王は殺し合うだってな。世界を支配するほどの力を得るためにな。くだらない……。」
「ジュウウウゥゥ……。」
血と肉と骨が混ざったスライムは物を溶かす音は鳴らせども言葉は発さなかった。そもそも口がない。
「だがよ、お前は事情が違うようだよな。どうやら魔王ってのは人間がわけわからん力を得た奴ってことらしい。だが、お前はどうにも人間に見えねぇ。俺と同族に思えねぇ。お前はなんなんだ?」
魔王エピキュアは怪物に話しかける。理性が無いと考えながらも、同じ魔王の魂を感じていたからだ。コミュニケーションの可能性を信じたかったのだ。
「……喋らないならもう、こっちから行くぞ。お前を倒……」
「……マオウ、プロトプラズマ……。」
「えっ喋った?」
魔王エピキュアは驚いた!
「プロトプラズマ、プロトプラズマ、プロトプラズマァァァァ……!」
しかしスライムはその後突如魔王エピキュアに接近し殴りかかった!
「チッよくわかんねぇな! 壊れてんのかコイツは!」
魔王エピキュアは姿勢を低くして回避する!
「戦うなら本気で行くぞ!」
かがんだ状態から頭上の強酸の拳に魔王エピキュアは右手をあてがう!
その手が緑色に発光し、魔王プロトプラズマの生命力を吸収する!
「アアアバァァァァ……!」
スライム状の腕が自ら切り離されれ、溶解液となり地面を溶かした! そして魔王プロトプラズマは更なる手を伸ばし、炎上している自動車を掴み魔王エピキュアに投げた!
「無機物はさすがに食えない! 避けるしかねぇ!」
魔王エピキュアは横ジャンプ回避! しかしその瞬間、回避地点に更なる物体が投げられた!
「グッハァ!?」
被害者のものであろう自転車が魔王エピキュアに直撃した!
動きを読まれた? あの野郎、図体だけじゃない! 知能がつきやがった!
「オ!、ギ!、ゴバ! グェッ!」
スライムは液状の体を自在に操り、何本もの腕で物体を掴む!
更にコンビニ施設の残骸が投擲され、確実に魔王エピキュアを破壊する!
「くそ……いい気になるんじゃないぞ! 魔王プロトプラズマァァ!」
魔王エピキュアは走った!
「プロト……プラズマァァァァ……!」
電飾かなにかを投擲! さらに何か設備だったものを回避地点を計算して投げる!
「エピキュアパンチ!」
投擲物を殴って破壊!
「そして! 喰らえ……いや喰らわれろ!」
魔王エピキュアは魔王プロトプラズマの巨体に突っ込み、吸収の力を行使!
「アバババババババーッ!」
プロトプラズマは苦しみつつも、液状の触手を周囲の鉄やコンクリートなどを融合させ無機物のハンマーを生成する!
そして吸収攻撃をし続ける魔王エピキュアにハンマーを振り下ろす!
「今だ!」
魔王エピキュアは吸収の方向を収束させ魔王プロトプラズマの体を突破る!
「プロトプラズマァァァァ!?」
そしてコンビニの廃墟に飛び込んだ!
「……プロトプラズマァァァァァ……」
液体の触手を更に伸ばし、周辺の電柱などを融合させる!
魔王エピキュアは店内から出てこない。
その隙に、スライムの邪神はさらに無機物を吸収し恐るべき鉄槌を形成した!
「プロトプラズマァァァァァァァァーッ」
施設ごと敵魔王を葬るため、鉄槌を振り下ろした!
しかし!
「食ってパワーアップは……お前だけの特許じゃないぜ!」
鉄槌は殴られ、砕け散った!
「ボァァァァァァ!?」
融合化した部分の破壊は魔王プロトプラズマの質量を失うことに等しいのだ!
「ここがコンビニで助かったぜ……!」
そう、魔王エピキュアは食物に対しエナジードレインを使用! 膨大なカロリーを摂取し強化したのだ!
「味がごちゃ混ぜでまずかったがな。そしてこれでお終いだ、怪物!」
エナジードレイン! 魔王プロトプラズマの生命力がみるみるうちに食い尽くされていく!
「アアアアアアアア! ギジュ! アババババババァァァァァ!」
スライムはどんどんと縮んでいく! そして、その姿があるフォルムとなった。
「え? これは……。」
魔王エピキュアはまた驚いた。てっきり蒸発するように消滅すると思っていたからだ。
「人間?」
魔王プロトプラズマは半透明な人間の男の姿になったのだ。
そしてその光景を見ている2人の少女がいた。
「……終わったんですか。」
連城恋と追長静穂だ。綿貫邸を離れたあと、彼女もまたスライムを探していた。そしてこの現場に急いで駆けつけたのだ。
魔王の戦は常人からすれば一瞬。彼女たちが偶然居合わせ、そして巻き添えを食いしななかったのは奇跡に近い。
「すごいすごい! ボロジャージの人、超能力者だったんですか!?」
静保はかなり無邪気にはしゃいでいた。カメラをパシャパシャと光らせている。
「やっぱりただの人間じゃないと思ってたけど、貴方は一体……え?」
エピキュアのもとに近づいた恋は硬直した。
「どうしたの? 恋? おーい?」
半透明の男を見続け、そして恋は口を開いた。
「…………兄さん?」
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