第4話④

「どこ行った、あのスライム!」

まだ薄明るい街を身なりの悪い青年が走る。すすけたジャージとリュックサック。彼を目にした人々は怪訝な目を向けるが、その瞳がかすかに緑色の光を帯びることまでは気がつかない。

彼は壁の隙間やら水たまりやらを注視し、何かを確かめるとすぐまた走った。

彼は魔王エピキュア。目の前で見知らぬ他人が液状の怪物殺されるのを目にし、自身も死の危機に迫った時、魔王の力を得た。そしてどこかに消え去った液状の怪物を追っていた。

あれは一体何だったのか? わからない。

しかし俺は魔王になった。ならば止めなければならない。でなければあれは……スライムと名付けたそれはもっと人を殺すだろう。

「やみくもに探しても埒が明かねぇ……くそ、わかんねえ事だらけだ……。」

しかし彼はひたすらに走る。探す。

金が無いから学もない。知っているのはひたすらがんばることのみ。魔王の体は疲れ知らずで、五感も冴えわたるのを感じた。頭もかつてなくすっきりと……

「待て。そういや俺は懸賞金目当てで探してたんだった! だったら……」

彼は変わっていたのだ。


「情報がありましたわ!」

金剛は興奮して言った。

彼女たちはスライムを探し街を探索していたが、成果は無く日も暮れ切り上げようかとしていた時であった。スライム目撃情報が金剛の設置したサイトを通じ入ってきたのだ。

「目撃者は現場で待っているそうですわ。場所は……」

そこに恋が口をはさむ。

「待って、それは確かなの? いたずらかも。」

「どの道行かないわけにはいきませんわ! それに私の護衛も付いているし大丈夫よ。」「……ま、そうね。」

そして彼女らは指定された場所に向かった。しかしそこで金剛は思わぬ物を目にした。

「あなたが目撃者ね! ワタクシは……え? この車は」

それは無人のリムジンだった。事故の跡がある。

「ワタクシの家の……? あなた達。」

金剛は後ろを付いていた護衛黒服を見た。

「申し訳ございません。送迎車が一台帰っておらず、連絡もないので捜索していましたが……。」

目撃者、ジャージの男はきまりの悪そうな顔をした。

「あー、知り合いだったか……。これはまずいな……。」

男は豊水と名乗り、スライムがこの車を襲っていたを話した。彼はその後動揺しスライムを探しに行ったが、その後冷静になり連絡をしたのだと話した。

懸賞金を出した、いかにも富豪の娘といった少女はとてもショック受けていたようであった。

「まさか……ワタクシの身内から……死人がでるなんて……」

「金剛さん……」

友人と思わしき少女達が彼女を心配そうに見ていた。

「……お前、彼の報奨金の準備を。」

金剛は1人の黒服に言い、そして暗い顔で豊水を見た。

「豊水さんでしたね。あとで詳しく話を伺わせてください。連絡をよこしますわ。こんなところで長話するのも何ですので……。」

「あ、ああ。俺もスライムについて知りたいからな。協力させて欲しい。」

「ありがとうございますわ。報奨金は今日中に支払われますので後はこの黒服についていってくださいな。」

「私も行かせてもらうわ。……もうこれ以上被害は出したくないからね。」

何よりも。知らなければならない。

連城恋は死人が出たことよりも内からのその衝動を意識した。

「静保は留守番よ。」

「なんでだよ! 行くよ!」

そして豊水達は一度別れた……。

哀れな運転手の男は公にはどのように扱われるのだろうか。事故死か?行方不明か?

しかし魔王エピキュアは予感していた。この先訪れるであろう更なる悲劇を。膨大な死を。

「こちらが報奨金の100万円です。」

「一生遊んでいける……?」

予感は吹き飛んだ。

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