第2話

 2018年1月1日。私の人生が変わった瞬間だった。

 狛犬が所望した水を差し出した。狛犬は尻尾を振りながらその水を見つめていた。ちゃんとお座りしていた。そのうちに私を見つめてくるので、あぁ、そういうことなのかと思い、小声でどうぞと言ってみた。狛犬は、待ってましたとばかりに、その水を飲みはじめた。なんともよく躾が行き届いたご主人様である。そう、仕えているのは私の方で、狛犬は私の主人なのだ。私が1年間お預けされているその水は、ぺちゃぺちゃという音と共に主人の体内へとおさまっていくのだった。愛嬌があり、いつまでも見ていたいと思った。


 その刹那、主人の身体から光が発せられた。眩しくはなく、周囲を優しく包み込む光だった。全身から荘厳さを思う存分に醸し出していた。ぼう然と見つめながら、その温もりを感じていた。これほど心地良いのは数年振りだった。

しばらくすると、光の中心が大きくなっていった。一瞬、眩しく光った後、光の拡散が止まったかと思うと、狛犬の姿はなくなっていた。代わりに一糸も纏わぬ若い人間の女性の姿があった。私に背を向け女の子座りをして佇んでいた。後ろ髪は艶やかで、黒くて長い。ふわりと風に靡いていた。見えているのは後ろ半分に過ぎないのだが、それでも充分なボリュームがあった。だから、触りたくなった。自然に揺れ動く髪と髪の間に、指を通してみたくなった。それが許されることならば、何と幸せなことであろう。いや、そんなことを考えるだけでも、充分に幸せだった。そのままずっと眺めていたかった。見惚れていた。

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犬に仕える一年間 世界三大〇〇 @yuutakunn0031

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