外伝第25話 勝利の祝杯~舞台裏の女神達~
多くの人々の与り知らぬところで世界の危機を救った者達による祝勝会。
そのパーティー会場の外側。
このパーティー会場は広い施設の一区画であり、ここ以外にも料理を用意する厨房やゲストの控え室等々多数の部屋が魔王フユショーグンによって押さえられている。
世界を渡り歩く力"
その会場の中の今は誰もいない控え室の一室で、山盛りの皿を前にしてもくもくと食事に興じる白い髪の女神がいた。
「気配を感じると思ったら本当に来てるとはね。」
「んも?」
白い髪の女神はガチャリと開いた扉の方を振り返る。
するとそこには黒いドレスに黒いサングラスの黒ずくめの女神が立つ。
灰色の髪を垂らした黒ずくめの女神はずかずかと控え室に踏み入ると、白い髪の女神の後ろに立つ。
「ももお!?」
「食ってから話せ。」
もぐもぐごくんと口に含んだ食事を飲み込めば、ぷはぁと息を吐いて白い髪の女神は声を上げる。
「ソロウ!?」
「お前も来てたのかヒトトセ。しかも、図々しくもタダ飯食らってるとは。」
白い髪の女神はヒトトセ。
そもそもはこの世界の外側にいる女神である。
様々な女神達が住まう国エデン、その中で複数の世界、そこにある魂の管理を行う"転生局"と呼ばれる組織に属する神。
各世界で各々の役割を担う神であるオリフシ、世界そのものを管理する天の神であるソロウ、更にその上位に位置する管理者という立ち位置である。
天の神であるソロウですら、預言を授けるのみで世界には降りない。本来であれば一つの世界に降りてくる事などまず有り得ない存在なのだ。
「そういうソロウも降りてきてるじゃーん。やっぱ、預言者ちゃんに靡いちゃった?」
「誤魔化すな。どういうつもりなんだ。」
「別に? ご飯が美味しそうだから降りてきただけ~。」
馬鹿な事を言っているように聞こえるが、ソロウは顎に手を当て考える。
「……そうなのかい。」
「そこは否定してよぉ! いくらうちでもそんな馬鹿な理由で降りてこないって!」
冗談のつもりが本気で受け取られて思わずボケた側のヒトトセがツッコむ。
「いや、前に同じような理由で降りただろう。」
「…………確かにそんな事あったかもしれん。」
しかし、完全に因果応報だった。
見ての通りこのヒトトセという女神、大概素行が悪いのである。
それはそれとして、実は別の理由がある事を自分から明かしたヒトトセの頭をソロウはガッと鷲掴みする。
「何が目的だ。」
「いだだだだだだだだだだ!!! アイアンクローはやめ!!! 話す!!! 話すって!!!」
ヒトトセはソロウの手を叩いてギブアップ宣言した。
ソロウもパッと手を離せば、頭を抱えてひーんとヒトトセが泣き真似をする。
「初手暴力は酷いよ~!」
「泣き真似する余裕あるならもう少しやろうか?」
「ごめんて!!! うちの友達暴力的すぎ!!!」
ソロウのサングラス越しに覗く目がマジなので、流石のヒトトセもくるりと椅子を回して、真正面からソロウに向かい合う。
「一応、全世界に
冬馬、この世界の魔王と呼ばれる男の本名である事をソロウも聞いている。
デッカイドーに限らず全世界を滅ぼす可能性を秘めた"願望機シキ"という懸念事項。彼はそれを無力化した功労者である。
ヒトトセの言い分はソロウにも理解できた。そして、上への申請を通したという事は、それ以外の意図はないのであろう。世界に対して上から認められた以上の過干渉を行う事は固く禁じられている。特に上位神ともなれば、多くの世界事情に精通するが為に厳しく監視の目を敷かれている。ヒトトセの立場で申請した以上の行動はできない。
特に裏があるではないだろう。そう判断してソロウは深くは言及しない。
「そういう事なら僕に言えば良かっただろう。」
「いやねぇ。礼儀としてさ。知ってて放置してたんだし。責任者が顔出すのが筋ってもんでしょ。」
「そういうのお前にもあったんだな。」
「そういうソロウこそ。ってか、うちはきちんと申請したけど、ソロウはアポ無しだよねぇ?」
「……。」
ソロウもまた、本来は上からの許可がなければ下界に顕現できない。
今、こうしてこの場にいるのは実際禁則事項に抵触している。
一転、立場が悪くなったソロウはバツが悪そうに目を逸らす。その顔を見て、ヒトトセはにんまりと笑って顔を覗き込んだ。
「ぐふふ。実はうち、一度エデンズホテルのディナーを食べてみたくて……。」
「……脅しのつもりかい?」
「さぁてね? でも、うちの口って意外と軽いというか……。」
「ここで口を閉じるっていう手もあるかな。」
「ごめんて。冗談。だからその怖い顔やめて。」
ヒトトセは慌てて頭を下げる。
そして、顔を上げればその顔は相変わらずのにやけ面のままだった。
「冗談はさておき。まぁ、あのお堅いソロウがねぇ。」
「……バカにしてるのかい?」
「いんや。嬉しいんだよ。少しはこの世界を愛してくれてるみたいでね。」
ヒトトセはくるりと椅子を回して再びテーブルの上の皿に向かい合う。
「オリフシにしても、この世界の大地の神々にしてもそうだけどさ。少しは人間と近づけたんじゃない? うちは人間大好きだからねぇ。神と人間が仲良くなるのは嬉しい訳よ。」
フォークで肉を一切れ持ち上げて、ぱくりと頬ばりヒトトセは満足げに頬を緩ませる。
先の言葉を聞いたソロウはテーブルに頬杖を突いてふぅと溜め息をついた。
「……またお前の思い通りかい?」
「んな訳ないじゃん。うちの"正答"は言うほど万能じゃないんよ。こうなったらいいな~、に対して、大体こうなるんじゃね~? くらいしかわからんよ。ひゃくたすひゃくはたくさん! ってな感じ。今回はうちが思った以上に万々歳。ハッピーハッピーやね。」
女神ヒトトセの権能"正答"。
ありとあらゆる事象の答えを導き出す。
全能にも近い力を持ちながら、そんな曖昧な使い方しかできないのは、ヒトトセという女神の根の部分に起因する。
根っからの適当な性格故に、彼女の出す答えは非常に曖昧なものなのである。
「……僕はお前が嫌いだよ、ヒトトセ。」
「うちは君が好きだけどね、ソロいって!」
ソロウにデコピンされて仰け反るヒトトセ。
その一発で、多少溜飲を下げて、ソロウはすっと立ち上がる。
「そろそろ帰るよ。」
「ソロウだけに? って痛ッ!」
「ほったらかしにしていた手前、祝勝会にだけ出てたら大顰蹙だろう。長居できる訳ないだろう。」
ソロウはお忍びで降臨している。
大地の神々からはクレームを寄せられながらも無視してきた手前、バツが悪くてこの場にいることもできない。
そんなソロウに、額を擦りながらヒトトセは尋ねる。
「……そこんところは伏せとく感じ?」
「……何の事だい?」
「ソロウの方で足りない分の思念エネルギーを痛い痛い痛いッ!」
「野暮なことは言うもんじゃないよ。」
ヒトトセの頬をぐっとつねったソロウは、ふんと不機嫌そうにオマケに頬をピンと弾いた。
「彼女達が頑張った。それだけだ。役立たずはこれにて失礼。」
ヒトトセに背を向けて、ソロウが帰ろうとする。
その時。ガチャリと控え室の扉が開いた。
「あ。」
「あ。」
「あ。」
扉の先に立っているのは水色の髪の女神オリフシ。
ヒトトセ、ソロウ、二柱の女神の後輩であり、この世界の大地の神々の音頭を取った女神である。
オリフシが居る筈のない女神二柱と出会ってしまった。
こっそり控え室でタダ飯を食らって、口の周りを汚しているヒトトセ。それと一緒にいるソロウ。
そこでソロウはハッとした。
これ、自分もヒトトセと一緒にタダ飯にありつきに来たように見えるのでは?
「ち、違うんだオリフシ。」
「こ、これには深い事情があるんだよね……。」
二柱揃って言い訳しようとするのを見たオリフシの目が段々冷たくなってくる。
いつもはおっとりとした女神が、影を感じる笑顔をにっこりと浮かべれば、ソロウとヒトトセはびくっと肩を弾ませる。
「……お話ししましょうか、先輩。」
「……はい。」
「……ぶ、ぶたないでね? 話し合いで済ませてね?」
「検討します。」
この後、女神の間で色々と話し合いが行われたのだがそれはまた別のお話……。
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