外伝第13話 シキ芽生える
我が輩は猫である。名前はシキという。
我が輩はデッカイドーと呼ばれる大地に佇む、手狭な一軒家"まおーじょう"のコタツの中に住んでいる。
"まおーじょう"はとてもぬくい。コタツはそれよりとてもとてもぬくい。
我が輩は"まおーじょう"のコタツで暮らせてとてもとてもとても幸せである。
しかし、ずっとコタツの中にいるのは"たいくつ"である。
今日はぬくい声が聞こえたので、我が輩はコタツの外に出ることにした。
"まおーじょう"の外はとても寒いので、"まおーじょう"からは出ない。
ぬくい小娘とも約束したので、我が輩は言いつけを守って"まおーじょう"を探検する事にした。
"まおーじょう"を探検すると、くたびれたおっさんがコタツに足を入れていた。
くたびれたおっさんは"まおー"という。
"まおー"はなにやらコタツの上に置いた、ぬくいなにかを幸せそうに口に入れていた。
我が輩はそれが気になったので"まおー"に要求する事にした。
「我が輩にもよこせ。」
"まおー"は何やら訳の分からない事を言ってきた。
何やら我が輩の言葉を聞き取れなかったようなので、我が輩はもう一度言ってやる事にした。
「我が輩にもよこせ。」
"まおー"は何やら訳が分からないといった顔で我が輩の目を見てきた。
どうやらこのおっさんは言葉が分からないらしい。
"まおー"の傍には良く他の人間もいるのだが、今日は誰もいなかった。
我が輩と同じ耳を生やした小娘、名前を"とーか"という小娘は、我が輩の言葉が分かる賢い人間である。今日は"とーか"がいないので、我が輩の言葉はこの学のない人間には伝わらないのである。
我が輩は"まおー"に若干の怒りを覚えつつ、言葉も分からぬ"ばかもの"にも分かるように"あいこんたくと"で要求する。
我が輩は"まおー"が独り占めにしている幸せが欲しいだけなのである。
"まおー"に我が輩の"あいこんたくと"が通じたのか、何やら穴ぼこを開けて手を突っ込んだ。
我が輩にも幸せを分けてくれるのかと身構えたら、魔王は何やら奇妙なものを取り出した。
ぶらぶらのぶよぶよのふりふりである。
我が輩は呆れ果てた。我が輩は"まおー"が口に入れている幸せが欲しいのだ。
ぶらぶらのぶよぶよのふりふりが欲しい訳ではない。
この"ばかもの"はどうやら頭がおかしいらしい。
"まおー"はふりふりしはじめた。
我が輩はふりふりも悪くないなと思った。
ふりふりは面白い。ぶらぶらを追い掛けて、ぶよぶよをやっつけるのは面白い。
仕方がないので付き合ってやったが割と悪くないなと思った。
"まおー"がぶらぶらのぶよぶよのふりふりを引っ込めた。
そうだ。我が輩は"まおー"が口に入れていた幸せが欲しかったのである。
ぶらぶらのぶよぶよのふりふりが欲しかった訳ではない。
「我が輩にもよこせ。」
「■■■■■■■■■■」
「我が輩にもよこせ。」
"まおー"には言葉が通じぬ。
しかも、"まおー"はこれ見よがしに我が輩の前で幸せを口に含んだ。
ずるいのだ。我が輩にも幸せを享受する資格がある筈なのである。
我が輩は"まおー"に渾身の"ぱんち"を叩き込んでやろうかと思ったところ、"まおー"はカリカリを手に載せて我が輩に献上してきた。
"まおー"の口に入れている幸せとは違うのだが、我が輩はこの幸せで我慢してやろうと思った。
カリカリはおいしい。おいしいは幸せ。我が輩は幸せである。
"まおー"は何か言っている。へたくそな言葉で何かを言っても我が輩には分からぬ。我が輩は知ったこっちゃないと思い、無視してカリカリを食べる事にした。
カリカリを食べ終えると、なんと"まおー"が更にカリカリを献上してきた。
見上げた忠誠心である。"まおー"は"ばかもの"のくたびれたおっさんであるが、見上げたしもべである。我が輩は少しだけ"まおー"の評価を改めた。
カリカリがなくなったので、"まおー"に我が輩に触る権利を与える事にした。
我が輩はお腹が満たされ幸せでねむねむになったので、"まおー"の上に乗ってった。ぬくい小娘ほど心地良くはないが、背に腹は代えられぬ。コタツの中はぬくくて幸せだが、人肌にはまた別の幸せなぬくいがある。
我が輩を触る権利を"まおー"は存分に行使した。もっと上手に触るがよい。そうすればまた触る権利をやろう。
「…………このまま普通の猫になってくれたらいいんだけどな。」
"まおー"がはじめて言葉を喋った。
ふむふむ。それが"まおー"の望みなのか。
さすれば我が輩も望みに答えねばならぬ。
何故なら我が輩はその為に生まれてきたのだから。
我が輩は猫である。名前はシキ。
我が輩は猫であらねばならぬ。
文句は聞かぬ。我が輩は眠くなったので、うるさい
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