第40話 シキの冒険




 魔王城で事件が起こる。


「申し訳ありません!」


 珍しく頭を下げて魔王に謝るのは、魔王側近の猫耳メイドのトーカ。

 普段は魔王を軽く見て、からかう事も多い彼女が謝る事は珍しい。

 その謝罪を受けて、魔王は頭を抱えて、首を横に振った。


「謝らなくていい。お前一人のミスじゃない。それより、は聞こえるか?」


 魔王も大分参っている様子だったが、トーカを責めることはなく、その先の対応に頭を回す。トーカは珍しく気弱な表情で、おどおどしながら答える。


「い、いえ。全く声は聞こえません。何度かも試したのですが、未だに声が聞こえた事はないです。」

「そうか。分かった。とりあえず、人手がいるな。手当たり次第に連絡してみる。」


 魔王は通話の魔石を取り出し胸に当てる。


「何処に行った……シキ……。」





 トーカが魔王の留守中に掃除をしていた時の事。

 換気中の窓から一匹の黒猫が逃げ出した。

 窓から黒猫が飛び出すのをトーカは確認したもが、彼女は特別な能力を持つものの、身体能力はごく普通の女性のものと変わらない。追い掛けて窓から飛び出すような身軽さもなく、慌てて扉から魔王城を出て黒猫を探したのだが、黒猫はその時には既にどこかに言ってしまった。


 魔王城のコタツでいつも丸くなっている黒猫、シキ。

 彼あるいは彼女は、魔王城から逃げ出してしまった。

 

 魔王は魔王軍に所属する魔族全体に、通話の魔石で通達を流す。


『俺の飼っている黒猫が逃げ出した。見つけたら捕獲あるいはすぐに連絡するように。発見者には報酬を出す。』


 デッカイドー全土に魔王の配下とされる魔族は散らばっている。これだけかなりの広さの捜索網ができあがるだろう。

 しかし、それでも心許ない。


(あいつら割とポンコツなんだよなぁ……。)


 勇者ハル、アキは魔王城に幹部を倒して辿り着いたらしい。

 負けたら殺される前に魔王城の場所を教えるように指導はしてたが、割とあっさり負けていたり、ちょいちょい人間に不覚を取ったりと頼りないメンツが多い。


 魔王は通話の魔石を個人に繋ぐ。

 相手は魔王の計画の重要なピースのひとつ、占い師のビュワであった。


「ビュワ。今大丈夫か。」

『全体通話で聞いた。随分とマズイ事になってるね。』

「占いで探せるか?」

『ちょっと上客が来てるからすぐには動けない。合間合間に探ってみる。』

「すまない。」


 ありとあらゆるものを見通せる"万里眼"ビュワ。

 彼女であればシキの行き先を探せるかもしれないが、都合の悪い事に今は多忙らしい。一応は合間合間に探してはくれるとの事なので、魔王はそれを期待しつつ捜索を進めるべきだと考える。


「……ビュワは動けないんですか?」

 

 今の会話を聞いていたトーカが不安げに聞いてくる。


「大丈夫だ、心配するな。」


 未だに気に病んでいるトーカを励ましつつ、魔王は通話の魔石を胸に当てる。


「トーカは"対話"で手当たり次第に捜索網を広げてくれ。こっちも魔王軍以外にも協力をあおいでみる。」

「は、はい!」


 魔王は通話の魔石を握り、耳に当てた。


「急にすまんな。話がある。」







   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 デッカイドーには珍しい暖かい陽気の中、黒猫は冷たい雪を踏みしめすたすたと歩いていた。

 魔王城のコタツに住まう黒猫、シキ。

 その脱走劇に魔王達がてんやわんやになっている事などつゆ知らず、シキは何処を目指すでもなく歩いて行く。


 魔物が彷徨くデッカイドー、黒猫一匹で歩くのは本来危険である。

 しかし、幸いな事にシキの行く道には魔物は現れなかった。

 

 とてとてと雪道を歩き、シキは麓の村へと辿り着く。

 そして、きょろきょろと何かを探して歩き回る。 


 村人は見慣れない黒猫が村を歩いているのを見掛けるが、特に気にも留めずに見過ごした。

 捜し物をするシキは、そんな村人達の様子も見上げながら、村の中を歩き回る。


「あ、ネコさんだ。」


 そんな中、シキが立ち止まったのは一人の少女の前だった。

 少女は歩いてきた黒猫に気付いて、しゃがみこんで目線を合わせた。

 

「ネコさんこんにちは。」


 シキは挨拶をしてきた少女に対して、声をあげた。


「ニャアアアア。」


 まるで、挨拶を返してきたような黒猫を見て、少女は嬉しそうに笑う。


「どこから来たの? 迷子になっちゃった?」


 シキは少女の質問に対して、声をあげた。


「ナアアアアア。」


 何を言っているのかは分からなかったが、質問に答えるように鳴いた黒猫を見て、少女はやっぱり嬉しそうに笑った。


 そして、少女は黒猫にスッと手を伸ばして触ろうとする。

 しかし、シキは少女の手をひょいと避けて、再び村の中を歩き出した。


「あっ、まって!」


 少女はシキの後を追い掛ける。

 何かを探して村の中を探検する黒猫と、その後を追い掛けて歩く少女。

 黒猫と少女の行進は、村の出口にまで差し掛かった。


 シキは捜し物が見つからなかったようで、そのまま村から出ようとした。


「あっ、ダメだよ!」


 少女はシキを捕まえようとする。

 後ろから掴み掛かった少女を、シキはひょいと躱して、構わずに村の外へと出て行った。


「村のおそとは怖いマモノが出るんだよ! いっちゃだめ!」


 少女はシキの後を追い掛ける。捕まえようとするも躱される。

 そんな事を繰り返しながら、いつの間にか少女とシキは村からどんどん離れていってしまった。


 シキは少女を軽くあしらいながら、相変わらず何かを探して歩き回る。

 

 しばらく歩くと、次第に日は暮れていた。

 珍しいぽかぽか陽気も、太陽が沈み始めるとたちまち消えて、いつもの寒さが戻ってくる。

 寒さにぶるると身を震わせて、シキの足取りは次第に重くなってきた。


 やがて、大きな木の前に辿り着くと、シキは完全に足を止めてしまった。


「えいっ!」


 その瞬間に、少女はシキに覆い被さるように掴み掛かる。

 シキはいよいよ少女をあしらう事ができずに、その腕に包まれるように捕まってしまった。


「えへへ。やっと捕まえた。」


 抵抗する事なく、少女に掴みあげられるシキ。

 だらんとぶら下げられるシキと顔を合わせて、少女は言う。


「村のおそとにはマモノが出るからダメなんだよ。はやく帰ろうね。」

「ナアアアアア。」


 少女はシキを抱きかかえる。シキは抵抗する事なく抱かれたままだった。

 そして、少女は村へ戻ろうとして足を止めた。


「あれ? ここ……どこ……?」


 気付けば周囲は木々に囲まれた森の中であった。

 少女はシキだけを見て夢中で追い掛けていて気付かなかった。

 村の外に出てしまった事、村から少しだけ離れた森に入ってしまったことに。


 そこが森であると理解した少女は顔を強ばらせた。


「ここ……"クルルの森"だ……。」


 クルルの森。母に決して入ってはいけないと言い聞かされていた森。

 子供を食べてしまうという、とっても怖いマモノ、クルルが住むと言われる森。

 大人でも一人では決して入らない、とっても危ない森。


 そんな森に踏み入ってしまった事に気付いた少女は、慌てて自分の来た道を振り返る。

 足跡がうっすらと残っている。これを辿れば帰れるだろう。

 少女は急いでシキを抱えたまま走り出した。




 くるるるるるる……くるるるるるるる……。




 その鳴き声を聞いた瞬間、少女はびくりと身体を震え上がらせた。

 初めて聞く鳴き声だが、母から聞かされていた事。

 くるる、という鳴き声はクルルの鳴き声。

 その鳴き声がそうであると直感した少女は、より必死に走り出す。





 くるるるるる、くるるるるるる。

 がさっ、がさっ。


 森の茂みから音がする。鳴き声が遠くならずについてくる。

 クルルが追い掛けてきている。

 少女は泣きそうになりながら、シキを決して手放さずに走る。


「あっ!」


 しかし、その焦りから少女は足を縺れさせ、雪の上に転んでしまった。

 咄嗟にシキを庇うように横向きに倒れた少女は、顔をしかめる。


「痛いっ……!」


 少女は足を捻ってしまった。上半身を起こすが、立ち上がる事ができない。


 ガサガサッ、と茂みが揺れる。

 くるるるるる、と独特な鳴き声が茂みから聞こえる。

 茂みを掻き分け、爛々と光る丸い目が現れた。


 首をぐりん、ぐりん、と回しながら、六本足の奇怪な獣が現れる。

 ずらりと小さな牙の並んだ、丸い口を開き、ねばねばとした唾液を垂らし、ゆっくりゆっくりと茂みの中から獣は這い出てきた。


 くるるるるるる、くるるるるるるる。


 その獣の口から鳴るのはクルルの鳴き声。

 少女はそれがクルルなのだと気付いて、腰を抜かしたまま、シキを抱き締めたまま後退る。


「ク、クルル……!」


 クルルはまるで獲物を見定めるように、六本足をうねうねと動かしながら歩いてくる。少女の大きさとほぼ同じサイズの奇妙な獣は、身を低くしてぐるぐると首を回している。

 子供を食べてしまうマモノ。そう聞いていた少女は、泣きそうになりながら、傍にあった石を手に取る。


「こないでっ!」


 石をクルルに投げつける。こつん、と額に石が当たって、クルルは首をぐりんと回した。


 くるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。


 クルルは狂った様に鳴き声を上げる。

 少女はびくりと身体を震わせた。

 首をガクガクと滅茶苦茶に揺らしながら、六本足をうねうねと動かし、身体を上下させるクルル。

 少女は石をぶつけた事で、クルルを怒らせてしまったのだと思った。


「ご、ごめんなさい!」


 少女の謝罪を聞いた所で、荒れ狂うクルルは収まらない。

 やがて、叫び声を止めると、急に糸が切れたようにぴたりとクルルは動きを止めた。

 ぴたっと傾いたまま首が止まる。その丸い爛々とした目が少女の方をじろりと見ていた。


 ざく、と雪を踏みしめて、六本足のひとつが動く。

 じわり、じわりと少女にクルルが歩み寄ってくる。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 少女はぼろぼろと泣きながら、必死に謝る。しかし、言葉は届かず、後ずさりする少女に徐々にクルルはにじりよる。

 カァッ、と牙の並んだ口を開いて、ぼたぼたと唾液を垂らす。


 少女は必死に泣き叫びながら、それでもシキを離さなかった。

 黒猫を守ろうというつもりではない。そんな余裕はなかったが、無意識にギュッと抱きかかえて離さなかった。

 少女の恐怖は限界に達する。

 そして、届く筈のない声を上げた。


「おかあさあああああん! おとうさあああああん! たすけてええええええ!」


 その大声と同時に、びくっと身体を弾ませたクルルが、少女に飛び掛かる。


 それと同時に、シキは少女の手からぴょんと飛び跳ねた。

 

「シャアアアアアア!」


 シキは牙を剥きクルルに飛び掛かる。

 爪を立てた前腕で、飛び掛かったクルルの頭をバチンと叩いた。

 クルルは突然の獲物の反撃に首をがくんがくんと左右に揺すって飛び退いた。

 姿勢を低くして威嚇するような体制を取る。


「くるるるるるるるるるるるるるるるる!」

「シャアアアアア!」


 対するシキも身を低くして威嚇する。

 少女の「助けて」という言葉に応えるように、シキは少女を守ってクルルの前に立ちはだかった。


「ネコさん……?」


 泣きながら自分を守るように立った黒猫を見る少女。

 クルルはシキの威嚇を受けて、身を低くしながら僅かに後退る。

 黒猫はクルルと戦おうとしている。

 身体の大きさは全然違う。それでも立ち向かう黒猫を見て、少女は声を震わせながらも言う。


「ダメだよ……クルルに食べられちゃうよ……。」


 クルルは突然の獲物の反撃に警戒していた。しかし、それでも逃げ出す事はしない。恐らくは警戒が解けたらまた迫ってくるだろう。

 そうなったら、身体の大きさが違いすぎるただの黒猫では、少女ほどの大きさのあるクルルにはかなわない。

 少女は黒猫を止めようとする。それでも声は届かない。そして、自分には何もできない。


 少女は震える声を、小さく絞り出す。


「誰か……たすけて……!」


 次の瞬間、クルルは飛び上がり、シキに襲い掛かる。

 それを見た少女は叫びをあげる。


「やめて!!!」









 クルルは宙に浮いたまま止まっていた。

 いつまで経ってもシキの元には辿り着けない。

 少女はぽかんとその様子を見ていた。

 そして、クルルの後ろに誰かが立っている事に気付いた。


「大丈夫か?」


 立っていたのは剣を携え戦士の装備を纏う女性だった。

 凜々しい顔立ちの女戦士は、クルルの首根っこを掴んで持ち上げていた。

 少女はぽかんとして、その女戦士を見上げた。


「……え?」

「怪我してないか?」


 女戦士は首根っこを掴んだクルルを持ち上げ目を合わせる。

 そして、クルルに向かってぎろりと一瞥をくれると、低い声で言う。


「子供を脅かすな。」


 クルルはぷるぷると震えると、かくんと落ち込むように項垂れた。

 女戦士はクルルを地面に降ろしてやる。


「ほら。退治まではしないから。帰れ。」

「くるるるるるるる……。」


 項垂れたクルルはとぼとぼと茂みの中へと戻っていった。

 その様子を最後まで見てから、女戦士はくるりと身を翻し、今度は少女の方へと歩み寄る。しゃがみ込んで少女と視線を合わせると、女戦士は厳しい表情で少女に言う。


「一人でこんなところに入っちゃ駄目だろう。」

「ご、ごめんなさい……。でも、ネコさんがいっちゃうから……。」


 怒られた少女は口をぎゅっと結んで顔を伏せる。

 女戦士は黒猫の方を見た。

 シキはとことこと女戦士に歩み寄り、すりすりと身体を足に擦りつけていた。


「…………このネコを追い掛けて森に入っちゃったのか?」

「う、うん……。危ないから……。」

「そうかぁ。でも、一人で出歩くのは絶対に駄目だ。分かるな?」

「うん……。」


 女戦士は少女をしかる。

 しかし、事情を察したのか落ち込む少女の頭に手を乗せて優しく撫でる。


「でも、ネコを助けようとしたのは偉いぞ。今度からは一人で外に出たら駄目だからな。」

「う、うん!」

「無事で良かった。」


 女戦士は優しく笑った。その笑顔を見て、少女はようやく安心したように頬を緩ませた。


「お姉さんは……?」

「私は勇者のハル。」

「お姉さん、勇者さんなの……?」

「そうだぞ。」


 勇者。王様に選ばれた世界を救う人のこと。少女でも知っている。

 そんな勇者が助けてくれた。勇者はやっぱり物語にでてくるようなヒーローなのだと少女は目を輝かせた。


「捜し物をして駆け回っていたら声を聞いてな。間に合って良かったよ。」


 ハルは傍らで身体をすり寄せる黒猫の首根っこを掴み上げる。


「こら、シキ。勝手に家出しちゃ駄目だろ。しかも、女の子を巻き込んで。」

「ナアアアアアア……。」

「そのネコ、勇者さまのネコなんですか?」

「いや、知り合いのネコ。シキって言うんだ。」


 黒猫シキはハルに叱られて少し落ち込んだような顔になる。

 その様子を見て少女は言う。


「あ、あの、でも、シキは私を助けてくれたんです。」

「そうなのか?」


 クルルに襲われそうになった少女を守ろうと立ち塞がったシキを思いだし、怒られているシキを庇う少女。

 その話を聞いたハルは、つまみ上げたシキと顔を合わせて苦笑した。


「なんだ、立派じゃないか。」

「ナアアアアアア。」

「でも、お前が原因だからな。今度から家出しちゃ駄目だぞ。」

「ナアアアア……。」


 褒められて喜んだかと思えば、やっぱり叱られて落ち込むシキ。

 そんなシキを降ろして、ハルは頭をぽんぽんと撫でてやった。


「お前も無事で良かったよ。家出は駄目だけど、今度から外に出たいなら散歩に連れてってやるから。」

「ナアアアアア~!」


 ハルに身体をすり寄せるシキ。

 そんなシキを少し退けて、ハルは少女の方に寄る。


「足を痛めちゃったか。よし、こっちおいで。」

「え? わっ!」


 そう言って、ハルはひょいと軽々と少女をだっこする。

 抱き上げるハルの腕はとても温かかった。


「それじゃあ帰ろうか。」

「う、うん。」

「シキは自分で歩けるな?」

「ナアアアアアア。」

「歩きづらいから離れろって。」


 シキはハルに身体をすり寄せながらついてくる。

 こうして、黒猫と少女は勇者に連れられて、クルルの森を後にする。




  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「本っ当に感謝する……!」

「有り難う御座いますハル様……!」


 腕に黒猫を抱きかかえ、魔王城に訪れたハルは熱烈な歓迎を受けていた。


 魔王は失踪したシキを探す手助けとして、古くからの友人と、勇者達に連絡を入れた。その中で、ハルが誰よりも早くシキを見つけて戻ってきたのである。


 魔王が珍しく深々と頭を下げて感謝して、トーカは泣きながら感謝していた。


「そんな大袈裟な……。」

「大袈裟でもないんだが……と、とにかく本当に感謝する! この礼は必ずする!」


 ハルは魔王の熱烈な感謝の言葉に困りつつ、魔王城の床にシキを降ろした。


「しかし、良く見つけられたな。どうやって探したんだ?」

「魔王城周辺から探す範囲を広げるようにぐるぐると走り回っただけだよ。クルルの森だっけ? あそこの森の周辺に辿り着いた辺りで声を聞いたから見つけられた。二十分も掛からなかったし大した労力じゃなかったよ。」

「え? いや、ここからクルルの森って早くても二時間くらい掛からなかったか?」

「そんなに掛からないだろ。それより見つかって良かったじゃないか。」

「え? あ、うん……。」


 魔王は何かがおかしいとは思ったものの、ハルがあまりにもしれっと流すので突っ込みきれずに納得した。

 ハルは相変わらずすりすりと身体を擦りつけるシキの頭に、しゃがみ込んで手を乗せた。


「まぁ、家猫にしては大した冒険だったんじゃないか?」

「ナアアアアア。」


 その様子を見て、魔王とトーカは顔を見合わせる。

 そして、目線で何かのやり取りを交わした後に、ハルに向かって声を掛けた。


「本当に有り難う。とりあえず、お茶と菓子でも出すから休んでいってくれ。」

「有り難く頂こう。シキもくっついて離れないし。」


 ハルがコタツに入れば、シキはその膝の上にまるまった。

 そして、家出の旅の疲れからなのか、すぐさますやすやと眠り始めてしまった。


 魔王城のコタツの中で丸くなる黒猫、シキ。

 彼あるいは彼女が探していたのは、このぽかぽかと暖かい膝の上。

 目的地へと辿り着いて、シキの一日だけの冒険は幕を下ろした。




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