外伝第0話 ある男の記憶




 幾つもの世界を渡り歩いてきた。元居た場所も分からなくなるくらいに。

 沢山のものを見た。孤独を埋めるように。

 

 ある滅びた世界でそれを見つけた。そして一つの手記を見つけた。

 

 手記を読めばそれが世界を滅ぼしたものだと理解できた。

 そしてそれが他の世界さえも滅ぼしてしまうものだと理解できた。


 自分しか知らない爆発物が

 自分に手しか届かない場所にあったとして

 自分はそれを見なかったことにできるだろうか。

 いずれ世界を巻き込み爆発するであろうそれを放置できるだろうか。


 決して何かに選ばれた訳でもなく、世界を救う力を与えられた訳でもない

 ただ、世界を渡り歩くだけの男にはあまりにも重すぎる大きな荷。


 男はそれを拾い上げた。見て見ぬ振りをする罪悪感に押し潰されて。

 男はそれを放置できなかった。


 男はただ善良で弱かった。

 故に男は悪役になった。



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