外伝第5話 とある愛の歌
その歌は私の母から引き継いだ歌。
私の母はお婆ちゃんから、お婆ちゃんはひいお婆ちゃんから、先祖代々語り継がれて来た長い長い歴史を持つ歌。
小さな頃からずっとずっと母から聞かされてきた。
その歌にどんな意味があるのかは分からないまま聴いてきた歌は、気付くと自然と口から出てくるように記憶に染みついていた。
その歌はとても優しくて、聴いているだけで心が暖かくなる歌。
どうしてこのお歌を聴くと心が暖かくなるのだろうと、幼い頃に母に聞いた。
「このお歌はね、みんなに愛を伝える為のお歌なの。だから、聴くと心がぽかぽかするのよ。」
愛ってなあに?
物心つく前の私には分からなかったが、母は優しく教えてくれた。
「大好きって気持ちのことよ。」
愛とは、大好きという気持ちのこと。
子供心ながらにそれはとても素敵な事だと思って、気付くと私はいつでもこの歌を口ずさんでいた。
この歌を歌えば、世界はたちまち明るくなるようで、どんな時でも世界が愛おしく見えてくる気がした。
もう少し大きくなった私がこの歌の不思議な歌詞に興味を持って、母に尋ねてみた。
母は困った様に答えた。
「実は歌詞の意味は母さんも知らないの。とてもとても古い言葉らしいのだけれど。」
歌はとても古い時代から語り継がれて来たもので、その歌詞に連なる言葉は古い時代の言葉であり、意味までは分からないのだと母は言った。
変なの、と思ったが、同時に不思議で素敵なことだと思った。
言葉の意味が分からなくても、この歌は時代を超えて、変わらぬ愛を伝えてくれる。
その頃から私はこの歌により強い興味を持ち始めた。
大きくなった私は、この歌についてもっと知りたくなってお婆ちゃんに尋ねた。
お婆ちゃんも詳しくは知らなかったのだが、母には教えられなかったことを教えてくれた。
「この歌は、デッカイドーがまだ雪に覆われていなかった頃から、暖かい陽気に包まれていた頃から歌われていたんじゃ。」
そんな頃があったという事すら私には驚きだった。
「世界から人々に向けられた愛を、人々から世界に向けた愛を伝える、橋渡しとしてこの歌が歌われたのだそうじゃ。」
大好きの気持ちを伝える歌というのは本当だった。
しかし、それは誰かから誰かにという小さな関係性ではなく、もっと大きな、全てを繋ぐための大きな愛だったのだ。
大人になって、私にも子供が生まれた。
とても可愛らしい、私の愛しい娘。
子守歌として歌うのは、母から引き継いだこの歌だ。
祖母が亡くなる前に、歌に興味を持っていた私に教えてくれた。
この歌の歌詞は祖母にも分からないけれど、この歌の名前は分かるのだという。
その歌の名前は、かつてあった暖かい世界を表す言葉から取られたらしい。
この子がみんなを暖かい気持ちにできる人になりますように。
そんな願いを込めて、私はこの子の名前を決める時に、歌から名前をもらう事にした。
「あなたもこの歌を覚えてね、ハル。」
その歌の名前は『ハルのうた』。
昔々に紡がれた、とある愛の歌。
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