第24.5話 アキとナツ




 ある日、ナツの自宅をノックする音が鳴る。

 普段誰も尋ねてこない家の突然の来訪を、ナツは不思議がりながら扉を開いた。

 そこに立っていたのは……。


「突然すみません。」


 見下ろす程に小柄な少女、ナツと同じ勇者の一人、アキであった。

 ナツは心の中で驚いた。


(ど、どうしてアキが!? やばい、服着るの忘れてた!)


 上半身裸のまま応対してしまったナツ。

 以前に魔王に相談した際(第21話参照)、アキに避けられるのは「服を着ていないのが悪いんじゃないか」と助言を貰った。

 それなのに、油断していて再びアキの前に上半身裸で出て行ってしまった。


 やらかした。無表情のまま冷や汗をだらだらと流すナツ。


「あの……少しだけ話せるでしょうか。」

「あ、ああ……。」


 しかし、意外な事にアキは特に嫌な顔をすることはなく、どこか照れ臭そうな、緊張した面持ちで話しかけてきた。

 そもそもここに尋ねてくるのが珍しい事である事に今更気付き、ナツはますます混乱する。

 アキはぎゅっと抱き締めていた包みをナツの方に付きだしてきた。


「あの……これ……。」

「………………これは?」

「これ……受け取ってください!」


 ナツは戸惑いながらも、アキの差し出した包みを受け取る。

 そして、アキはすぅっと深呼吸をしてから、ナツの顔を見上げて口を開いた。


「ずっと前の事、ですけど……! 私の事を守ってくれたのに、『余計なお世話』なんて言ってしまって……ごめんなさい! それから……あなたの事をずっと避けてしまってごめんなさい! あのときは……守ってくれて……あ、ありがとう……ござい、ますっ……!」


 必死に顔を赤くしながら、半分涙目になりながらアキは大きな声で、一息に言いたい事を言い切る。


「そ、それ……お詫びって訳じゃないけど……良かったら、使ってください……。それと、これからも、同じ"勇者"として……よろしくお願いします。」


 ふぅふぅと息切れしながら、全てを言い切ったアキ。

 ナツはアキの言葉を聞いて、彼女の顔を見下ろしながら答えた。


「……俺こそごめん。アキが守る必要がないとは知っていたが、咄嗟に身体が動いてた。……俺、鈍いからアキの気持ちに気付けていなかった。……これ、有り難く頂くよ。……これからもよろしく。」


 ナツは普段から余計な言葉を話さないように口数を減らすように心掛けていたが、今回ばかりは出来る限り自分の言葉でアキに返事を返した。アキが必死に伝えた言葉に、一言二言で応える事はできないと思ったからである。

 その言葉を聞いたアキの緊張した表情はようやく緩んで、安堵の笑顔へと変わった。


「……じゃ、じゃあ、今日はそれだけ言いたかっただけので。……これで失礼します!」


 そう言って、アキは一礼してからそそくさとナツの元から去って行った。

 ナツは何度か振り返りながら走って行くその小さな背中を見送った後、自分の家へと戻る。

 ナツもどうにかしないといけないと思っていたわだかまりを、アキの方から解消してくれた。しかも、贈り物までくれて。

 ナツは素直に嬉しく、有り難く思った。


(今度は自分も何か返さないとな……。)


 そんな事を考えながら、今貰った包みを早速開くと、そこには服が入っていた。


(えっ、服……? これ着ろって事か……?)


 そして、ナツは気付く。


(ま、魔王に言われた通りだった……。やっぱり服は着た方がいいんだな。)


 魔王のアドバイスが正解だったのだとナツは理解した。


(ありがとう魔王……俺、これからはちゃんと上着着るよ……。)




 誤解は誤解のままだったが、なんだかんだ丸く収まったようであった。




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