第1話 死んじゃった!後編

あれから男は少女たちとその仲間の家のようなところに案内され、

そしてそこでいくらかの話を聞いた。


男達のいる世界が異世界に住まうある男性の精巣の中であること。

男や少女ら精巣の住人は例外なく「精子」で、大きく分けて男と同じように現世で死に運良く転生してきたものと「新しく生まれた命」であるものの二種類が存在すること。

うち転生したものはみな前世の記憶があること。

ちなみに精子達が以前生きていた世界線はみなバラバラであり、唯一の共通点としていずれも今の父親が住まう世界線とは別のものらしい。

そして最後にこれらの情報は飽くまで先客の精子達が考察し導き出したものであり精巣の中はまだ未知の要素が多いこと。


少女は偶然にも生前男と同じ世界線にいたらしく話が弾んだ。とはいっても少女が話してばかりだったが。


「ゴメン、自分のことばっかり話しちゃったね。そういえばさ」

少女は男に語りかけた。


「あなた、自分の名前って覚えてる?」


何を馬鹿なことを。男はそう鼻で笑い名前を言おうとしたが、


言葉が詰まった。頭を抱え、草むらをかき分けるが如く脳内の記憶という記憶を漁りまくったが一向に思い出せない。


「やっぱり!?私も覚えてないの!ていうかみんなも全員!

生前の記憶はちゃんとあるのに不思議だよね...意義もよく分からないし...ま、確かに生まれ変わる以上もう必要ないのかもしれないけど。

だから仲間内ではみんなであだ名つけて呼び合ってるの。あ!ねぇねぇ、あなたにもつけてあげよっか?」


少女はいたずらっぽく微笑みかけた。が、男は頭を抱えたまま動こうとしなかった。



「....ねぇ?」


訝しげに顔を覗き込む少女をよそに、男は記憶を掘り起こしたときに直視した事実を痛感していた。








(俺、死んだんだっけ。)


いや、そのことは重要ではない。








(俺、なんで生まれ変わっちゃった訳??)



たとえ陰嚢の中だろうと現実を生きることなどもうこりごりだった。

楽になりたかったのだ。


(精子だ?じゃあ...あれか?いじめの次は1個か2個の椅子を巡って...)




「数億と殺し合いでもするのか??」


最後の一言は口を突いて出てきた。自分でもそれが予測できず男は咄嗟に顔を上げた。その直後に地雷を踏んだかと確信し、後悔した。

彼らの異様なフレンドリーさの中で「我々の行く末」についての言及は何よりのタブーだったのではないか。


「うん?」

少女はきょとんとした様子で首をかしげた。

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