第1話 死んじゃった!前編
男が最初に聞いたのは、大勢のざわめきだった。
未だ不明瞭な意識の中でもなんとなくわかる。
多い。相当な数の人々が一箇所に集まっている。
ただ事でない状況だと理解する程周囲のざわめきはそのボリュームを増すように思えた。これだから人混みは嫌いなのだ。
「あっ気がついた!」
耳障りな甲高い声が左耳をつついた。女だ。男は横たわったまま気だるげに声の方向へゆっくり振り向き重い瞼を開けると、
やはり一人の少女がしゃがみこんで顔を覗き込んでいた。
その背後にも数人の男女が男を取り囲んで様子を窺っている。その更に後ろにはこれまた思った通り大勢の人影が見える。落ち着いた様子のものもいれば不安げに周囲の人々に状況の説明を求めているものもいた。
しかし彼らは、そして彼らの立っている世界はどこか奇妙だった。
言うなら、あらゆるものが白い。男自身の倒れこんでいる場所が舗装された道路らしいことや彼らの表情、顔つきを判別することができたのは、それらの異常に黒く濃い輪郭線のおかげだろう。
おもむろに視線を下ろし自分の胴や両手のひらを見た。同じだった。身体だけでなく首を吊ったときに着ていた焦げ茶色のスウェットも無機質な白色になっている。
はっとして思わず空を仰いだ。例に漏れず白一色だったが、ほんの少し赤みがかって見える。
「こっ!!.........
...ここ、は?」
どう考えても地球上の光景ではない。男は狼狽し吃りつつも目の前の少女に尋ねた。母以外の異性とはいつぶりの会話だろうか。
少女は出で立ちもまた奇妙だった。目鼻立ちこそ愛らしいが、髪はごっそりと抜け落ちむき出しの頭皮には柔らかい産毛がただ僅かにのっているのみである。
「えっとねー。多分、だけど」
少女は薄い肌色の空を見上げるとこちらに向き直り、
「ここは『きんたま』の中で、
私たちは『せいし』なんじゃないかな」
なに食わぬ様子でそう続けた。
「...は?」
男は呆然とした。
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