異世界転生したと思ったらまずは受精しなきゃならなかったぜこん畜生!!!!!

スーパードライ

プロローグ おしまい

夏の昼下がり、抜けるような青空、街を覆い尽くす蝉の鳴き声、気が滅入るほどにさんさんと輝く太陽、子供達の笑い合う声。


それらの一切を拒絶するかのように分厚いカーテンが締め切られた男の部屋は、星一つない曇った夜の如き暗さだった。

この数年間、この男の部屋の夜が明けたことは一度もない。

随分前に最終回を迎えたらしい漫画の単行本、栗の花のような不快な臭い、自分の臭いが染み付いたカビっぽいベッド、長いこと放置されている菓子の袋、ホコリ、PCのモニターの光。

それがこの部屋の、この男の全宇宙だった。


そう、彼は所謂引きこもりである。


理由はごくありふれたものだった。高校時代壮絶ないじめを受けたのである。

原因はよく覚えていない。いや、そんなものどうでもいい。切っ掛けなど何だっていい。いじめとはそういうものだ。

ともかく苦に男は自分の世界へ引きこもった。


当初、高認を取り大学には行くと両親には話していたが、彼は原来努力が長続きしないタイプの人間である。

そうして18の頃、恐る恐る勉強の進捗を尋ねてきた母親を平気な顔で裏切った。

それからというもの男はタガが外れたように穀潰しへと身を堕としていったのだ。


男はそんな昔のことを思い出しながら、大好きな深夜アニメを海賊版サイトで全話見返している途中であった。

時折画面が暗転し、モニターに自分の顔が映るがその都度見なかったことにした。

ニキビが多く髭が伸びた、それに関わらずひどく幼い表情の見るに堪えない醜い顔である。


モニターの向こう、美少女キャラクター達が卒業証書を片手に学校を後にするシーンを見終えると、男はラップトップを閉じ天井を見た。



ついに一点の明かりもなくなった部屋の天井の中心には吊られた麻縄と、その直下に小さな踏み台が置かれていた。




男は俯くと暫く動こうとしなかった。

何分、何時間そうして固まっていたか分からない。天井にかけられた時計は秒針の音だけがひどく鮮明に聞こえた。


しかし、やがて男は吸い込まれるように踏み台へと歩み寄ると、そっと右足を乗せた。


バランスを崩さぬよう慎重に左足を乗せ、震える手で縄を首にかけると、




一思いに踏み台を蹴った。



誰かの声が響いた。

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