第六十四話 参集 その5

ヒューミント、オシント担当以外の面々はスクリーン横にいる俊の下に集まっていた。

 「じゃあ、俺はなんかあった時のサポートでいいのかな?まぁ大学の推薦が取れれば完全にフリーだから色々動けると思うけど」

 吉川は俊に自分がどのように動けばよいのか確認した。

 「そうですね。何か困ったことがありましたら連絡しますので」

 俊は吉川の問いに答えると、生徒会役員共に目を向けた。

 「頑張っていただきたいのは生徒会の方々ですね。会長の方は引き続き交渉関連のスキル向上をお願いいたします。副会長の方は私と一緒に情報分析のスキル向上を目指しましょう。あと二人には諜報員がどうあるべきかが書かれている本も読んでいただきたく。マインドセットのために必要です」

 俊の発した言葉に神本が挙手をして問いかける。

 「マインドセットって心構えみたいなものでしたっけ?」

 「ざっくりいうとそんな感じかな」

 「諜報員の心構え……一介の高校生には大層すぎて」

 神本が恐縮していると俊は説明を続ける。

 「確かに諜報員は様々な厳しい訓練を乗り越えているけど、情報収集や分析に関しては異次元なことをしているわけではなくて、一般人にだってできることなんだ。ただその一般人でもできることでも諜報員としての心構えが必要となる」

 「その心構えとは?」

 神本が神妙な面持ちで質問すると、俊は神本の感情とは正反対で非常にカジュアルな言い方で答えた。

 「『誠実』であることだよ。かつて存在していた日本陸軍の中野学校は諜報員の養成学校であったけど、中野学校でも『誠実』であること重要としているし、CIAも同様に重要視してる。あと、米軍統合参謀本部が発行している『統合インテリジェンス』では、分析は『情報に対する誠実さ』が必要と書いてある。インテリジェンスには誠実さは欠かせない」

 俊の説明に対して、神本たちは首を傾げた。

 「え、諜報員ってスパイとかですよね?人を騙したりするんじゃないんですか?誠実さとは真逆では?」

 神本の質問に対し、俊は笑みを浮かべて答える。

 「よく聞かれる質問だね。騙しているのは自分の身分や本当の目的だけでそれ以外は誠実な対応をしているよ、騙すというより隠すってイメージかな。普通は最後まで隠し通すらしいけどCIAは例外で協力者として勧誘する場合に、CIAであることを明かすらしい。この明かすタイミングを失敗して協力者に逃げられたりもするらしい。普通の諜報機関は明かさない」

 「なるほど、そうやって自分を偽装しつつ誠実さを用いて情報を得ているわけか。じゃあ面接とかでうまくいく方法とかあるかな?俺は推薦入試だから面接重要だし」

 俊の説明を聞いた吉川が食い気味に割り込んできた。

 「ありますよ。そうですね、そこらへんはヒューミントテクニックになりますから、真紀……石光と青木も詳しいですから。私もある程度お教えできますよ」

 「いや、彼女らに色々教えてるのは君だろ?ある程度とか謙遜しすぎでしょ?」

 吉川が苦笑しながら突っこみを入れた。

 「青木の引っ込み思案とか勉強できないとかは、インテリジェンステクニックを教えて改善したところはあります。でも本当にちょっとしたことを教えただけです。そのテクニックを理解する地頭や応用するセンスがなければあそこまでうまくいかなかったかなと思います。正直言ってしまうと、インテリジェンスのテクニックが通用するのか試したかったってところがありますね」

 俊の説明を聞いた吉川は再び苦笑して口を開く。

 「なるほど、悪い言い方をすれば俺たちは実験台ってわけか。まあ、多大なメリットを得られるから全然かまわないけどね。それにしてもぶっちゃけたね」

 吉川の言葉に対して、俊は笑顔で答える。

 「先ほど言ったように、インテリジェンスには『誠実』であることが必要不可欠ですから」

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