第五十一話 問いの設定
《今度、俊君の家行くときは事前に連絡するね。お義母さんと俊君の三人でお菓子作って食べよう。お義母さんも喜ぶと思うよ》
石光が完全に母親を攻略しにきているが、俊はそれを阻止する方策を考えられなかった。石光の工作は冴子にとってメリットしかない。同じ趣味を持ち、なおかつ気心も知れている少女と楽しい時間を共有できる。その少女が息子と同じクラスであるのであれば、学校で友達の居ない息子の数少ない友人になってくれるのでは、と期待も抱いてしまう。俊が石光を遠ざけようとすれば反感を買うのは避けられない。
〈都合が合えば、考えておく〉
俊は返信してからベッドに寝転がって今後の対策を考える。
(このまま対策を講じなければ、石光は母さんの信用を勝ち得て、俺ん家に出入りしたい放題だ。この家は俺のセーフハウスではなくなる。だが、最終防衛ラインである自室だけはなんとか守り抜きたい。どうする?家に進入してきた石光の過干渉を回避する方法だ。……そうだな、『石光にあんまり気を使わせるな』でいってみようか。母さんが、俺が高校で友達が居ないから心配と石光にいっていれば儲けものだ。『石光さんに気を使わせるようなこといっただろ?せっかく同じ趣味で知り合えて楽しくやっているのに……関係悪くしたくないから石光さんもそれに応えないと、って思ってしまうだろ?』で、いけそうだな)
一応の対策を考えた俊は、リビングから持ち帰った本を本棚にしまうと机の上に置いてあるノートパソコンを起動し調べ物を始めた。
一方、石光は震えが止まらずにいた。徹底的に調べ上げ、計画を練り、自分の思い通りに事が進むことにある種の快感を覚えていた。
(なにこれ?すごい。こんなに事がうまく運ぶなんて。それにしても……お義母さんと話合わせるにはお菓子作り学ばないといけないし、俊君とはインテリジェンスの勉強しないといけないって約束してるし……小野寺家に対する労力が……)
小野寺家への進入する作戦はうまくいったものの、俊と冴子への二正面作戦は石光のキャパをオーバーしていた。
(お義母さんはともかく、俊君は絶対何かしてくるだろうから考えておかないと……強引なやり方はしないだろうけど、お義母さんとの交友を引き裂かれることは防がないといけない。でも、俊君が何を目的としているのかを考えないと的外れになりそう。そもそも、俊君は何故私を避ける?そこからしっかり考えていけば、答えが見つかるはず)
石光は現状の二正面作戦では綻びが生じ、すべてが水の泡と化すため、効率よく俊への対応をしなければならないと対策を考える。
俊君は何故私を避ける?
・男女の仲にならないため
理由1 私からの情報を正確に判断できなくなる。
理由2 男女の仲になってしまうと縁切りが難しくなる。
別れた場合、怨恨から工作をばらされる可能性がある。
・自分の時間を確保するため
理由1 勉強や遊びの時間が少なくなる。
理由2 休む時間が少なくなる。
・俊君の工作が私によって邪魔される可能性があるため
理由1 直接ではないが私が俊君に啖呵を切ったから
理由2 私が冴子さんと交友を結んだにも関わらず事前に連絡が
なかったから
石光は俊が自分を避ける理由を考えられるだけ挙げてみて頭を抱え込んだ。
(あああああ!……これじゃあ、ダメだ。信頼は得られない。そもそも啖呵切ってるところから誤解をちゃんと解かないと。そこを何とかしなければ、いくらあがいたって駄目だよ……どんなに本心から好きっていったって、俊君からしたら『それって、ハニートラップの一種でしょ?そんなこといってまとわりついて邪魔するんでしょ?』としか思われない!……やばいやばいやばい……さっきのメッセージだって挑発にしかならないよね。あっちからしたら、お前のやることに干渉してやるぞって宣言してるようなものだよね……)
石光は急いでスマートフォンを手にし、メッセージを送る。
《さっきのは無し。俊君の時間を取るようなことはしないから。……本当にごめんなさい》
メッセージを送った石光は自室のベッドに飛び込んで枕に顔を埋めてため息をついた。
俊は送られてきたメッセージを読み、唐突な謝罪に疑問を隠せなかったが返信をする。
〈よくわからんが了解した〉
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