第四十七話 テスト対策
石光は俊から貸してもらったCIAの嘘を見抜くテクニックを書かれた本のとおりに小島が欺瞞行動をしていて、あまりにも面白かったので帰宅してからSNSでメッセージを送った。
〈小野寺くんから貸してもらった本、今日は非常に役に立った。嘘つきの行動がどういうものか分かった〉
スマートフォンがバイブレーション機能でメッセージ着信を報せると、俊は今まで続けていた筋トレを中断し、端末を手に取った。
(石光からだ。必要最低限しか連絡してこなかったのに何だろう?前回連絡からスパンが短いな…)
石光から送られてきたメッセージを見た俊は淡々と返信をしたためる。
《それはよかった。こんなふうに色々つかえるから、ヒューミントは学んでいくのは面白いと思うよ》
〈うん、そうする。で、ちょっと困ったことがありまして…〉
《何?》
〈そっちのほうを勉強しすぎて、中間テストの方が…〉
そのメッセージをみて俊は呆れていた。
《まぁ、協力してもらっているし試験対策でもしようか。》
〈この前、テストの出題傾向がわかるっていってたもんね?〉
《その通りだけど、テストだけの勉強で終わらせるのではなく基礎的な力はちゃんと付けた方がいい》
〈何それ?お説教?〉
《嫌ならこの話はなかったということで》
〈ごめんなさい〉
《わかればよろしい》
〈人目のつくところでは出来ないから小野寺君の家でだね。あとインテリジェンスの本も借りたいし〉
《じゃあ、貸会議室を借りておく。必要な資料はこちらで用意するけど、そっちも教科書とか参考書は持ってくるように》
石光の提案を普通にスルーして、俊は勉強会のスケジュールを提案した。
(ちぇ……普通にスルーされた。まだ駄目か、お宅訪問にはまだまだ時間が掛かりそう)
ここしばらく協力的で大人しくしていた石光であったが、ここぞとばかりに攻めてみたもののうまくいかなかった。
俊は貸会議室を週3回、3時間で予約し、みっちりテスト対策をすることにした。いつも通り、石光と接触していることを学校の誰かに目撃されないよう、貸会議室までは別々のルートで集合し、到着時間もずらした。
(普通だったらさ、二人で肩を並べて駄弁りながら集合だよねぇ。趣もへったくれもない……)
石光が心の中でぼやきながら貸会議室に到着すると、学校の制服から私服に着替えた俊が現れた。
「あれ?小野寺君、着替えたの?」
「ああ、出来る限り偽装はしたほうがいいからね」
(徹底してるよなぁ……)
石光が呆れているような感心しているような何とも言えない表情で俊をみつめた。
「あ、そうそう。まずはこれでも」
そういって俊がバックパックからチーズタルトを取り出した。
「え?これ小野寺君が作ったの?」
「いや、母親の趣味が菓子作りでね。余ったのを頂戴してきた」
「へえ~、これかわいい。写真撮って良い?」
「別に構わないよ」
石光が写真を撮った後、菓子を平らげてから中間テスト対策を開始した。俊が資料を石光に渡すと解説を開始する。
「数学の過去5年間の中間テスト過去問だ。基本的な出題傾向は変わってないし、問題はこのマイナーな参考書の問題を参考にしていることが多いから、この参考書の問題も解いておくといい」
「この過去問を手に入れたのも、問題がマイナーな参考書が基に作られていることもインテリジェンスの手法でわかったってこと?」
俊の詳細な説明を受けた石光はその情報をどうやって入手したのか確認してみた。
「まあ、そんなところ」
「諸先輩方の弱みを握っては脅していたと」
「失敬な、協力してくれた方々は快くお願いをきいてくれたよ」
「うん、知ってる。脅してもいい情報は得られないもんね」
「冗談か、じゃあ勉強を続けよう」
その後、俊は各教科の過去問や出題傾向を徹底的に石光に教え込んだ。テスト実施日まで1週間半を切っていたが出来る範囲のことはやった。
テストの結果は上出来で、石光はどの教科でも90点以上を取り、苦手な理系教科ですら例外ではなかった。テストの結果が返ってくるたび、俊は石光からお礼のメッセージが届いていた。苦手な理系教科であまりにも良い点が取れてしまったので石光はにやけてしまっていると、辻と小島が寄ってきた。
「真紀、テストの結果どうだった?」
辻が石光に質問すると、えー…と言いながら石光は無難な回答を考える。
(点数は教えない。普通だったと答える。相手が見せつけようとしても見ない。)
「普通だよ。平均ぐらいかな?」
「その割には、にやけてたけど?」
「いや、ちょっと別のことで思い出し笑いしちゃったから堪えてただけだよ」
「ふーん」
それ以上の追及がなかったため、辻と小島に点数を伏せることはできたが、私大推薦を狙っている小島に知られたら面倒なことになるのは容易に想像できるので、難を逃れることが出来た。
(小野寺君は全教科満点なんだろうなぁ)
石光は俊のテスト結果が気になってにSNSでメッセージを送るとすぐに返事が返ってきた。
《大体70~80点ぐらいかな?》
俊の答えに意表を突かれた石光は何かの冗談だろうとおもって確認する。
〈またまた、ご冗談を〉
《本当だよ。結果を見たいなら今度見せるよ。俺本番に弱いんだ》
俊の返信を見て石光は思考を巡らす。
(本番に弱い?絶対嘘だ。体が一回りも違う藤原君と対峙して倒すぐらいだから肝が据わってないわけがない。……あ、そういうことか)
石光は自分の中で導き出した結論をSNSのメッセージにしたためた。
〈昼行燈でクラスカースト下位を演じるため?〉
《ご想像にお任せします》
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