第四十五話 秘密戦は至誠なり

 「さて、話は済んだことですし、そろそろ帰りますかね」

 喫食がひと段落し俊が暇を告げると石光は、えー!?と不満そうな声を上げた。

 「デートはこれからでは?」

 「いや、ちょっと何いってるのかわからないです」

 石光の発言に対して俊は小首を傾げながら切り返した。

 「今の私たち、どっからどう見ても端からみたらデート中の二人だよ」

 「まぁ、確かにそうかもしれませんが、赤の他人にどう見られても実害はありませんから。それにしても、さっきから積極的ですね」

 俊は先程からの行動に対して疑問を呈すと、石光はむすっとした顔で答えた。

 「……だってさ、連絡先交換してるけどさ……本当に返事くれる?それに会う約束して本当に会ってくれる?」

 石光の不満を聞いた俊はテーブルに頬杖をついた。

 「……ま、信用されてないってことですね。仕方ないっすねぇ。まぁぼちぼちやっていきますか」

 俊のそっけない態度から、見限られたと思った石光は必死に取り繕う。

 「え、あ、いや、その、そういう訳じゃなくて、ほら……」

 「いや、まぁ、お互い信用できてないから、こんなことになるわけで。君を責めてるわけじゃないよ。俺にも至らないところがあるからだし。せっかくだから、ヒューミントのコツというか、旧日本陸軍の諜報員養成機関であった中野学校やCIAでも誠実であることを求めてたんだよね。これは信用されるためなんだ。信用されることで情報を得ることができると考えられているし、実際そうだと思う」

 石光は俊から見限られていないことがわかり、胸をなでおろした。

 「……なるほど。じゃあ、私はヒューミントを学んで情報収集すればいいんだね」

 石光が唐突に物分かりがよくなったので、俊は拍子抜けした。

 「確かにそうだけど、大丈夫?」

 「じゃぁ、私がインテリジェンスを学ぶための資料とか本とか貸してもらえれば助かるかな」

 「わかった。配慮する」

 「ありがと」

 石光は少し首を傾げて微笑んだ。対照的に俊は石光がトーンダウンしたことに怪訝な表情となった。


 (信用されるには結果を出していくしかないよね。小野寺君にとって重要不可欠な存在になれば、ずっと一緒にいられるわけだし。小野寺君が私の過去を調べてたように私も小野寺君について色々調べるしかないね。焦りは禁物、ゆっくり着実に)


 その後、俊は辻や藤原のときと同じように、石光と別々に帰宅した。帰宅してからはいつものようにスカイプを起動し、山下との会話を始め、本日あった一部始終を説明した。

 「というわけで、石光にはインテリジェンスについて学んでもらい、こちらのエージェントとして情報収集してもらおうかと」

 『敵になるぐらいならこちらから積極的にコントロールするってわけだね』

 「そういうこと。初めからこちらのコントロール下に置いておけば、リスクは少ない。ただ、俺と山下との協力関係については一切説明していないので、気を付けるように。石光は我々が協力関係にあることを疑っているので十分に注意されたし」

 『……気を付けます、尾行とか色々』

 「あとはいつも通りでいいから。昼休みは柿崎と教室の外へ繰り出してオタトークでも楽しんでくれ。そのためにフリースペースを用意するよう甘粕先生に依頼したんだから」

 『その件の確認なんだけど、甘粕先生がいじめ対策に用意してくれたってことでいいんだよね?それで甘粕先生も了承してるんだよね?』

 山下が少し心配そうに確認すると、俊は優しく笑って答えた。

 「大丈夫だよ、先生も了承済みだ。心配なら直接先生に確認してみるといい。こちらからも山下が心配しているから直接確認しにいくかもと伝えておく。甘粕先生には、俺と山下は協力関係にあることは伝えてあるが、それぞれの役割については伝えていない。もし、先生が聞いてきたとしても、小野寺から口止めされていると伝えればそれ以上は詮索しないさ」

 『わかった。それにしても、小野寺君のお陰で助かってる人はかなりいるよね。僕も助かってる、ありがとう』

 「たまたま助かってる人のほうが多かっただけだ。次は助かってない人のほうが多いかもしれない。そうなったら俺は血祭にあげられるだろうが」

 山下が感慨深く礼をいうと、俊は淡々と答えた。

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